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3-4 対陸

 

「先輩知ってます?最近よく出回ってる猛毒の話」


 “陸”からさほど離れていないとある浮島のとある酒場。

 座している男女2人がそこで話していた。


「猛毒?どういう意味だ。どこで聞けるんだよ毒がよく出回るなんて話」

「いや私もよく知らないんすけど、なんか最近?その毒がよく出回ってるらしいんすよ」

「……ほう?」

「なんでも、見た目は完全にただの水で、成分とかいくら分析してもほんっとーにほとんど水らしいんすよ」

「毒だろう?飲んだらどうなるんだ」

「即死らしいんすよ。飲ませてもぶっかけても何故か死んじゃうらしいっす」

「ちょっとお客さん」


 温度差のある2人組の会話に店主が割り込んだ。

 店主はグラスを拭きながら、困ったように言う。


「飲み食いする場所で、そんな物騒な話せんでくれ。客が逃げちまうよ」

「私達以外客はいないみたいっすけど」

「コラ!……本当にすいません」

「あぁ……気に、するな」


 2人組のうちの男の方は、女の額を無理やりカウンターにつけさせながら謝った。

 それを見た店主の方はバツが悪そうに、作業に戻っていった。


「いつつ、こっちが金払ってるってのになんで頭を下げなきゃなんないんすか」

「馬鹿言え……ていうか、どこでそんな情報仕入れてくるんだ」

「ついさっき騎士様達が話してるのを聞きました」


 カランカラン

 客の入店を知らせるベルの音。

 店主の迎え入れる声が、店内に響いていた。


 〜〜〜〜〜〜


 腹は膨れ、服も普通。

 ここ最近と比べればこれ以上ないくらい、充実した状態で私は綺麗な街の中を歩いている。

 人目を気にする必要も今は無い。

 これが自由か。


「おのれ、確かに好きなだけ食えとはいったが」

「……?ツルギ、どうかした」

「先程の酒場の食事で用意していた資金がほとんど無くなったそうだ」

「そうなの?まあ、何とかなるよ。元気出して」

「くあーっ!原因であるお主に言われても何も響かんわ!」


 落ち込んだ様子で財布の中身を覗き込むツルギ。

 好きなだけ食べたと言っても流石にそれなりに遠慮はした。

 8人前くらいに抑えたはずだが、そんなに困窮していたのだろうか。


「くそぉ……だ、だがマーマがおらねば今頃、空の上でバラバラじゃったろうからな。そのくらい許して……許、して」


 ツルギはやるせない表情で握り拳を作っている。

 飛行船からの脱出は結果として成功に終わった。

 私の操縦が完璧だったのでは無いが、“村”で学んだ技術に比べればあの機杖(ワンド)の仕組みは割と簡易的な物であった故である。

 大体の操作で、最寄りの島へと辿り着いたのだ。

 まあ粗雑な着地と同時に舟は爆散したわけだが。


「それで、これからどうするのだ。我が主よ」

「……なにがじゃ?」

「一応だが、我々は貴女に忠を誓った。少なくとも私は貴女にしばらく従うつもりだ」

「私もそうする。特にやりたいことなんてないし」

「う、うむ。そうか」

「どうした。歯切れの悪い返事だが」

「お、お主らは奴隷の身だ。こうして自由になれば勝手にどこか行ってしまうものだと思っていたのでな」

「鱗人族は恩を返すものだ」


 フンと鼻息を鳴らし、ザッドは胸を張った。

 私もツルギには多少なりとも恩を感じている。

 流石に地の果てまでとは言えないが、ついていけるところまでは行くつもりだ。


「う……ううむ」


 ツルギは顎に手を当て、険しい表情で唸り始めた。

 ある程度考え込んだかと思うと、突然パッと頭を上げた。


「お主ら、一先ず儂に着いてこい」

「「……?」」


 ぎゅるりと方向転換したと思うと、薄暗い路地裏へと迷いなく歩き始めた。

 見えていた太陽はほとんど建物に隠れ、辺りに人気が無くなったかと思うと、ツルギは踵を返し、私達に向き直る。

 その顔はこれまでの様子とはうってかわって、真剣そのものな表情である。


「儂は、見ての通り竜人族じゃ。お前らの知る、珍しい亜人じゃな?」

「……?そう、だよね」

「その通りであるな」

「じゃが、竜人族というものは本来今ほど希少な族種ではなかった。そして、亜人なんて分類、本来はされておらんかった」


 ツルギはフード脱ぎ、頭から生える角を露わにした。

 伸びた角は青白く、暗がりでは微かに光っているように見えた。


「儂はそれを知っている竜人族なのじゃ」

「そう、なの?それって凄いの?」

「ああ、今は知らなくともよい。だが、儂から言いたいことは1つ_______________」


 ツルギは淀みなく告げる。


「儂に着いていけば、いずれ“陸”()()を相手することになる」

「……!」

「この言葉に偽りはない。それでもというのなら、儂についてきて欲しい」

「それは脅しているのか」

「嘘ではない。“陸”を恐れるというのなら、ここで儂に離れた方が良い」

「死ぬかもってこと?」

「……そうじゃ」


 “陸”全て。

 それが誇張なしに、そのままの意味だと言いたいように、ツルギの目線は真っ直ぐに私達を貫いてくる。

 普通なら、ここで震え上がるのだろう。

 彼女の頭の中では私のそういう姿が浮かんでいただろう。

 だが、しかし。


「ここで離れようと儂は非難せん。なんせお主らは偶然居合わせただけの_______________」

「いいよ」

「……む?」

「私はツルギについて行くよ」

「な、なぁ?!さっきの話聞いておったか?!」

「うん。よくわかんないけどさ、たくさんの人相手にするくらいなら私は結構慣れてるよ」

「なぁ!?そんな語彙で語れる規模じゃないじゃろう?!もっとよく考えろ!マ、ジ、で、“陸”の全てを相手にするかもしれんのじゃぞ!」

「かも、でしょ?いけるいける」

「む、むむむむむ、むぉぉぁぉ……!ザッド!お主はどうなんじゃ!」

「ああ、我も同行しよう」

「おい!待て!儂の説明が悪かったか?!大勢と戦って死にたかったら儂について来いと言っとるんじゃよ?!」

「ていうか、そんなんじゃ私死なないし」

「ほぅ、ダメじゃ。話が通じん」


 ツルギは諦めの嘆息をもらした。

 こちらもついて行くと何度も伝えているのに、何故伝わらないのか。


「“陸”相手にするのなら、我も遅かれ早かれするつもりであった。確かに、その全てが相手となれば我とて多少は竦むが……」


 ザッドはぽんと私の頭に手を置いた。


「……なに?」

「この小娘が退かんのだ。鱗人族の我が退くわけにもいくまい」

「ぬ、ぬぬぬ……お主ら、本当に後悔せんな?今、ついて行くことを宣言したのだな?!儂に!」

「うん」

「くどいぞ、主よ。何より奴隷の身の時点でこの世界を相手にしているようなものだ」

「む、むむむむむむ……なれば_______________!」


 ガシャアン!!


 何かが砕ける音が後方から響いた。

 3人して、思わず音のする方へと振り向く。


「つ、捕まえてくれぇ!!」


 困ったような男の声。

 音のする方からは2つの影が走って来ていた。


「なに見つかってんのよ!さっき昼飯食べたばっかでしょうが!」

「メネちゃんがケチって少なめにしたから、お腹空いてたんですよ!これはメネちゃんのせいです!」


 長い耳と獣の耳。

 駆け抜ける2つの影が、私の前を過ぎようとしていた。


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