2-35 決勝
『名家の戦士が互いを睨み合うッ!さあこの決勝!勝利を掴むのはどちらの手だぁーー!!』
沸き上がる闘技場。
雨にも似た、四方から飛ぶ打ち付けるような声はオレの耳に届かない。
それは、オレの意識が全て目の前の男に向けられていたから。
「メッタ……なんで、お前が」
「久しぶりだな。1年は経ってねぇ、よな。何ヶ月ぶりだ?」
当の本人は何知らぬ顔で受け答える。
まるでいて当然とでも言うのか、メッタは腰に掛けていた長剣を涼しげな顔で引き抜いた。
「流石にお前相手なら抜いた方が良さそうだ。いやー、ここの奴ら弱い奴ばっかでなー」
「んなことはどうでもいい。なんでここにいんのか聞いてんだよ」
「なんでだと?俺は頼まれたからここに居るだけだ」
「誰にだ」
「クーシィ・フロストハートだ」
「……!!」
クーシィの名が、メッタの口から出る。
ということは、今こうしてメッタがオレの前に立っているのはクーシィの企みと関係しているから。
何故こうしてメッタがオレの前に立っているのか、目的は大体掴める。
「降さ_______________っ!」
「無理だよ」
上げようとした両腕に、メッタから放たれた長剣が過ぎようとした。
すんでのところで回避したが、間違いなくメッタは当てる気だった。
「悪いがこっちの狙いはお前の足止めだ。降参なんてしても、律儀にルール守って逃がすなんてしねぇよ」
「クーシィの目的はなんだ!何をしようとしてる!」
「俺は知らねぇよ。金が貰えるからやってるだけだ」
投げやりに答えると、メッタは剣を正眼に構える。
逃げる……なんて出来る相手じゃない。
クーシィの命令ならば、オレを殺すことだって視野に入れていてもおかしくは無い。
そして何より、メッタがオレの生き死にを気にするような性格ではない。
「聞いてくれ、オレには_______________」
「うるせぇ、何かしたいなら俺に勝ってからにしろ」
捉えられぬほどの速さで剣撃が襲いかかる。
風を切る音。
身を何度もよじり、回避に徹するがそれでも刃はオレの薄皮を掠めていく。
「へっへっへっ、どうしたどうした人気者!避けるだけじゃ勝てねぇんだぜ!」
振るわれる剣嵐。
どうやったって埋まらないリーチの差を前にしては、わずかな実力の差など関係なかった。
村での実力、メッタの剣に関する腕ではオレより下である。
素手同士の闘いであっても、オレが負けることはないだろう。
だがしかし、武器かあるとないとでは全く状況が違う。
「武器持ってる相手に、素手のオレが勝てるわけねぇだろ!」
「だろうな。だから諦めろよ!今日ばっかりは、お前の思い通りには出来ねぇってことだ!」
剣刃が微かに芯を捉えてきている。
徐々にオレの動きが見切られているのだ。
このままでは本当に……。
「ミィン、プレア……!」
「っ?!おい、今女の名前を呼んだか!お前よぉ!?」
揺らいだ心を見透かしているのか。
一瞬止まった足取りを非難するように、メッタは高速の突きを放った。
鉄の冷たい感触。
直後に生暖かい血液の温度。
「いっ、ぁ!!」
「_______________“村”流、五月雨突きってな」
引き抜かれると同時に、くらむような苦痛が肩口から全身へと広がった。
思わず膝を着く俺を、メッタは嬉しそうに眺めていた。
「ダメじゃん。他人を思う心を戦場に持ち込むなかれって言われてたろ?」
〜〜〜〜〜〜
「なに?!アイツが押されているだと?!」
ヨハンの動揺する声。
観客席でその声を聞いていたのは、捕らえられたクーシィだけであった。
「決勝戦、どうですか」
「奴が、ガルーグのやつが押されている!あれほどの使い手がこの“陸”にまだいるというのか」
「彼は半亜人、ガルーグ殿と同じ“村”出身ですからね」
「なに?……何故それを貴様が」
キッ、と鋭い音と共にクーシィは立ち上がる。
いつの間にか彼を捕らえていた縄は、彼の足元に転がっていた。
「私が手配した人間なので……っつつ、結構キツめにやられましたね」
「……私が目の前にいるのだ。手負いの貴様では逃げれることはない」
「確かに手負い。だが、貴方も十分に用意されている状態ではない」
「バカを言え。剣一本だろうと私が貴様に負けることは」
「……後ろ」
「は_______________」
刹那、ヨハンの頭に鈍痛が走る。
かろうじて膝を着き、気絶を堪えたヨハンの目に映ったのは、黒服の屈強な男達であった。
「貴様ら……!」
「じゃあ私は他にやることがあるので。その人立ち上がれない程度に痛めつけておいてください」
「「はっ!」」
「待て!貴様何をしようと_______________」
血の流れる頭部に容赦ない追いうち。
離れるクーシィを追おうと立ち上がったヨハンの体は、黒服達の靴によって何度も床に叩きつけられていった。
その様子を止められる者、目撃した者など、その場に誰一人としていなかった。




