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2-25 挑戦


 オレンジかかった空、ゾロゾロと群を成し同じ方向へと進んでいく影達。

 時が過ぎ、今日も今日とて学園には終わりのムードが漂っていた。


「レオく〜ん!ばいばーい♡」

「また明日〜♡」

「ああ、うん。さよなら」


 女生徒が猫なで声と共に去っていく。

 レオ・ソドムはそんな彼女らに愛想笑いを返す。

 ソドム家の人間であり、見目好い彼の見た目は学園の女生徒達には好意的に写っていた。

 それゆえにレオはウンザリしていた。

 家柄や見た目……上辺でしか判断出来ない者共がここには多かった。

 _______________本当はもっと……。


「ん?あれは」


 正門前に立っている影に思わず目が止まる。

 彼が一人で居るのを見るのは珍しいので、ついつい声を掛けたくなってしまった。


「珍しいね。どうしたんだい一人で」

「あ?……レオ様か」


 刃のように殺気立った視線がこちらに飛ぶ。

 彼はガルーグ・メルスバッサ。

 インガウェーク家の一人娘、ミィン・インガウェークの付き人(?)だ。

 その異常なまでの戦闘能力や本物の戦士の様な出で立ちで周りから浮いているが、少数ながら彼のファンも学園にいるらしい。


「珍しいね。誰かを待ってるのかい?」

「ええ。こう人が多いと注目されるんで、早く来て欲しいと思ってるんですけどね」

「それはご苦労さま。大変だね付き人っていうのも」

「そうでもないっスよ。これは好きでやってる事ですし」

「へぇ、意外だ。てっきりミィンさんの相手は嫌々してるものかと思ってたよ」

「は?いや、それは普通に嫌々ながらしてますけど」

「え……キミはミィンさんを待ってるんじゃないのかい?」

「全然違いますよ。いつも通りなら、アイツにはオレとは別の迎えが来てるはずなんで」

「じゃあ、一体誰を?」

「そりゃもちろん_______________」


 依然として変わらない彼の瞳は、鋭く僕に向けられた。

 決して親愛とは程遠い感情を感じ取り、思わず身震いする。

 彼が待っていたのは、大事な大事なご主人などではない。


「レオ様、アンタを待ってたんスよ。とっても重要な話があるんで」

「君が、僕にかい?一体何を」

「心当たりなら自分に聞いてみればいいんじゃないスか?」

「_______________?!」


 明確な殺意は、目の前の僕に。

 息が詰まりそうになるのを堪えた。


 心当たりならある。

 だが、何故それを彼が?

 気づくにしても早すぎる。


「場所、変えましょうか。この辺じゃ邪魔になるんで」

「……ああ」


 促されるまま、彼の後をついて行った。


 〜〜〜〜〜〜


 人気のない校舎裏にてレオと対峙する。

 焦るわけでもなく、警戒するわけでもなく、彼は悟った表情で空を眺めていた。


「ここなら人はいない……どうスか。何か心当たりはありましたか」

「もちろん。歩いている間に思いついたよ」


 レオは取り繕うような素振りも見せず、当たり前のように告げる。


「ミィンさんの傍にいた竜人族の奴隷。アレが今インガウェークにいないのは、僕の仕業だよ」

「随分ハッキリと言うっスね」

「事実だからね。君だってそれが分かってて僕に話しかけたんだろう?」


 肩をすくめ、小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 ディアーヌの魔導人形が捉えていた怪しい影はレオ・ソドム其の人。

 他に接触した者がいなかった以上、それらしい人物はレオだけ。

 それをレオ自身が認めたということは。


「……アンタは革命軍の一員ってことでいいんスか」

「ちょーっと違うかな。まだ彼らに一員とは認められてないからね」

「まだ?」

「彼らの味方はする者ではあるってことさ。君らが探ってるスパイってのも多分僕だよ。そんな大層なもんじゃないけど」

「ペラペラと喋ってくれますね。何か口封じする手立てでもあるんスか」

「無いよ。でも、君には提案があるんだ」


 そう言うと、レオは懐から小さなエンブレムを取り出した。

 羽の生えた生き物をモチーフとした金属製のものである。


「君も革命軍に入らないかな?」

「……なに?」

「革命軍は“陸”の打倒と奴隷の解放を目指していてね。どうやら、君も奴隷らしいじゃないか」

「ちっ、誰から聞いたんスか」

「そんなことはどうでもいいよ。どうなんだい?」

「入らねぇよバーカ」


 生憎、革命にも奴隷解放にも興味はない。

 ぶっきらぼうに答えてやると、レオは不愉快そうに眉をひそめていた。


「……なんでだい?君ほど力を持っていながら、奴隷として生きるなんてもったいないと思わないのかい?」

「オレはこの奴隷としての生活で満足してる。それをぶち壊そうなんて考えたこともねぇな」

「なんでだ。君ならこの“陸”を、奴隷が虐げられている世界をひっくり返すことなんてわけないはずだ」

「んなことしても何にもなんねーよ」

「なるんだよ!そのために革命軍がある!」

「……ちょっと前、蒼穹の魔術師に憧れていた生徒達をバカと一蹴してたアンタはどこに行ったんだ」


『そう、君の思ってる通り皆馬鹿なのさ』

 呆れたように眺めていたレオの瞳は偽りではなかった。

 本当に、哀れなものを見るような目をしていたはず。


「“蒼穹の魔術師”は偉大な人だ。“陸”にいる奴らは皆、あの人の力しか、表面しか見ていない!」

「はあ?」

「あの人は搾取され続けている亜人のため!“陸”でのうのうと生きているボケ貴族達を打ち倒すためにその力を振るっている!その志の大きさ、素晴らしさ、何故誰も分かってないんだ!」

「浅い偽善、アイツが掲げてんのはそんな大層なもんじゃねぇよ。強者に憧れる方がまだ好印象だぜ」

「蒼穹の魔術師をアイツ呼ばわりするな!」


 ハッキリとした怒りの眼差しがオレへと向けられる。

 コイツは革命軍の信者のようなものだ。

 名家の人間でありながら、脅威たる敵の志に心酔しているバカである。

 そして、その地位を外れ、革命軍に入ろうとしている突き抜けたバカなのである。


「強いのに、何もしないでいる君よりもよっぽど立派な人だ!」

「……そうか?アイツは自分一人のために故郷を捨てるようなクズ野郎なんだがな」

「は?何を、分かったつもりで」

「オレはその故郷に住んでた。アイツの我儘のせいで無茶苦茶にされた被害者の一人だ」

「な!どういうことだ」

「……分かんなくていい。とりあえずアイツはクソってことだ」


 喋る必要のない事まで喋ってしまう。

 それくらい、アイツが持て囃されてるのは気に入らなかった。

 あんなクソ野郎が亜人のために奴隷解放なんて、願ってるはずがない。


「分からない……だが、何となく分かったよ。君はあの人に縁のいる人なんだね」

「まあそんな感じだ」

「なら、やっぱり君は革命軍に入るべきだ。僕はどんな手を使っても、君を革命軍に連れていく」

「何をすればいい?主人を殺すと脅そうか、それともあの竜人族を殺そうと脅せば、それとも……」


 レオは病的な目つきでオレを見てくる。

 呪詛のようにブツブツと呟きながら、オレを脅している。


「はぁ……余計なことすんな。そんなにオレを引き入れたいんなら、こっちから条件出してやるよ」


 インガウェークなんてどうでもいい。

 “陸”がどうなろうと知ったことではない。

 だが、ミィンがコイツによって危険な目に遭うのは気に入らないし、プレアが見えていない所で死ぬのも気に入らない。


「オレを打ち負かしてみろ。ちょうどこの学園には丁度いい催しがあるんだろ」

「……!」

「その代わりオレが勝ったら、プレアをここに留まらせろ。革命軍からも、手を切るようにお前から言え」

「ふ、ふふふ。いいねそれ。乗ったよ」


 夕刻の空の下、レオの不敵な笑みと向き合いながら、その契約を交わした。

 不思議とその時、オレの頭には2人の少女の安否のことしか浮かんでいなかった。


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