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2-31 颯爽

 

 静止した金属人形ら。

 一帯に散らばったガラクタの中で、ディアーヌは膝を屈していた。


「痛……インドア派にはちょっとキツい系かな……」

「ディアーヌちゃん!」

「ふぅ、随分と手こずらせてくれましたね」


 さっきまで動いていた人形達はひとつ残らず地に伏している。

 ディアーヌ自身も、もはやまともに動ける様子ではない。

 そんなディアーヌを見下ろしながら、クーシィはゆっくりとした動作で、ガラクタの中から短剣を拾い上げた。


「全部訓練用の人形。こんな物で私に勝てるとでも」

「不審者がいるって分かってたらもっと強いの持って来てたし。てか、今更ここに何しに来たの?」

「……。」

「どの面下げて……フロストハートの人達に少しは悪いと思ってないの?」

「くだらない。家だの亜人だなんだと、君もアイツらと一緒なのだな」


 クーシィは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ディアーヌに背を向けた。

 短剣を握ったままに、歩き向かう先はミィンとプレアのいる方向。


「っ!逃げて!この男、アンタを本気で殺す気だから!」

「プ、プレア!逃げるよ!」

「マスター、でも」

「はぁ……どうぞ好きなだけ逃げてください。ただし_______________」


 クーシィは顔を向けることなく、後方へと短剣を投げた。

 真っ直ぐに飛んだ切っ先は、そこにいた人影に当たり前のように刺さった。


「_______________え」

「ディアーヌ嬢が死んでもいいのなら、ですけどね」


 刺さった部位から溢れる血に、ミィンは足を止めた。

 数分前、繰り広げられていた両者の戦いで、ディアーヌはほとんど血を流さなかった。

 クーシィと人形の間に割って入り妨害するだけで、ダメージと言えばそこを跳ね除けられる程度。

 せいぜい打ち傷くらいだ。


「っ……へい、きだから!コイツ、ウチのことは殺す気ない!ハッタリだから!」


 だからこそ、今ミィンに見えている赤色は、ディアーヌの死を連想するには十分だった。


「違う、違う違う……ディアーヌちゃんを殺さないのは、こうしてボクを逃がさないため。殺そうと思えばいつでも……!」

「なんだ脚か。次も逃げようとした瞬間、見ないで投げますよ。今度はどこに刺さりますかね」


 クーシィは見せつけるように短剣を取り出した。

 妖しく光る銀にミィンの目は離れない。

 その足も、これ以上動くことは無かった。


「次はもしかしたら……」

「ボ、ボクのせいでディアーヌちゃんが。ダメだ、そんなことは」

「マスター!逃げないと!」

「でも、でもでもでもでもでも!」

「……それじゃあ、そこから動かないでくださいね」


 歩み寄る長身。

 彼の手が届くまで、そう時間はない。

 荒くなっていく息遣いだけが、その空間を流れようとしていた。


「……!クーシィさん、分かりました。私、革命軍に入りますから!もうこんな寄り道もしません!覚悟を決めました!革命軍の命令ならなんでも従いますから!」

「そうですか。それはいい」

「だから、マスターのことはもう」

「いえ、それとこれとは別です」

「え……?」

「貴女を引き入れることとミィン嬢を殺すことは何も関係ありません」


 淡々と話し、淡々と歩いた。

 まるで聞き入れる気がない。

 プレアが何をしようが何を頼もうが、彼の行動は何も変わらない。

 短剣の距離になるまで、あっという間だった。


「言うことを聞くと言うならミィン嬢が逃げないよう捕まえておいてください」

「っ……嫌です」

「は?退いてください。怪我したいんですか?」

「怪我程度で済むなら、それでマスターを助けられるなら私は_______________」

「私はガルーグみたいに甘くない」


 行動に躊躇いなど無い。

 間髪入れず短剣は振り下ろされる。


「_______________あ」


 ガ ィ ン !!


 短剣が肌に触れようとしたその刹那。

 金属は弾かれる音と共に、2人の視界から姿を消した。

 原因は明白、何かが超スピードで通り過ぎたのだ。


「クーシィ・フロストハート」


 低く唸るような声が辺りを漂う。

 声の標的となったクーシィは、身震いするような寒気に取りつかれていた。


「やっぱテメェ……殺しとくべきだったよなぁ」

「ガルーグ・メルスバッサ……!」


 〜〜〜〜〜〜


 事情。


「待て」


 言い訳。


「待て!」


 理由?


「待_______________」


 聞く必要あるか?この状況で。


「死ね」


 ド ご ぉ !!


 振り抜いた鉄拳が端正そうな顔面をえぐり抜く。

 鈍い音を鳴らすと、クーシィは気持ちいいくらいに吹き飛んでいった。


「あ……ガルー、グ」

「ディアーヌ様、大丈夫スか?」

「いや、ちょー痛い。後で医務室まで運んで」

「ヨハンさんがそろそろ来ます。あと、うちの主人を守ってくれてありがとうございます」

「……今はそれどころじゃないでしょーが」


 うス、と適当に相槌を打つと、クーシィへと向き直った。

 何やら地べたでうずくまっているが、どうしたのだろうか、心配である。


「どうした。苦しそうだが」

「容赦、ない……な」

「容赦?そりゃ今のテメェに必要なもんか?」

「くっ、ははは!やはり君は_______________」

「うっせぇ」


 言われた通り容赦なく、鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れた。

 クーシィは苦しそうに咳き込んでいる。


「レオに勝てばプレアは返すんだろ?なんでわざわざ来た」

「そんな話、聞いていない」

「なるほどな。アイツの勝手な判断ってことか。まあ何となくそんな気はしてたが」

「だから君が勝ったとて」


 もう一度蹴りを入れた。


「っ……!ごほ、ごほぉっ!!」

「勝ったとて?なんだ、返せないってか?今ここで力づくでもいいんだぞ?」

「そんなこと……」

「聞き入れなきゃならねぇんだよ。いいか?」


 息を絶えさせながら吸うクーシィに、落ちていた短剣を突きつける。


「今死ぬか、後で死ぬか。どっちがいいかよく考えろ」

「な……!」

「テメェは馬鹿なんだよ。なんでわざわざここまで出向いた?オレに見つかればろくな目に遭わねぇことくらいわかんだろ?」

「そ、それはですね……」


 わぁぁぁぁぁあ!!


 突如、歓声が辺りを埋め尽くす。

 見上げると、そこには今しがた終わった試合の勝者の名前がでかでかと浮かんでいた。


「レオ・ソドム……」

「ははっ!まあ、今からふん縛ってやるから、観客席で見てろよ」


 引き攣った表情に向かって思い切り口角を上げた。

 同じフロストハートの彼とは全く違う、バカにしたような感情を込めて。


「のこのこ陸に降りてきたテメェら革命軍一行を、オレが一掃する様をな」


 とびきりの啖呵を切ってやった。


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