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2-15 駆動

 

「いないじゃぁぁん!!」


 ミィンの絶叫が辺りに響き渡った。

 実習が開始して数分、オレ達は生徒に1度も遭遇出来ていなかった。


「なんで?ねぇなんで……どういうことかな」

「落ち着いてください。そんなに叫んでも、友達になってくれる人は出てきませんよ」

「人形なら、いくらでも来てんだけどな」


 足元に転がっている人形の残骸を軽く蹴飛ばした。

 機杖で作られているという人形は生徒への安全面も考慮してか、かなり脆く作られていた。

 オレの拳で装甲を貫けたほどだ。


「まあでも……ご主人の言う通り、生徒を1人も見かけないのはおかしいか」

「森もそんなに広いわけでもないし。もう実習終わってたりしてね」

「……帰るか」

「まってまって、勝手に帰っちゃダメ!終わりなら先生が呼びに来るでしょ!」


 必死の形相でミィンが呼び止める。

 これまでで人形は何体か倒してきたが、生徒には1人も会えていないのだ。

 プレアの言う通り、森はそこまで広くない。

 1クラス分の生徒が集まっていれば、1人は遭遇するはずである。


 異常事態?

 もしこの状況がオレ達だけなら。

 昼の“革命軍のスパイ”の話が、頭に何度も沈んでは浮かんでを繰り返していた。


「……とりあえず、一旦出た方がいいんじゃないスか」

「イヤだ。誰かに会うまで続けるよ」

「明らかに何か起きてるんスよ。でなきゃこうはなってません」

「勝手に帰ったら、色々ダメでしょ」

「怒られるだけってんなら1度出るべきっス。オレだって万能じゃないんスから、何かあって絶対守れるとは言えません」

「イヤだ!ここで友達作るんだい!」

「っ!……テメェのしょうもないワガママに付き合ってる場合じゃねぇかもって話だ。命と友達、優先すべきはどっちだよ」

「ボクは2人が死ぬくらいなら、自分の命を差し出すよ」

「……今そういう話してんじゃねぇ」

「そういう話してたじゃないか!」

「_______________あ、ちょっと2人とも静かに」


 プレアが人差し指を口に当てるジェスチャーをした。

 従うがままに息を潜める。


「……コ……どコ……?」


 人の声のようなものが遠くから響いてきていた。

 聞き取れるなり、ミィンの表情がパッと明るくなった。

 ちょっとムカつく。


「ほーらっ!いるよねやっぱり!ボク達居るのに皆帰っちゃうなんてないんだよ!」

「ちっ……じゃあどうすんスか。あそこの人は人形に襲われてないっぽいスけど。襲われるまで待ちますか?」

「プラン変更!今からお喋りして普通に仲良くなってきまーす!」


 それが出来ねぇから今ボッチなんだろ。

 ミィンはスキップ気味の足取りで見えた人影まで近づいていった。


「生徒、普通にいたみたいだけど?」

「るせぇ。森出ようとしたのは、万が一を警戒しただけだ」

「マスターのこと心配してたっぽいけど。珍しいんじゃない?昼に何かあったの?」

「な!に!も!なかったっつの!何ニヤけてるやがる」

「マスターに情でも湧いて来たんじゃん?」

「殺すぞ」


 怖っ、とプレアは半笑いで呟いた。

 あのガキに、情だと?

 オレもプレアも奴隷としての身を守るため、ミィンの傍にいるだけだ。

 インガウェークなんぞ、オレとしてはいつでも抜け出せる。

 オレが真に恐れているのは、奴隷であるオレが役割を逸脱して、また“村”のような結末を生むかもしれないことだ。


「情なんぞ、微塵も湧いていない」


 言い聞かせるように独りごちた。


「ご機嫌よう。君、ペアの人はどうしたんだい?」


 猫かぶったまま、ミィンは人影に近づいていく。

 いわゆる“王子様モード”だ。

 オレら以外を相手にするときミィンはああやって……


「_______________!!」


 人影の開いた右手が大きく上に釣り上げられる。

 嫌な予感、察知したと同時にオレは走り出した。


「……え」

「ミィン!伏せろぉ!!」


 上から落とされた平手がミィンに触れるよりも早く、オレの足先が影へと触れる。


 ガ ゴ ォ ン !!


 り飛ばされた影はくの字に曲がり、後方にあった木に勢いよくぶつかった。


「え……?」

「あっぶねぇ!ちゃんと伏せろっつったろ!」

「いや……いやいやいや!生徒蹴り飛ばしたらダメでしょ!ガルーグますます悪評高くなっちゃうよ!」

「そんな場合じゃなかっただろうが!おいプレア!ご主人連れて下がってろ!」


 影に目を向けながら、足先で軽くを地を叩いた。

 衝撃の瞬間、足に触れたのは肉や骨の感触ではない。

 硬く、重く、曲がらない、金属の感触だった。


「みつけタ。つのつキ。インガウェークの、おんナ」

「人形……?いやだが」


 さっきまで倒していたヤツらと同じ、機杖(ワンド)仕掛けの人形。

 サイズや素材が今までのとは違い、加えて言葉を発している。

 そして何よりも、さっきミィンに襲いかかっていた。


「はっけン、ほうこククク……」

「お前、動きが違うな。さっきの奴らはやっても掴みかかるくらいだった。お前には容赦が足りてねぇ」


 生徒の安全面を考慮。

 そんな思想など無視したかのよう。

 巨大、強靭、そして鋭利な身体。

 まるで戦うために生み出されたような人形だ。


「どうもきな臭ぇ。テメェが革命軍のスパイってやつでいいか?」

「つか、まえル。けど、じゃまな、ものガ」

「はっ!とにかく、テメェはここの人形の役割を外れてる。オレの前でそれしたらどうなるか、よく分からせてやるよ」

「ふム……りょうかイ」


 棒立ちだった巨体が深く沈む。

 ほの暗い森の中で人形の瞳が淡く灯っていた。


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