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2-28 戦士

 

 “村”では毎回、任務と称した魔物退治を行っていた。

 4人のパーティーで数十体の魔物を相手にするのだ。

 現れる魔物の種類は様々で、もちろん中には狼の姿をした魔物もいた。

 その魔物は動きが速く、中々にしぶとい。

 一匹だけならまだしも、同種と連携を取り始めると手がつけられなくなる程だった。


「なるほど、コイツは_______________」


 瞬く銀光。

 多角的に襲いかかってくる斬撃を前にして、オレは防戦一方となっていた。


「どうしたぁ!守るだけじゃ勝てねぇぞ!!」


 虚を裂く短剣。

 短剣を完全に振り切った後のニクスの身体は隙だらけである。

 しかし


 駆動音。

 直後に飛ぶ、金属製の爪。


「っ……!」


 狼型の機杖(ワンド)がニクスの隙を埋めるようにカバーしているのだ。

 付け入る間がまるで無い。

 狼の方を狙おうものなら、次はニクスがカバーに入るだろう。


「なんとか言ったらどうだ、処刑人!!」


 弧を描く切っ先。

 オレは回避と同時に、両者の射程外にまで退き止まった。


「あ……なんだ、休憩か?後が押してんだから短めに頼むぜ」

「別に休憩とかじゃないっス。てか、これ何したら勝ちなんスか?」

「どっちかが戦えなくなったら終わりだ」


 相手からの追撃はなし。

 息をつき、腰を下ろす1人と1匹に目を向けた。

 戦闘から数分、オレもニクスも無傷の状態が続いている。

 ニクスと狼型の機杖(ワンド)、どちらもそこまで強くはない。

 だが、双方による連携のせいか、思ったように反撃出来ないでいる。


「ちっ……武器さえあれば、少しは違うんだが」

「マジで休憩はしねぇみてぇだな。なら、いかせてもらうぜ」


 ニクスが短剣を軽く振ると、狼がオレの右方へと移動した。

 丁度、両方を視界に捉えられなくなる位置だ。


「こりゃ……無理か」


 刹那、2体がほぼ同時に走り出す。

 変わらず同じ戦法、片方の隙をもう一方がカバーするように追撃、これを繰り返すのみ。

 絶妙なタイミングで繰り出される連撃に付け入る隙などない。


 カッ、と四足が地を蹴る音。

 なんの躊躇も無く狼の鉄爪が喉元に向かって飛んだ。

 回避に難はない、問題はその後にある。


「この連携、崩せるもんなら崩してみやがれ!」


 狙いすました次撃が放たれる。

 対するオレは、短剣の向かう先に左手のひらを広げてみせた。


「ほら、崩しますよ」

「な……?!」


 刃が皮を貫き、焼くような苦痛が走る。

 屁でもない。

 驚愕するニクスを見据えながら、短剣ごとその手を握りこんだ。


「耐えてみてください」


 その場から離脱し切れていないニクスを無視して、右の拳骨を思い切り叩きつけた。


 ゴガッ!!


 骨の弾丸と臓物の激突。

 そのリザルトとして、ニクスの身は大きく後方へ吹き飛んだ。

 くの字に折れ曲がった身体は、地を車輪のように転がっていく。


 歓声。


 オレの攻撃が決まった途端、うっとおしい声が戦場を包んだ。


『うおおお!ガルーグ様すげええぇぇ!!』

『ガルーグ様ぁ♡こっち向いてー♡』

『ざまぁみやがれフロストハート!』


 確かなイラつきを覚えながら、狼狽えていた狼を軽く蹴り飛ばした。


「このお遊戯大会、無傷で制覇してやろうって思ってたっスけど、そうはいかなかったっス。流石っスねニクス様」

「ガ……ハッ!ちく、しょう……舐めやがって……!」

「舐めてないっスよ。アンタが強いって思ったから、こうして本気で反撃しました」

「上からものを、言うな……まだ、勝負は決まってねぇ!」

「ふん、ほぼ勝負ありって感じスけど、まだやります?」

「やるに決まってんだろ!!」


 ニクスは震える足で立ち上り、短剣を構えた。

 その瞳は劣勢である男の瞳ではない。

 まるで、まだ先に勝機があるかのようなものだった。


「無駄っスよ。これ以上アンタが頑張ってもオレには勝てません。万が一勝ったとて、それで何もかもが変わるわけでもないっスよね?」

「……かもな。確かに勝って周りが認めるとは限らねぇ。フロストハートも低迷したまんまで、何も変わらねぇかもしれねぇ」

「じゃあ」

「だからここで諦めるのか?違うな。俺様はそんな生半可な気持ちでここで立ってねぇ」


 無様な姿だった。

 立ってもなおよろめく足。

 武器を握る手は痛みに耐えているからか、震えている。

 その姿は今にも倒れそうな、死にかけの戦士に見える。

 それでも彼は立てる。

 何故……?


「それは結構。ですが……」

「俺様は、テメェを誇り高い戦士だと見込んで!最強の男だと認めた上で戦いに挑んでいる!」

「……。」

「勝って!俺様がそれほどの男だと証明するために!自分にそう言い聞かせるために立ってんだよ!」


 気迫は、覇気は何も変わらない。

 彼がこの戦場に足を踏み入れた瞬間から今まで、彼の心境は何一つ変わっちゃいなかった。


「構えろぉ!!俺様の全てで、テメェを打ち倒す!!これが今の俺様にできる事だ!!」

「……いいだろう」


 本気と言いながらも、どこかで手加減していた。

 “陸”の弱者だと侮っていた。

 だが、もうその必要は無い。

 この目の前の戦士を全力でぶっ潰す。

 今のオレにはそれしか頭になかった。


「久しく忘れていた“熱”だ。感謝する、ニクス・フロストハート。お前は戦士だ」

「ほざけ!勝つのは俺様だ!!」


 構え、目の前に広がる世界へと入り込む。

 熱と痛みが渦巻く世界。

 本当の戦い。

 いつになってもこれだけはオレを掴んで離さない。


「来いよ」

「っ、テメェに言われなくてもなぁ!!」


 叫びと共に駆け出す黒の弾丸。

 接近して、奴の射程に入るまでそうかからない。

 見積もっても、わずか数秒_______________


「……!!」


 だがその疾走は中断される。

 まだ互いの手が届く訳でもない、微妙な距離。

 そこでニクスは短剣の切っ先で何かを描いた。


「_______________“猟犬(ハウンド)咆哮(ロア)


 その瞬間、どこか死角から爆音が鳴り響いた。

 犬の遠吠えにも似た音は、耳を塞がなければいけないほど。

 耐えきれず、両手で耳を塞いだ。


「っ!これは、あの狼か!」

「 !!」


 音ない世界の中、ニクスは短剣をオレに向けて投擲する。

 回避が間に合う距離ではない。

 咄嗟に片足を振り上げ、短剣をはじき飛ばした。


「 」


 咆哮は続いている。

 両手は使えず、片足もまだ振り上げたまま。

 オレの取れる手を詰めるようにして生まれた不利状況。

 その微かな勝ち筋をニクスが見逃すはずがない。


「 !!」


 走り寄るニクス。

 何か近づいて一撃当てるつもりだろう。


「_______________悪いな」


 申し訳なさとは裏腹に、超人的な肉体は躍動を始める。

 オレはニクスが近づくと同時に、残っていた足で力強く地を蹴った。


 不安定な体勢から繰り出される宙返り。

 そして、勢いよく浮かんだ足先は攻撃に十分なほどの威力を秘めていた。

 繰り出されたのは所謂、サマーソルトキックである。


 ガ ゴ ン !!


 歯と歯がぶつかった鈍い音。

 砕かれんほどの勢いで、ニクスの顎は蹴り上げられた。


「それでも、アンタは勝てねぇ。この絶対的な差は、悲しいほどに埋まらねぇんだ」


 ワァァァァア!!


 再び上がる歓声。

 ニクスの思いなど、オレとの差など知らない彼らは無慈悲にもオレの勝利だけを願った、鼓舞し続けた。

 誰も彼を認めてはいなかった。


「う……あ……」

『ストップ!ストッープ!大会側からストップが掛かりました!ニクスさんはこれ以上戦うと危険だそうでーっす!』

「負けて……ねぇ……」


 それでもなお、ニクスはオレに向かって来た。


「ストップらしい。諦めろよ。アンタはよくやった」

「まだ、なにを突っ立って、やがる……構えろ」

「だから、ストップって」

「構え、ろぉ!!」

「……!」


 あの爆音の中、ニクスは耳を塞いでいなかった。

 防音の対策をしていたわけでもない。

 恐らく、ニクスに歓声やアナウンスの声は聞こえていないのだ。


「っ……くそ」


 舌打ち混じりに近づくと、ニクスは力の入っていない手で胸ぐらを掴んできた。

 まだ、戦う意思は潰えていない。


「もう終わった。アンタの負けだ」

「うっ、せぇ……何にも、負けちゃいねぇだろ!」

「こんだけ近づきゃ聞こえるか……おい!聞け!大会側が続行不可能だって認めたんだ!もう終わりなんだよ!」

「は……んなの、俺様が認めるわけ」

「そういうルールなんだろ!アンタの負けなんだよ!」

「ちが、う……オレは、まだ何も」


『引っ込めフロストハート!』

『次があるんだよ!早く退け!』

『さっさと引っ込め雑魚!』


「……ほら、見ろ。観客は皆、アンタを讃えてるよ」

「え……」

「アンタには聞こえてないかもだが、観客はアンタの頑張りを認めて、褒め称えてるんだよ」

「俺様、を……?」


 実際には、聞くに耐えない罵詈雑言が飛び交っている。

 誰もニクスを認めちゃいない。

 それでもコイツが少しでも救われるのなら、嘘でも_______________


「ふざけんな」

「……?」

「ふざけんな!俺様は、本当はこんなヤツらに認めて欲しくて戦ったんじゃねぇ!!こんな、こんな有象無象共に!」


 それはオレの思い違いだった。

 ニクスは涙を流しながら


「俺様は、お前みたいなのに勝ちたくて……!!」


 心底悔しがりながら


「お前みたいな強者に認めて欲しくて……!」


 薄れようとする意識に抗いながら


「兄貴に、認めて欲しくて……」


 静かに倒れた。


 轟々と燃えていた瞳は瞼に塞がって見えない。

 倒れた1人の男に無数のブーイングが降り注いでいた。

 この戦場に立たない者は、熱と痛みを知らない者は彼を認めない。

 だが、数少ない強者は、彼の意思を見たものだけは彼を認めていた。


「……すまんな」


 少なくともオレは認めていた。

 彼を1人の戦士として。


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