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2-13 邪魔


「起きなさい。寝坊助」


 ガッ、と後頭部に衝撃。

 ぼんやりとした意識を作動させながら、オレは机に伏せていた顔を上げた。

 まず目に入ったのは不機嫌そうなプレアである。


「授業中のくしゃみといい、あんま目立つマネしないでよね」

「寝てる、だけだろ。ふ、ぁ……今何時頃だ? 」

「授業終わってお昼休み。アンタ朝からずっと寝てるわよ」

「ようやく昼飯時か。今日も食堂か?」

「マスターは、ね。アンタはその前に用事があるみたいよ」

「あん?用事?」

「それじゃ私とマスターは行ってくるから」

「あ、おい待て。おいって!なんだよ用事って……」


 オレの荒らげる声を無視し、プレアはミィンの下へと戻って行った。

 その奴隷らしからぬ態度に顔を顰めていると、今度は横から現れた人影がオレの前に立った。


「ガルーグ君、呼ばれてるよ」

「レオ様……どうも。その呼んでるってのはまさか」

「何だったかな?”コネのギンジ”だったかな?」

「はぁ、相変わらずダセえ通り名。これで何人目っスかね」

「確か、5人目じゃないかな」

「……また昼飯はお預けってワケか」

「ご苦労様。噂をすれば、あっちから来てくれてるみたいどよ」


 廊下から威勢のいい声が聞こえてくる。

 その声の主が誰なのか、何を目的にしているのか分からない。

 だがしかし、最近この時間になると現れるのだ。オレと戦いたいという輩が。

 そしてソイツらは決まって何かの通り名を持っており、それをお決まりかのようにまず名乗っていく。

 どうもその物好きの間ではオレは有名らしい。


「……あいつらは楽そうでいいな」


 クラスメイトと親し気に話すミィン、そしてその後ろに隠れるプレアを見て小さく息をついた。

 入学して一ヵ月、オレの悪目立ちに周りが慣れてきた辺り。

 オレがこうしてワケの分からない界隈を相手にしている一方で、ミィンはこの学園に溶け込んでいた。

 今では中性的な見た目も相まって”王子様”なんて呼ばれている。

 噂では学問、魔術、剣術まで何でもこなす完璧超美少女、という触れ込みだ。


 当然学園内では目立っているが当人もプレアも気にする様子はない。

 魔力のことを忘れてるんじゃなかろうか。

 持ち上げすぎて逆に近寄りがたいらしく、友人と言った存在がまだいないのは好都合ではあるが。


「てめぇかっ!ガルーグ・メルスバッサってのは!」

「はぁ……ええその通りっスけど。なんか用っスか?」

「俺は”コネのギンジ”いずれ空警団の者全てと繋がりを持つであろう男だ」


 目標が高いようで低い。


「今日はガルーグ・メルスバッサ、貴様と」

「はいはい決闘するんスよね?ここじゃ人の目がつくんでちょーっと人気のないとこ行きましょーね」


 いつも通りアホを連れて教室を出る。

 出る際、尻目に見たミィンの顔は笑っていた。

 良かった。今日もいつも通りの世界だ。


 ~~~~~~


「_______________あが……」


 学園の校舎裏にて。

 ものの数分で“コネのギンジ”は地に伏していた。


「大体5分……余裕で昼飯が食えるかな」

「ま、待て!待ってくれ!」

「なんスか。勘弁してくださいよ。これで何人目だと思ってるんスか」


 手を払い、来た道を帰ろうとした所を呼び止められた。

 無視して帰るのも手だが、こいつの機嫌損ねるのも何かと面倒だ。

 なんせ、こっちとしては今の状況を広められたくない。

 挑んだ先輩を5人切りなんて、悪評に拍車がかかるに決まってる。


「伝言だ。聞いて欲しい」

「はあ伝言。誰が、誰にスか」

「我ら“学園13人衆”のリーダーから、お前へ」

「13人……()()()()()名前っスね。でも昼飯食わなきゃなんないんで」

「ま、待て!昼飯なら奢ってやるから!食う時間が無くなるほど時間は取らない!」

「……聞くだけ聞きましょう」


 奢る、という言葉に思わず惹かれた。

 学園内での食費諸々はインガウェークからの“奴隷に見合った小遣い”で賄っている。

 聞くだけで食費が浮くというなら聞くしかあるまい。


「我々に協力して欲しいという旨だ。この学園に迫る脅威に対抗するため、君の力が必要らしい」

「脅威。この平和な“陸”の中にそんなもんがあるんスか」

「あるのだよ。そしてそれは今もまさに、この学園に潜んでいる」

「もったいぶってないで、さっさと要件を言ってください」

「……革命軍のスパイがこの学園に潜入しているととの話なのだ」

「へえ」


 “コネのギンジ”は神妙な面持ちで語る。

 革命軍のスパイ、確かにこの“陸”の上での起きる問題としては大きいもの。

 そんなものを野放しにしてるとなればそれは学園内の生徒がどうこう出来るものでは無い。

 だが、だからといって何なのか。


「はあ……それで、オレにどうして欲しいんスか」

「フッ、流石“インガウェークの処刑人”ともなれば落ち着いているか」

「やめてください。そのダサい通り名広めてんの絶対アンタらでしょ」

「かっこいいだろ」

「ちっ……センスもどうかしてんのかここのヤツら」

「まあそんなこと今はどうでもいい。我々はそのスパイを探し回っているのだが、我々はまた見つけられていない」

「それをオレに?んなこと、見返りないとやらないっスよこっちは。ただでさえ主人に世話焼いてんのに」

「そこなんだよ!このスパイを捕らえることは、君の主人を救うことに繋がるのだ!」


 “コネのギンジ”は地に伏した格好のまま、人差し指をオレにビシリと向けた。


「どうもスパイは名家を貶めるために尽力している。ここ最近フロストハートについて黒い噂が流れてるのもそのスパイの仕業らしいのだ」

「らしい、スか?」


 フロストハートと言うとニクスの名家か。

 名家が勝手に落ちぶれてくれるのは、こちらとしては少しありがたいことだが。


「そして、君達インガウェーク家についても危うい噂が流れているのだ」

「……というと」

「使用人である君が、本当は半亜人の奴隷だという噂だ」

「へ、え……そうスか」

「な?そんな訳がないだろ?要するに名家の株を落とす為にデマを流してるのだ。我々はそんな革命軍のスパイを_______________」


 喋りを遮るようにオレは突っ伏した“コネのギンジ”の胸ぐらを掴み、勢いよく上げた。

 得意げだった男の表情が怯えに強ばる。


「ひぇ……!」

「っ!別にアンタらに協力するわけじゃないっス。協力するわけじゃないっスけど……」


 デマ?否、それは真実。

 確かに能力測定ではしくじったがそれでも“奴隷”だと確信してオレを見る生徒は1人もいなかった。

 それも当然、半亜人なんて存在この“陸”じゃほとんど拝めないし、どういう存在なのかさえほとんど認知されてないのだ。


 だが当てずっぽうにしろ、知った上なのにしろ、流されているのは真実。


「ソイツについて、もっと詳しく教えてくんないスかね?」

「ひゃ、ひゃい……」


 せっかくのオレの平穏を乱す気か?

 本当にスパイなのか、ただのバカガキなのか知らないが何をしてでも引きずり出す。

 オレの世界を崩すなら、生徒の役割を果たす気が無いのなら、それ相応の天誅を与えてやる。


「今なら喜んで、協力、しますんで」


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