3-2 前よりはマシ
数ヶ月ぶりの甘露が口に満遍なく広がる。
上等な飴玉である。
最後に食べた甘味は氷砂糖だったため、おそらく普通よりも私は美味しく感じている。
生きててよかった、そう思える瞬間であった。
「おい」
「……ん?」
「おい!お主、何個頬張っておる!食べ放題だとは言っておらんぞ!」
「5個。5人倒したから」
「なにぃ?!袋には5個しか入って無かっただろう?!」
「うむん、だからこれで最後」
「ああああああああぁぁぁ!!」
少女は必死に口をこじ開けようとするが、私はこの口に入った飴を譲る気は全くない。
これでもかと言うくらい硬く閉ざしてやった。
「儂の、飴っ、ようやくありつけた、食料が……」
「なんか、ごめん。けどくれるって言ってたから」
「ぐぐ……ま、まぁいい!お主のおかげで九死に一生を得たのだからな」
少女は何かを堪えるた後、えへん、と胸を張ってそう言った。
水色の頭髪に長く伸びた角、まだ幼さの残るあどけない顔立ちが印象深い。
見た目だけ見れば間違いなく私より年下だ。
「では、その飴を食べたということは、お主は私の配下になったということでいいな?」
「配下。うん、いいけど」
「ふふん!これでまず1人じゃ。それも結構強そうな奴。なかなか良い滑り出しなのではないか?ふふ、見ろ、儂もやれば出来るのじゃ」
「……?それで、配下って何すればいいの」
そう、質問を投げた瞬間に少女は固まった。
微動だにしないその表情を見れば分かる。
少女は特に何も考えてなかったようだ。
急に辺りを見回したと思うと、ソワソワと身体を揺らし始めている。
「そ、そうじゃなぁ……まずは、うん。まずは、ええとぉ」
「この下に転がってる人達はしばらく起きないけど、とりあえずここから離れた方が良いと思うな」
「う、うむ!そうじゃな。儂も今同じことを言おうと思っておった。となるとまずは向かうは」
「向かうは……?」
「……うむ」
「え、どこ行くの?」
「……とりあえず移動しながら考え_______________」
「オイ!」
ガシャン
奴隷ひしめく暗所より、鉄のケージを打ち付けるような音と共に、猛獣のような声が響いた。
見ると、声のする所から鋭い爪が伸びている。
「分からぬのだろう?この船からの脱し方が。我が知っている。我を出せ」
「なぬっ!いいだろう出してやる。お主が誇りある配下2号じゃ!」
「もう飴ないけど」
「あっ……す、すまぬな。飴がない。お主は連れて行けんようじゃ」
「飴など必要ない。いいから出してくれ」
出してやれ、とご主人(仮)が言う。
指示に従うまま、私は声のするケージを容赦なく蹴破った。
「_______________ぬあっ!」
「あ、ごめん。危ないから離れといてって、言うの忘れてた」
「いや、気にするな。この程度でビビってはいられん」
壊されたケージから出てきたのは私の倍くらいある高さの影であった。
見上げないと、その顔は視界に収まらない。
「わぁ、背ぇ高いね。なんか強そう」
「我の種族はそういうものだ。強大、強靭ゆえに人間から虐げられてきた」
口からチロリと細い舌が飛び出す。
緑色の硬そうな皮膚は金属のように光を反射していた。
「はっはぁ!いきなり配下2人とは幸先よし!よしがすぎるのぉ!よし、配下2号!まずはその脱出の判断とやらを……」
「妙な呼び方は止めてもらおう。奴隷と言えど、我にはれっきとした名がある」
「おお!そうじゃったそうじゃった。まだお主らの名前を聞いておらんかったな」
「ふん……ザッドだ。見ての通り鱗人族だが、戦うことには慣れていない。よろしく頼む」
鋭い爪に生え揃った牙。
全身凶器のようなものだが、確かに瞳は柔らかな眼差しをしている。
ガルーグとは大違いだ。
「儂はツルギ。この角を見ての通り、世にも珍しい竜人族の女子じゃ!しかと目に焼き付けておくと良い!」
「……珍しいの?」
「我の知り合いには1人いた」
「珍しくないじゃん」
「なっ、やかましい!これからは儂の言うことがお主らの中で正しいのじゃ!白色だろうと、儂が黒と言ったら黒!珍しいと言ったら珍しいのじゃ!」
面倒な主従関係。
だが、今までに比べればマシな方だ。
飴を貰える分、まだマシ。
「う、うう……はっ!」
呻き声が足元から這い上がってくる。
先程倒した一団の中の1人が目を覚ましたのだ。
「きっ、貴様ら!こんなことをしてタダで済むと」
「うるさい」
「へぶし!」
「もう、さっきうるさいって言ったのにな」
間髪入れず放ったかかとが兵士の脳天に落ちる。
兵士は何か行動に移す間もなく、再び意識を暗転させたのだった。
そんな私の行動を見て、2人は苦々しい顔を浮かべる。
「う、うむ。主人が言うよりも早く行動するとは、配下の鑑じゃ、の」
「容赦ないな……」
「だって仲間呼ばれたらめんどいし。えっと、ザッド?結局私たちはどこに行けばいいの」
「ん?ああ。この船にある官僚専用の緊急脱出用小舟型機杖がある。それがある場所までたどり着きさえすれば、我らはこの船から脱せるだろう」
「おっけー。ほら、じゃあ行こうよご主人様」
「_______________待て」
踏み出そうとした私の足をツルギは呼び止める。
振り向くと、真剣そのものな顔で私の瞳を覗き込んでいた。
睨むように、警戒するように。
「お主の名は。まだ聞いておらんが」
「私?」
何を警戒されているのか分からないが、私の名前など1つしかない。
何個もあってはややこしいだろうから、間違いなく私の名前はたった1つだけ。
「マーマ・カント」
「……種族は」
「……?しゅ、ぞく、は……僧侶、とか?」
種族は、よく分からない。




