2-29 捕獲
湧く歓声が闘技場を包み込む。
戦いの末、立っていたのはガルーグ・メルスバッサ。
彼は寄りかかるように倒れているニクスを抱え、その場から退場している途中であった。
「ガルーグ、頑張ったね」
ミィンはその様子を、遥か高くから見下ろしていた。
ホッと息をなで下ろし、その行方をじっと見守っていた。
その心中には彼と、もう1人の奴隷の行方。
「もうちょっと……もうちょっとでプレアに」
1人呟くその後ろから、2つの影が潜み寄っていた。
影の1つがミィンに触れようとしたその時。
「……!誰だ!」
ミィンは忍び寄る気配を感じ取り、咄嗟に振り向いた。
「え……あ、マ、マスター、やっほー」
「プレア……!」
振り向いた先に、気まずそうな奴隷の顔があった。
姿を捉えられるなり、不器用に目を泳がしている。
ミィンはそんなプレアの手をすぐさま掴んだ。
「本物?本物だよね?」
「は、はい。残念ながら、元気にやってます」
「残念ながらじゃないよ!……はぁぁ、よかったぁ」
「……そっちは大丈夫ですか?普通に、学園生活送れてますか?」
「全然だよ……君のいない学校なんて、楽しさ半減だ」
「すいません」
泣きそうな顔を堪えて、優しくプレアを抱き寄せた。
プレアは少し困った顔をすると、同じようにミィンを抱いた。
「謝らなくていいよ。でも、お別れの挨拶とか、説明くらいはして欲しかったな」
「はい。だからこうして会いに来ました」
「ありがとう。ま、ほとんどガルーグから聞いちゃってるんだけどね」
「アイツには、謝っておいて下さい。迷惑をかけちゃいましたから」
「ふふ、自分でいいなよ……ん?後ろの人は?」
ミィンが視線を投げると、長身の男が微笑みながら手を振っていた。
どこかで見た覚えのある姿であった。
「革命軍のクーシィさんです。危害を加えるような人ではないので、安心してください」
「そうなの……?」
ワァァァァア
しんみりとした雰囲気を他所に、再び闘技場で歓声が上がる。
そこには誰とも分からない相手とレオ・ソドムが戦っている姿が見えていた。
「ねぇ、プレアはインガウェークに帰りたいと思う?」
「……奴隷の身である限りは、帰りたくないです」
「そう、だよね」
「あそこに居れば、いつか虐げられる日が来る。私が無事でいられたのは貴女やアイツが居たからです。私一人で生きられるとは、到底」
「でも、境遇とか地位とかそういうの関係なく……貴女達の傍に居られるのなら、私は戻りたいと思ってます」
「……!」
「好きなんです。自分でも驚く程に、貴女やアイツとの時間が」
プレアは頬を染め、照れくさそうに笑った。
それは偽りなく本心から出た言葉。
ミィンも何となくそれを察せていた。
「じゃあ!やっぱり、戻ろうよ!」
「いや、流石にそれは……」
「ガルーグがレオ君と約束したんだ。この大会で勝ったら、プレアを連れ戻すよう協力するって」
「……は?なんですって?」
その言葉に眉を顰めたのはクーシィであった。
「どんなに逃げたって、私のガルーグがきっとプレアを連れ戻しに来るんだ!」
「そんなこと……言っても」
「どんなに辛い境遇でも、どんな立場でも、私とガルーグがプレアを連れ戻すから、守るから。だから!」
「プレア殿」
「う……わ、分かってます。私はマスターにお別れを言いに来たんですから」
ガルーグを前にした時と同じだった。
プレアには明らかな迷いが顔に出ている。
口では別れを告げる気でいるようだが、その実胸中には迷いや葛藤が渦巻いているに違いない。
クーシィにはそれが読み取れていた。
「なるほど。ミィン嬢、ところでヨハン殿は今どちらにいらっしゃるのかな?」
「ヨハン?さっき立ち会いの終わったガルーグの方に行ったみたいだけど」
「はいはい、なるほどなるほど……」
貼り付けたような笑みを浮かべて一歩、ミィンへと近づく。
その場にいた2人には、彼の思惟を感じ取ることは出来なかった。
「ミィン嬢。正直、邪魔です」
「え?_______________」
するりと取り出され、短剣が牙を剥く。
振られた刃が向かうのは小さな喉元。
迫り来る凶器に、ミィンが反応できるわけもなく。
ガ キ ィ ン !!
甲高い金属音を上げて、握られていた短剣が宙を舞う。
「これは……人形?!」
短剣は綺麗に弧を描いて、とある少女に受け止められた。
「ねぇ、ウチの友達に何してんの」
少女はギザギザの歯を覗かせながら、不愉快そうに笑った。
「ディアーヌちゃん」
「離れてて。あ、そこの竜人族の子も一緒にね」
「クーシィさん、なんで……?」
唖然とするプレアと共にミィンは後ろに退った。
2人が離れたのを確認してから、ディアーヌは目の前の男を睨む。
「どっかで見たと思ったら、フロストハートの長男じゃん?こんなとこで何してんの?」
「ディアーヌ嬢、篭りきりの貴女が外に出るとは珍しい」
「そっちこそ。もうこっちに未練なんて無いと思ってたんだけど」
「今も無いままですよ。これはちょっとした気まぐれです」
「弟君、かなり苦労してるけど」
「弟……?ああ、居ましたねそんなの。まだ生きてます?」
「っ、ほんと初対面とは思えないほどムカつかせんね」
パチン、とディアーヌが指を鳴らすと、どこからともなく人形達が集まって来た。
屈強なタイプから俊敏なタイプまで、あらゆる人形がクーシィを取り囲んでいった。
「引っ捕まえて家の人に謝らせてやる」
「出来るものなら、どうぞ」




