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2-26 布告

 

 銀色の太陽に、目もくらむような炎天下。

 立ち上る熱気がオレの体温をジワジワと上げていく。


『第1回戦の勝者は、インガウェークの処刑人!ガルーグ・メルスバッサァァァァ!!』


 甲高く大袈裟な声が辺りに響き渡る。

 オレには、押しつぶすような黄色い歓声が圧となって襲いかかっていた。


 _______________舌打ち。


 賞賛の声も、今じゃ暑さから来る不快感を助長するだけである。


「ダッセェ通り名……いい加減変えろよ」


 不機嫌そうな表情で退場したところで注目する者は皆、暑さを忘れているかのように拍手している。

 異常だ。他人が勝っただけで何がそんなに嬉しいのか。


「わー!やったー!ガルーグ、こっち向いてー!」

「ふん……」


 全員、アイツと同じくらいバカだ。

 群衆に紛れて飛び跳ねる一つの影を小さく鼻で笑った。


 〜〜〜〜〜〜


「お疲れ様!はい、水分補給は大事だからね!」


 戻るや否や、ミィンからガラス製の筒を渡される。

 温い水を飲みながら、眼下に広がっている人の波を見つめていた。


 “地上練武会”

 学園外にある闘技場で催される生徒同士による武道大会らしい。

 生徒の域を出ないレベルだが、観客席には将来有望な人材を探しに空警団の者がちらほら見えている。

 ちなみに今いる場所はインガウェークに用意された特等の観客フロアである。


「しばらくは出番なしだよね。ほら、座って休んで。マッサージしてあげるよ」

「いや、大して疲れてないんで。いいっス」

「貴様、奴隷の身でありながらミィン様のお心遣いを無下にするか!」

「誰スかこの人連れて来たの」

「バカが!己の意思でここまで来たわ!」


 暑苦しい老獪の顔が疲労を加速させる。

 今はプレアがいないので正直助かるが、別の人が来て欲しかった。

 この人以外なら誰でも良かったのだが。


「ヨハン、ちょっとうるさいよ。ガルーグは疲れてるんだから」

「む、むむぅ。ですがミィン様、この奴隷をこれ以上図に乗らせては……」

「いや、だからオレは別に疲れてはないっスから」

「いいから貴様は黙っておれェ!!」

「ヨハン!」


 怒るミィンに焦るヨハンの爺。

 割と見慣れた光景に嘆息していると、背後からヒタヒタと忍び寄る気配を感じ取れた。

 すり足気味の足音、大体誰なのかは分かっていた。


「_______________電気マッサージ!」

「いいっ!?てぇ!!」


 ただいきなり電撃を浴びせられるとは思わなかった。


「おっす脳筋。元気してるー?」

「っ!何しやっ、がってんです……ディアーヌ様」

「電気マッサージ。多分疲労に効くんじゃね?」

「根拠もないのにしないでください」

「大丈夫、死なないように威力抑えてっし」


 チカチカと紫電を放つ機杖(ワンド)を片手に、白衣姿のディアーヌはケラケラと笑って見せた。


「あ!ディアーヌちゃん!来てくれたの!」

「あ!じゃねー。近寄んな触れんな抱きついてくんなー!ちょっと挨拶しに来ただけだから!」

「いけずぅー」


 こっちも例のごとく、ミィンに(物理的に)絡まれるディアーヌの光景である。

 特等席というからもっと静かなのを想像していたが、下の観客席よりも騒がしいのではないか。

 1回戦をこなすのより、コイツらの相手の方が疲れる。


「で、何しに来たんスか。ただの挨拶ってワケでもないでしょう?」

「何でそうなるし。ただの挨拶だっつーの。ソドムのとこの坊ちゃんに、竜人族の娘返してもらえんだって聞いて気になったの」

「返すと言っても、無事レオを倒せたらの話っスけどね」

「あら?自身無い系?」

「真っ向から挑んで勝てないのはあっちも承知のはずっス。どんな手取られても勝てる自信は流石に無いんで」

「ガルーグなら行けるよ!頑張って!」

「ふん、そんな弱腰でミィン様の護衛が務まると思うなよ」

「……はぁ」


「そうだ!そんな弱腰じゃ、勝てるもんも勝てねぇぞ!」


 唐突に響く、良く張られた声。

 そのドスの効いたやる気満々の声色からは不気味な雰囲気すら覚えた。


「あ、ニクス君だ」

「フロストハートの次男坊じゃん」

「キャピキャピうっせぇよ、ご令嬢共が。てか何で地下女まで引き連れてやがる」

「なにその不名誉そうなアダ名」


 ニクスは面倒そうに派手な髪を掻き上げながら、オレに向かってツカツカと歩いて来た。


「聞いてたぜ。レオ倒せば、そっちの欲しい手がかりが手に入るんだろ」

「勝てたらの話ですけどね」

「お前ならいけるだろ。こっちとしては、兄貴の居場所まで繋がるかもしれんから、頑張って欲しいもんだがな」

「ええ、それは_______________」


 言いかけた所を遮られる。

 ニクスの手の先、握られた短剣がオレの鼻先にまで突きつけられていた。

 透き通るような金属の反射に、ニクスの笑みが写る。


「だからといって、俺様は手加減する気はねぇからな」

「……何の話スか」

「次の対戦相手ェ!テメェのことだから興味ねぇとは思っていたが、マジとはなぁ」


 ゴングの音と共に、闘技場の上空に文字が浮かび上がった。

 そこには勝利したであろう生徒の名前が並び、その中にはオレとニクスの名が隣り合わせに立っていた。


「俺様と戦うんだ。舐めた真似したら一生恨んでやるからな」

「……ご勝手に」


 闘気を帯びた赤い瞳がオレを鋭く眼差す。

 だがそれは脅威とは程遠い。

 オレからすれば、せいぜい野良犬に睨まれている程度。

 今のオレの意識は全く違うものに向いている。


 レオ・ソドム


 他でもない、上空に浮かんだその名にオレの視線は向いていた。


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