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1-5 有言実行

 

「もうすぐ到着だぞ。準備しておけ」


 軽い調子で告げられる。

 あちこちで自由に過ごしていた鎧の男達はその声で、一斉に大窓を見る。

 広がっているのは青と白の背景。

 絶え間なく流れていた。


「これで最後の島ですよね。何するんです?」

「亜人の捕獲だ」

「ええマジすか?もう荷物の重量ギリギリですよ」

「問題ない。捕獲するのは2人だけだ」


 そう言われ、部下らしき男は後方へ目を向ける。

 目の先にあるのはこの()()()の貨物室だ。

 重量を超過すれば、飛行船は上手く飛ばなくなる。

 男はそれを心配していた。


「気にするな。重量をオーバーしたとて、燃費が多少悪くなるだけだ」

「あ、そうですか……いやあ良かった。特に問題なく陸に帰れそうで」

「だからといって慢心するなよ。相手は亜人だ」

「はい。こっちには機杖もありますし、大丈夫だと思いますけど」

「_______________C-06見えました」


 飛行船の制御盤前にいた兵士が声を上げる。

 緑に満ちた島が近づいていた。


「今回最後の務めだ。とりあえず捕獲班から5人、降りる準備をしておけ」

「隊長、今回は2人とも女ッスよね?」

「ああ、獣耳族と長耳族が1人ずつだが」

「終わったら楽しんでもいいスか?」

「……あまり船を揺らすなよ」

「へへへへ」


 下卑た笑いが鎧の群れから聞こえてくる。

 務めを果たす義務や所属の忠義から動いているのではない。

 富、名声、そして女体……目には決して綺麗なものは映らない。

 彼らは欲望を満たす瞬間を夢見ながら、その身をしきり揺らすのだ。


 〜〜〜〜〜〜


 オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ


 船から鳴る音。

 あの日と同じ音だ。

 額に変な汗が伝い始める。


「……来た」

「来ましたね」

「来たな」


 上空を飛び回る巨大な影。

 金属の白鯨が島に舞い降りようとしていた。

 前部にはでかでかと“陸”の紋章らしきものが刻まれている。


「じゃあ手筈通りに行くからな」

「アナタ達、作戦忘れてないわよね」

「……問題ありません」


 この島に着いて5日。

 俺は、俺たちはこの瞬間のために過ごしてきた。


「では、行ってきます」

「最後は任せたからね」


 緊張気味の2人が飛行船の降りた先へと歩き出す。

 迷いも恐れも当然ある。

 だが、これを成功させなければ俺たちは前に進めない。


 〜〜〜〜〜〜


 ゴゥン ゴゥン ゴゥン ゴゥン


 重苦しい駆動音と共に船は島に着陸。

 ドアが荒っぽく蹴破られたと思うと、中から五人の武装した兵士が出てきた。

 予想通り兵士の誰もが機杖を握っていた。


「我々は“爪”だ。亜人2名を回収しに来た……見たところ君の姿しか見受けられないが」

「ようこそいらっしゃいました。長耳族の094は後ろの、森の奥にいます」

「了解した。おい、この獣耳族は誰か捕縛しておけ」


 機械的な返事で兵士たちはワタクシに駆け寄って来る。

 抵抗してこないと思ったのか、その手には腕を固定する機杖(ワンド)のみが握られている。

 ワタクシは後ろ、森の方へと少しずつ後ずさりながら兵士に声をかけた。


「捕縛する。ほら、手を出せ」

「あ……すいません。手を縛るのはやめてもらえますか?」

「は?何言ってるんだ、亜人が」

「だってほら、手を縛られてたらすぐに出来ないじゃないですか」

「あ?何がだ」

「言わせないでくださいよぅ。ほら、ご奉仕ですよ。ご、ほ、う、し♡」

「……!!」


 本当はこんなことやりたくない。

 わざとらしく熱の篭った目で見つめた。

 途端に兵士の目線や息遣いが変わる。

 荒く、酷く下品なものへと。

 獣耳族としての感覚が、嫌でもその情報を受け取ってしまう。


「へ、へへ……そうかお前、そういうやつかぁ……」

「うふふ……ワタクシは亜人。人間様にツカわれることが本望ですもの」

「へへへへ……じゃあ船ん中で、可愛がってやるからなぁ」

「っ_______________!!」


 篭手に包まれた手がワタクシの尻をわっしと掴む。

 気持ち悪い、吐きそうだ。

 自分で誘っておきながら、言いようのない嫌悪感に歯噛んでいた。


 これも、作戦のため_______________



「いい?この作戦で重要になって来るのはマサムネじゃなくて、私たちの働きなの」


 作戦決行前、メネが得意げにそう言った。


「ワタクシ達がですか?」

「兵士の連中は皆魔力を測定する機杖(ワンド)を持ち歩いてる。だから、マサムネが魔力持ちかどうかなんて遭遇した時点で分かっちゃうの」

「知られるだけだろ。何かマズイのか?」

「魔力なしの兵士連中にとって魔力持ちってのはかなり脅威なの。見つけた瞬間、船に撤退。“陸”に報告して次の日にゃさらに武装した兵士が来るだけよ」


 マサムネ様という魔力持ちがいるといないとでは全く違う。

 だが、数の優位諸々全てが覆るほどではない。


「そんなのどうすれば……」

「ノルンが船内の兵士をおびき出して、私がその間に船内を制圧。私が思いつくのはこれくらいね」

「そんなに上手くいくでしょうか」

「船内連中を追い出すには、それなりに脅威だってアピールしなきゃなんないから、簡単ではないわ」

「相手は機杖(ワンド)を持ってくるだろうしな」

「ですよね……」

「……嫌なら、私が代わるわよ」

「いえ!メネちゃんが行くくらいならワタクシが!」

「そう。なら任せたわよ」

「お、おい……ただでさえ危険なんだ。もう少し考えた方が」

「いえ、大丈夫です。ワタクシ1人でやれます」


 不安そうな顔のマサムネ様を制止するように言った。

 大量の木々。相手は武器に頼った多数。

 好条件だ。


「……いいのか?」

「いいのよマサムネ。獣耳族舐めてんじゃないわよ。ね、ノルン」

「はい!どーんとワタクシに任せてください!」


 それでも不安そうだったマサムネ様を今でも覚えている。

 そして、今_______________。



「……んないでください」

「あ?何だって?」

「触らないでください!この変態!」

「はぁ?!誰が変た_______________」


 敵が振り向くよりも早く。

 周りが気づくよりも早く。

 刈り取るような回し蹴りが兵士の首を捉えた。


 ド タ ン


 勢いよく地面に叩き付けられる音。

 これを合図に兵士達の目線はワタクシへと向く。


「_______________!!止まれ!動くなそこの獣耳族!」

「……有言実行」


 座右の銘を口に。

 鋭く見据え、鋭く息を吐いた。


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