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3-3 出発進行

 

 もうどれくらい前のことだっただろうか。

 あの小さな世界から投げ出されて、どれくらいの時が過ぎただろうか。


「マサムネ……!みんな、マサムネが」


 その日の夜、ナルカちゃんが泣きそうな声と目で私に訴えた。

 彼女の指さす先には大地にくり抜いたような跡があり、そこは奥底まで暗闇を続かせている。

 時は、そこにマサムネが落ちていった直後であった。


「なんだ、こりゃ。どうなってやがる」

「おしまいだ……おしまいだ……」


 ガルーグとメッタは狼狽え、辺りを見回すばかり。

 ナルカちゃんは絶望した表情でその場に座り込んでいる。


 この時、私は何を思っていただろうか。

 マサムネはどうなったのか。

 村の皆は無事だろうか。

 今は無事である私達はどうすればいいだろうか。

 普段の私ならそんなことを考えていたはず。


 オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ


 巡ろうとしていた思考は、空より響く爆音でかき消されたのだけは覚えている。

 ひどくうるさくて、すごく怖かった。

 それでも私は_______________


「おいメッタ!どういうことだ!これはどうなってやがる!何が終わりなんだ!あの上で飛んでんのは何なんだよ!」

「う、うるせぇ!知らねぇよ!とにかく終わりなんだ!もう、何もかも!」

「それがどういう事なのかって聞いて」

「ちょっと黙って2人とも」

「……マーマ」

「とりあえず、この場を離れようよ。さっきマサムネが落ちたとこが危ないし、他のみんなも心配だから」


 声を震わせて喋った。

 普段からボーッとしてる分、皆より周りが見えていたのかもしれない。

 だから、こうして言えた。

 怖かったけどこうして動けたのは、周りの人が苦しむ姿を人一倍見たくないと思っていたからかもしれない。


「ちっ……分かった。メッタ、てめぇの話は後でじっくり聞かせてもらうからな」

「はぁ?ば、ばーか!無駄なんだよ!もうここは何もかも終わっちまうんだ!」

「……そんなことないし」

「1人だけ落ち着き払いやがって!声震えてんだよ!お前だって怖くて堪んないんだろ!どのみち全員マサムネみてぇにブボォ」

「オラいいから行くぞ。とりあえず戻って他の連中の安否確認だ」


 騒ぎ立てるメッタの口はガルーグのラリアットによって塞がれた。


「……ナルカちゃん。ほら、行こうよ。こんなところずっといたら危ないよ」

「で、も、ここにマサムネが」

「大丈夫だって。マサムネのことだから、なんだかんだ生きてるかも」

「……」


 震える手をナルカちゃんに向けて差し伸ばした。

 いつもしっかり者なナルカちゃんだから、弱っているのを見るのはそんなにない。

 けど、正直見慣れている様子だ。

 こういう時は私がしっかりしなければならない。


「……ほら、早く」


 動かないナルカちゃんに痺れを切らして動く。

 私の記憶に深く刻まれている光景は、その次の瞬間であった。


「え_______________」


 〜〜〜〜〜〜


「おいコラ!マーマ!何をボーッとしておる!」


 甲高い怒号に、我へと帰る。

 視界に映るのは煌びやかな装いと動き回る民衆。

 耳に入るは幾つもの足音、叫び。


「いたぞ!向こうだ!止まれ、そこの輩ぁ!」


 そして、私達に向けて刺さる警告の声。

 驚くことに、私の足は無意識でありながらその声から逃げようと動いているのであった。


「おおい!本当に大丈夫なんじゃろうな?!追っ手がぞろぞろと湧いておるぞ!」

「目的の部屋までもう少しある。兵から逃げるのは無理であるぞ」

「あー、大丈夫だよ。ほら、これだけ人がいれば飛び道具は使わないだろうし」


 私達は緊急脱出用の機杖(ワンド)(?)がある場所へと走り込んでいた。

 既に兵士達に存在はバレており、現在一般の乗客に紛れながら移動している最中である。


「確かにさっき5人軽々殴り倒しておったが……本当に大丈夫なんじゃろうな」

「銃とか弓とか、そういうのが無いんだったら大丈夫。何人いようと楽勝だよ」

「だが、マーマ程ならば飛び道具が使われようと打ち倒せるのではないか?」

「うん。()()大丈夫」

「それはつまり……」

「我らの無事は保証できないということか」

「おぉい!もう少し穏便にいけはせんかったか!」


 多分大丈夫だよ、と不安げな2人を一言なだめた。

 進む先、大広間を突っ切って目的地へと続いている扉はもう既に見えている。

 そこへ入りさえすれば、もうほとんど到着だ。


「止まれぇ!亜人ども!」


 そこに人混みから飛び出した複数の鎧が立ち塞がる。

 4人、それぞれ剣を手に握っている。

 油断、加えて緊張が感じられる佇まい。

 足運びを緩めた2人を置き去りに、私はその群に鋭く切り込む。


「慣れてないね」


 彼らが完全な臨戦態勢に入るまで数秒。

 私が懐に入るまで十分。


「「なに_______________!」」


 各々で振り上げられる剣。

 そんなものよりも、私の拳骨が刺さる方が早い。


「ごめん。どいて」


 突き出された連撃が軽々鎧を吹き飛ばす。

 そんな状況を冷静に分析出来るほど、余裕があった。


 ガッシャァアン!!


 直後にガラスが割れる音。

 くの字に折れ曲がった鎧達はそれぞれどこかに激突していった。


「ふぅ」

「よ、よくやった!流石は儂の配下じゃなぁ!」

「……何止まってるの。早く逃げるよ」

「え?」

「マズいよ」


 瞬間、乾いた音が船内を鳴り響いた。

 それはいわゆる銃声。

 姿見えぬ脅威が辺りを猛スピードで跳ね回り始める。


「いぃっ?!」

「走るよ。死にたくないでしょ」

「乗客の姿が周りにいない。我らの行く先を予想して避難させていたわけか」

「お主ら……そういうことは、分かっておったなら早く言わんかぁ!」

「いや、言ったよ」


 火花散る床の上、踊るようにホップしながら進んで行った。


 結局、機杖(ワンド)の所までそんなにかからなかった。

 やはり私達の目的はある程度予想されているようだったが特に関係なく、立ち塞がる兵士たちを延々と殴り倒していくだけである。

 流石の2人も途中までは固唾を飲んで見守っていたが、途中からは当然のことのように倒れる兵士の上を通っていた。


 そんなこんなあり、目的の機杖(ワンド)の格納庫。

 格納庫には10機余りのそれらしい物が並んでいた。


「なんじゃあ、マーマがおればなんも怖くなかったのぉ」

「うむ。やはり3人は乗れそうなサイズだ。では問題はこれを誰が操縦するか、であるな」

「あれ、ザッドが操縦出来るんじゃないの」

「我は在り処を知っているだけである」

「あー……ちなみにマーマは動かせるかの?」

「……ちょっと待ってね」


 内部にある大量のボタンの中から、目立ったボタンを指で押す。

 それに対応して、舟は大きな音を立てて駆動を始めた。


「起動した、であるな」

「うん。いけるかも」

「おおぉ!流石じゃ。さっきといい奴隷とは思えなほどの能力の高さじゃなぁ」

「……マーマ殿、もしや貴殿は半亜人というものなのでは?」

「半、あ……?何?」

「人間でありながら亜人と同じ扱いを受けている者のことだ。つい最近、とある島から大量に発見されたと聞くが……」

「さあ?知らないけど、そうなんじゃない?」


 ザッドがどこかにあるレバーを引くと、前方にあった鉄のドアが開く。

 そこには、眩しいくらいに鮮やかな青空が広がっていた。


「まあ聞きたいことはあるじゃろうがまずは脱出じゃ!さあさあ乗り込もうぞ!」


 ご機嫌な様子で縦に並んだ3つの中の1つへと乗り込むツルギ。

 確かに、追っ手全てを退けているわけではない。

 その内次の者が来る前に出発するべきだろう。


「ふむ、まあ積もる話は後にするであるか」

「よおし、さあ全員乗り込んだ!マーマ、出してくれ!」

「うん……ちょっと待ってね」


 ポチポチとハンドルの上辺りのボタンに手をかけていく。

 丁度3度目くらいに、前方の部分が青白く光り始めた。


「凄いのお。人目見るだけで動かし方が分かるもんなんじゃの」

「うん。なんか適当にやってたら出来るよ」

「……ん?待てマーマ。お主、操縦方法が分かっているわけではないのか」

「え?何?音が大きくてよく聞こえない」

「ちょっと待てぇぇ!!一旦ハンドルから手を離_______________」


 こうして私達の小さな舟は優雅に発進した。

 これが壮絶な旅の幕開けである。


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