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1-6 メネの魔術

 

「撃て!そこの獣耳族だ!さっさと構えろ!」


 隊長らしき男の号令で気の抜けていた兵士の様子がカチリと変わる。

 腐っても“陸”の役人。

 示し合わせていたかのように銃口が一斉に向いた。


「へへっ、無駄ですよ!!」


 地を蹴り即座にその場から飛び退く。

 すぐ後に、さっきまでいた場所に魔弾が着弾した。

 見てからじゃ避けられない速さだ。

 だからこそ、ワタクシがこの役を買って出ている。


「隊長っ!当たりません!」

「獣耳族は引き金を引く動作を見て避けている!当てようと思うな!牽制のために撃て!」

「っ……よくご存知で」


 獣耳族の眼。

 それは生物の些細な動きさえ見逃さない。

 相手はそれに気づいているらしい。

 加えて、こちらは兵士が何をしてくるのか完全に分かっていない。

 動きが把握されるのは都合が悪い。


「かくなる上は!」


 蹴り倒した兵士の機杖(ワンド)を手に取り、兵士へと向けた。

 使い方はメネちゃんから聞いている。


 一呼吸、そして指を引いた。


 ビ ギ ュ ン !!


 だが、放たれた魔弾は狙った標的を逸れ、後ろの飛行船の装甲にぶつかった。


「へ、惜しい_______________!!」

「おい止まったぞ。撃てぇい!!」


 軽率な反撃に手痛いお返し。

 数発の魔弾がワタクシに向かって飛ぶ。

 避けられない、だがその全てが当たるものではない。

 瞬時に命中する弾を見極め、その通り道に機杖(ワンド)を構えた。


「……!!」


 持つ手に走る鋭い衝撃。

 やがて耐えきれなくなったのか、手に持っていた機杖はバキリと折れ砕けた。

 凌ぎきったワタクシの姿を兵士の皆さんは驚愕の表情で眺めた。


「っと……ふぅ、危なかったですね」

「おい!船内で動ける奴全員呼んでこい!この亜人は一筋縄ではいかん」

「それはどうも。ところで今日そちらは何人でいらっしゃいました?」

「黙れ亜人が。その余裕、今すぐに無くしてくれる」


 踊るかのようなフットワークでかわしながら、不敵に笑んでみせた。

 ワタクシと、更にメネちゃんがいるとあちらは思っている。

 1人に対して5人がかりでも仕留めれないとなれば当然焦るだろう。

 作戦通り、警戒度を上げることは成功したようだ。


「!!ふふふ、まあ!たくさん連れていらしたのですね!」


 船からゾロゾロと降りてくる兵士達。

 ざっと数えても10は超えている。

 十分だろう。

 (きびす)を返して、後方の森へと走っていった。


「ふふふ!捕まえてごらんなさい!陸の皆様!」

「森に走ったぞ!逃がすな!!」

「ふ、ふふ……へへへ」


 震える声。

 さっきまで機杖(ワンド)を握っていた手に全く力が入らない。

 武者震い?否、それが恐怖から来ているのだと自分が1番分かっている。


「へへ……大丈夫。できるわワタクシ。有言実行よ……!」


 呪文のように唱えながら走った。

 1人だけじゃないと、託している2人を信じながら。


 〜〜〜〜〜〜


「あー、ダル……」


 島の到着した後の船内にて。

 1人の兵士が呟いた。

 島にいる獣耳族と長耳族、これらを捕獲するため船内にいた兵士達は軒並み外へと出ていった。

 飛行船に残ったのは、出発の準備をするため制御盤を見張っている1人のみ。


「亜人2人に兵士15人って。魔力なしってつくづく無能なんだな……」


 船内唯一の魔力持ちであった兵士は面倒そうにボヤいていた。

 魔力を持つ者は“陸”では高い地位で扱われている。

 こうして動かなくても、船内では誰に咎められないのであった。


「てかやっぱこの島、報告じゃ木なんてまともに生えてなかったじゃねぇか。仕事が雑なんだよな魔力持ってねぇの連中はよお……」


 コツ コツ コツ コツ


 そんな彼の背後から、ゆっくりと近づく足音。


「んあっ?!あ、すいません聞いてまし_______________」

「動くな」


 ヒヤリと冷たい感触。

 男の首に短剣が突きつけられていた。

 持ち手を辿ると、そこには男の想像していない顔があった。


「な、長耳族」

「口も動かすな。私の質問にだけ答えろ」


 突然の事態に男は唾を飲んだ。

 逆らえば殺す。

 そう言っているかのような雰囲気を、長耳族の女はかもし出していた。


「まずこの飛行船。私でも動かせるのか」

「う、動かせる」

「動かし方、この船に出来ること、諸々教えて」

「え、えと、船の裏側に制御盤ってやつが……」

「言っとくけどこの手のモノはある程度知ってるから、嘘言ったらすぐ分かるわよ」

「……!」


 首元の短剣がわずかに刺し込まれる。


 _______________なんで魔力持ちの俺がこんな目に。

 今回も楽に仕事をこなして金をもらう予定だった。

 あの無能どもが手こずってるばっかりに。


「こ、この目の前で光ってるのが制御盤です」

「んなもんみりゃ分かるわ。操作の仕方教えろっての」

「き、基本的な操作は自動でやってくれるので、行先とかを説明書で設定する、だけです」

「ああなるほど。ほんとに誰でも出来るわけね」

「あ、貴方様は飛行船を使って何を……」

「質問するな。殺すわよ」


 プヅッ、と尖った先が皮膚に穴を空ける。


「ひ、ひいィィ!!」

「情けない声が上げてんじゃないわよ。とりあえず、何か大きな音出せない?降りる時のオオオオーーってやつでもいいから」

「き、汽笛……?それは_______________」


「あああ……いってぇ、あの、クソ獣耳族が!!」


 イラついた声。

 船内の降り口から聞こえてきた。


「っ!!動かないで!!」

「ああ?」


 メネは男を捕らえたまま即座に振り向く。

 見るとそこには、ノルンに蹴り倒された兵士が上がって来ていた。


「動かないで。動いたらコイツ殺すから」

「ひィっ!!ち、ちょっと何とかしてくださいそこの人!!」

「……おおっと。坊ちゃんがお捕まりなさってる」


 軽い調子で兵士は手を上げた。

 と思うと何かに気づいたのか、すぐに船内にあった機杖(ワンド)を持ち、メネに構えた。


「動かないでって!!」

「無理。船奪われちゃあ、こっちも立つ瀬がないんでね」

「……この男に当てず、私に当てる自信でもあるの?」

「これは当たっても眠るだけだ。なら?撃ってもセーフ」

「あ、当てないでくださいよ!」

「はいはい。事が済んだら可愛がってやるからな。可愛い長耳のお嬢ちゃん」


 軽口を叩きながら、兵士は照準をじっと定めている。


 思いのほか兵士は冷静。

 だが、すぐに撃ってこないということは、やはりこの男を殺されたら困るということ。

 冷静ゆえ、考えなしには撃ってこない。


「……。」

「……。」


 ______________________男を殺せば、兵士が撃たない理由は完全に無くなる。

 そうなれば仲間を呼び戻すなりなんなりして、こっちとしては完全にゲームオーバー。

 今はこの状況を維持するしか。

 もしくは……


 ビ ー ッ !!


「え、なに?」

「……でかした坊ちゃん」


『行き先が指定されました。5分後に出発します』


 アナウンスと共に船が駆動を始める。

 注目が外れた隙を狙って、男が手元で何かをしたのだ。


「は、ははは!頭の悪い亜人が!ざまぁみろ!」

「っ、のクソ人間!自分が殺される心配はしなかったのかしら!!」

「ひっ、な、なんとかしてくださいィ!!」


 メネは怒りのあまり短剣をねじ込みかけたが、すぐに止めた。

 船が動く。

 2人がいないのだ、動かすわけにはいかない。

 だが、少しでも隙を見せようものならあの兵士が狙ってくる。


「これを止めなさい。今すぐ死にたくないならね」

「ひっ……ひひひ!ヤダよバーカ!」

「詰みだろ。諦めなお嬢ちゃん。動いたら撃つぜ」

「ちぃ……!」


 どうしようもない。

 何をしても、あの兵士がいる限り私は自由に動けない。

 やはり短剣1本だけでどうにかなる話ではなかったのだ。

 短剣1本だけでは。


「……私ね。魔術使えるのよ」

「あ?なんだ?」

「魔術。ここから離れててもアナタを仕留められるってこと」

「下手なハッタリだな。出来るなら坊ちゃん盾にしたまま既にやってるし、そんな人材がこの島にいるわけねぇ」

「そ、そうだ。長耳族が魔力持ってるわけねぇだろ!」

「でも、あるの。この状況打開する素敵な魔術がね」

「……俺も使えるぜ。かわい子ちゃんをトリコにする魔術(テク)


 兜の奥でウィンクする兵士に対して、メネは左手を向けた。


 所詮ハッタリ。

 だが、メネの妙な自信に警戒せずにはいられなかった。


「見せてあげる_______________」


 くすねた物だから()もあんまりない、本当は使いたくないけど。


 メネは一息に動く。

 その瞬間で動いたのは兵士の警戒していた左手ではなく、右手。


「え」

「は?」


 現れたのは魔術的な光弾、ではない。

 地水火風が込められた力の塊、でもない。

 まさしくそれは、ただの拳銃だった。


「バン」


 乾いた音と共に兵士の膝が貫かれる。

 崩れる身体に容赦なくメネは続けた。


「このアマ……!」

「バン、バン」


 2、3発。

 全弾命中した兵士は呻いたと思うと、その場に突っ伏した。


「は、おい_______________」

「止めて」


 銃口をこめかみに当てられると、男は短く悲鳴を上げ、制御盤を指先だけで叩き始めた。


 気絶しただけ。

 死んではいない、多分。

 だが“陸”が亜人にした仕打ちを考えれば、まだ優しい方だろう。


「……ほら、素敵な魔術だったでしょ」


 震える声と銃身を立ち上る白煙。

 メネは硝煙の臭いに、顔を恍惚に歪ませた。


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