表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/111

2-29 捕獲

 

 湧く歓声が闘技場を包み込む。

 戦いの末、立っていたのはガルーグ・メルスバッサ。

 彼は寄りかかるように倒れているニクスを抱え、その場から退場している途中であった。


「ガルーグ、頑張ったね」


 ミィンはその様子を、遥か高くから見下ろしていた。

 ホッと息をなで下ろし、その行方をじっと見守っていた。

 その心中には彼と、もう1人の奴隷の行方。


「もうちょっと……もうちょっとでプレアに」


 1人呟くその後ろから、2つの影が潜み寄っていた。

 影の1つがミィンに触れようとしたその時。


「……!誰だ!」


 ミィンは忍び寄る気配を感じ取り、咄嗟に振り向いた。


「え……あ、マ、マスター、やっほー」

「プレア……!」


 振り向いた先に、気まずそうな奴隷の顔があった。

 姿を捉えられるなり、不器用に目を泳がしている。

 ミィンはそんなプレアの手をすぐさま掴んだ。


「本物?本物だよね?」

「は、はい。残念ながら、元気にやってます」

「残念ながらじゃないよ!……はぁぁ、よかったぁ」

「……そっちは大丈夫ですか?普通に、学園生活送れてますか?」

「全然だよ……君のいない学校なんて、楽しさ半減だ」

「すいません」


 泣きそうな顔を堪えて、優しくプレアを抱き寄せた。

 プレアは少し困った顔をすると、同じようにミィンを抱いた。


「謝らなくていいよ。でも、お別れの挨拶とか、説明くらいはして欲しかったな」

「はい。だからこうして会いに来ました」

「ありがとう。ま、ほとんどガルーグから聞いちゃってるんだけどね」

「アイツには、謝っておいて下さい。迷惑をかけちゃいましたから」

「ふふ、自分でいいなよ……ん?後ろの人は?」


 ミィンが視線を投げると、長身の男が微笑みながら手を振っていた。

 どこかで見た覚えのある姿であった。


「革命軍のクーシィさんです。危害を加えるような人ではないので、安心してください」

「そうなの……?」


 ワァァァァア


 しんみりとした雰囲気を他所に、再び闘技場で歓声が上がる。

 そこには誰とも分からない相手とレオ・ソドムが戦っている姿が見えていた。


「ねぇ、プレアはインガウェークに帰りたいと思う?」

「……奴隷の身である限りは、帰りたくないです」

「そう、だよね」

「あそこに居れば、いつか虐げられる日が来る。私が無事でいられたのは貴女やアイツが居たからです。私一人で生きられるとは、到底」

「でも、境遇とか地位とかそういうの関係なく……貴女達の傍に居られるのなら、私は戻りたいと思ってます」

「……!」

「好きなんです。自分でも驚く程に、貴女やアイツとの時間が」


 プレアは頬を染め、照れくさそうに笑った。

 それは偽りなく本心から出た言葉。

 ミィンも何となくそれを察せていた。


「じゃあ!やっぱり、戻ろうよ!」

「いや、流石にそれは……」

「ガルーグがレオ君と約束したんだ。この大会で勝ったら、プレアを連れ戻すよう協力するって」

「……は?なんですって?」


 その言葉に眉を顰めたのはクーシィであった。


「どんなに逃げたって、私のガルーグがきっとプレアを連れ戻しに来るんだ!」

「そんなこと……言っても」

「どんなに辛い境遇でも、どんな立場でも、私とガルーグがプレアを連れ戻すから、守るから。だから!」

「プレア殿」

「う……わ、分かってます。私はマスターにお別れを言いに来たんですから」


 ガルーグを前にした時と同じだった。

 プレアには明らかな迷いが顔に出ている。

 口では別れを告げる気でいるようだが、その実胸中には迷いや葛藤が渦巻いているに違いない。

 クーシィにはそれが読み取れていた。


「なるほど。ミィン嬢、ところでヨハン殿は今どちらにいらっしゃるのかな?」

「ヨハン?さっき立ち会いの終わったガルーグの方に行ったみたいだけど」

「はいはい、なるほどなるほど……」


 貼り付けたような笑みを浮かべて一歩、ミィンへと近づく。

 その場にいた2人には、彼の思惟を感じ取ることは出来なかった。


「ミィン嬢。正直、邪魔です」

「え?_______________」


 するりと取り出され、短剣が牙を剥く。

 振られた刃が向かうのは小さな喉元。

 迫り来る凶器に、ミィンが反応できるわけもなく。


 ガ キ ィ ン !!


 甲高い金属音を上げて、握られていた短剣が宙を舞う。


「これは……人形(ドール)?!」


 短剣は綺麗に弧を描いて、とある少女に受け止められた。


「ねぇ、ウチの友達に何してんの」


 少女はギザギザの歯を覗かせながら、不愉快そうに笑った。


「ディアーヌちゃん」

「離れてて。あ、そこの竜人族の子も一緒にね」

「クーシィさん、なんで……?」


 唖然とするプレアと共にミィンは後ろに退った。

 2人が離れたのを確認してから、ディアーヌは目の前の男を睨む。


「どっかで見たと思ったら、フロストハートの長男じゃん?こんなとこで何してんの?」

「ディアーヌ嬢、篭りきりの貴女が外に出るとは珍しい」

「そっちこそ。もうこっちに未練なんて無いと思ってたんだけど」

「今も無いままですよ。これはちょっとした気まぐれです」

「弟君、かなり苦労してるけど」

「弟……?ああ、居ましたねそんなの。まだ生きてます?」

「っ、ほんと初対面とは思えないほどムカつかせんね」


 パチン、とディアーヌが指を鳴らすと、どこからともなく人形達が集まって来た。

 屈強なタイプから俊敏なタイプまで、あらゆる人形がクーシィを取り囲んでいった。


「引っ捕まえて家の人に謝らせてやる」

「出来るものなら、どうぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ