2-23 聞き込み
三度、木製の扉を叩いた。
数秒待つが、扉の向こうから返事はない。
「ご主人!時間っスよ!そろそろ起きないと朝飯食べれませんよ!」
周りの使用人達に睨まれながらも、オレは大声を張り上げていた。
だが、帰ってくる返事はボソボソとした独り言だけ。
「遅れますよ。それとも朝ごはんは抜きっスか?」
「やだ、行かない」
「ちぃっ!入りますよ!」
苛立つ精神を抑えて、部屋に入る強硬策を取る。
部屋に入ると、シーツにくるまった主人の姿がすぐ目に入った。
「なにしてんスか。まさか、まだ寝るつもりスか」
「寝ない……けど、今日学校には行かない」
「ふざけたこと言ってないで。当主様も心配してますから」
「プレアがいない学校生活に価値なんてない……」
「ちっ、戻って来るまで引きこもる気スか」
「そうだよ。当たり前じゃん」
不貞腐れた表情のミィンに痺れを切らし、ミィンのシーツを思いっきりひっぺがした。
舞う埃と陽光の中、下着姿の肢体が露わになった。
「_______________!ガルーグのえっち!」
「っせぇな!ガキの裸なんざ見ても何も思わねぇよ!」
「ま、まだ発展途上なだけだよ!大きくなったら、胸もお尻も、もっと……」
「お前の発育はどうでもいい。いいから早く着替えて準備しろ」
「う……昨日プレアに会ったんでしょ?げ、元気してた?」
ミィンは渋々ベッドから降りながら、自信なさげに訊ねてきた。
「元気ではあったな。家を出たのは、熟考の末なんだと」
「やっぱり、そうなんだ……」
「あー……いや、本人も割と迷ってる感じではあった。アイツ自身の意思かどうかってのはまだ確かではねぇよ」
「……あれ?もしかして励ましてくれてたりする?」
「ちっ!!殺すぞクソガキ!!」
ふふふ、と嬉しそうに笑むミィンにカッとなると、苛立ち混じりに洋服棚を開けた。
中では花の香りと共にきっちり揃えられた洋服の軍が列を成している。
オレはぶっきらぼうに制服を取り、ミィンへと突き出した。
「えへへ、へ……けど、やっぱり行きたくないな。ガルーグがいないとボク一人だもん」
「そのくらい我慢しろ。早くアイツに会いたいんだろ?なら、オレ達は学校に行く必要がある」
「え?どゆこと?」
「アイツの居場所を知る手がかりが学校にあるって話だ」
「それ、ホント?!」
「マジだ。お前にもそれなりに動いてもらうからな」
「うん……うん!」
突然エンジンがかかったように動き始めるミィン。
まあ、その実コイツにやれるなんて1つも無いワケだが。
見えない所で勝手にうろちょろされるよりかはマシだ。
おつかいと称して、ディアーヌの地下室に送り込んでやろう。
〜〜〜〜〜〜
何食わぬ顔で学園内を歩き回る。
目標はすぐ隣にあるとある教室だ。
入室すると誰もがオレの方に視線を向けるが、すぐに逸らされた。
依然として“処刑人”なイメージは払拭されないままだが、寄り付く輩がいないのでこれはこれで便利である。
「……お、いたいた」
お目当ての人物は派手な見た目をしているのですぐに見つかった。
机に突っ伏している1人の男の姿は、オレと同じように周りから煙たがられている様子であった。
「すんません!少し顔を貸してくれないっスか!」
「……あぁ?なんだうるせぇな」
「少し!顔を!貸してくれないっスか!」
「聞こえてんだよ!うるせぇってんだろ!」
ニクス・フロストハートは青筋を立てながら机を叩いた。
プレアの行動にはきっかけが、間違いなく誰かの干渉があった。
オレがいなかった間と言えば、考えられるのは学園にいる間。
その中であのクーシィ・フロストハートが接触したとは考えづらい。
と、来ればやはり学園内の誰かが革命軍と繋がっていると考えるのが妥当だろう。
それこそまさしく、学園に潜む革命軍のスパイである。
「オレ達2人はここじゃ目立つみたいっス。少し場所移しましょう」
「ああ……?お、そうか!いいぜ!とりあえず人気のないとこ行くぞ!」
何かに気がつくと、ニクスは上機嫌に教室を出て行った。
その様子に少し困惑しながらもオレはその後へとついて行った。
そして、所は変わって校舎裏。
ちょうどよくそこには人がいない時間だった。
「えっと、話ってのは……」
「ふっ!みなまで話さなくても分かるぜ!アレだろ!近いうちに学園でやる祭りごとの話だろ?」
「……は?」
「クラスの代表同士が剣と魔術を駆使して戦い合うっつーやつだな!当然俺様は出るぜ!お前もそうなんだろ!」
何やらオレの知らないことを嬉々として語っている。
盛り上がっているところ悪いが全く心当たりがない。
なんなんだコイツは。
「心配せずとも決勝まで残ってやる。お前もそうそう簡単にやられる奴じゃないから多分どこかで当たるとは思うが……」
「違う。違いますよニクス様。そんな話しに来たんじゃありません」
「何ィ?これじゃないってんならなんだよ。今すぐここで喧嘩すんのか?」
「馬鹿が……あ、すんません。口が滑りました」
話が通じないあまり思っていたことが飛び出てしまった。
突然の暴言にニクスも怪訝な……と、何故か満足気な表情だ。
「あー……あれっスよ。単刀直入に言いますけど、ニクス様が革命軍のスパイだって話っス」
「スパイ。なんでだよ。俺様が?」
「つい昨日、クーシィって人と会ったんスよ。知ってる名前でしょう?」
同じ家名なのだ、関係ないはずが無い。
となればコイツが革命軍の関係者……。
「……!!」
一変して険しい表情。
驚き、困惑、そして怒り?
ニクスは何か単純ではない感情を表した顔をしていた。
「会った……?なら、答えろよ。どこで会った。どんな面下げてこの“陸”に降りてた?」
「いやだから、今ソイツがどこにいんのか聞こうとして……」
「答えてくれよ!!兄貴は今どこで!何してやがんだ!!」
怒り、その裏に悲しみに似た色が垣間見えていた。




