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2-5 契約

 

「ごきげんよう奴隷のお二人。さあ遠慮せず座りたまえ」


 この家の当主であるエイン・インガウェークは目の前の奴隷に笑顔で勧めた。

 高そうな家具が立ち並ぶ執務室にて、話しかけられたオレとプレアは恐る恐る腰を下ろした。

 ちなみにミィンはその場にいなかった。


「いきなりで悪いのだが、君たち2人の年齢を教えてくれないかね」

「……?もうすぐで17っス」

「14です」

「そうかそうかそれは良かった」


 年齢を聞くなりエインは怖いくらい、心底嬉しそうに笑った。


「……なんだこれ。返答によってはオレ殺されてたのか?」

「しっ」

「聞こえてるよガルーグ・メルスバッサ……くん?長いからガルーグくんでいこうか」

「奴隷らしく番号で呼んでもらってもいいっスけど」

「まあそんなに畏まらないでくれたまえ。こちらとしては君たちとは仲良くなっておきたいからね」

「仲良くなりたい?私たち奴隷とですか」

「ああ。魔力持ちである君たちとね」


 奴隷とも手を取り合って、とかそんなんじゃない。

 今後何かに利用するため、エインにはそんな思考が透けて見えていた。


「ここに来て間もないが君たちは既にミィンのお気に入りだ。あの子の機嫌を損ねないためにも、君たちは大事にするつもりだよ」

「……どうも」

「今日君たちと話したいのはそんな我が娘ミィンのことだ。ミィンは今日で16になってね」


 そう言うとエインは1枚の紙を取り出した。

 何やら小難しい文字が羅列している。

 よく見るとミィン・インガウェークの名が端に書かれてあった。


「ミィンはこの年から学園に通うことになった。今までに通う機会は何度かあったが、ミィンはとある事情でそれが出来なかったのだよ」

「それはこの書類と何か関係が?」

「そうだ。ここの数値が見えるかね」


 指された部分に注目する。

 何が何やら分からないが、そこに0と刻まれているのだけは分かった。


「これはミィンが秘めている魔力を表す数値だ」

「数値ってのは高いほど多いってことでいいんスかね」

「残念ながら。インガウェーク家に生まれる者は必ず魔力を持って生まれていたのだが、ミィンはそうはいかなかったのだよ」

「要するに、ご主人様は魔力を持ってないってことっスよね」

「君たち亜人にとっては知らないが、我ら人間にとって魔力とは重要なステータスでね。このことは周りには一切喋っていない」


 インガウェーク家にとっては機密情報ということか。

 当然それを知ったオレたちがただで帰されるはずがなく。

 エインは突然懐から小さな装置を取り出した。


「これは君たちの首輪と繋がっている機杖(ワンド)だ。返答、行動次第ではこれを押すことになる」

「ひっ……!」

「ビビんなよ。よっぽどじゃなきゃあっちも押す気はねぇよ」

「う、ん」

「まず、この情報については完全に秘密だ。誰のせいで、誰に知られようと、まず君たち両方を殺す」


 嘘偽りない言葉だった。

 魔力持ちの奴隷である2人の命を天秤にかけても、その情報はエインにとって、インガウェーク家にとって重要なことらしい。


「では君たちが死なないように尽力することは何か、分かるかね」

「その情報が知られないようにするってことっスかね」

「そうだ。そして当の本人であるミィンはこの年から学園へと通う」

「は、あ……?」

「魔力持ちであり同じ“陸”の人間である者達が多く通う学校へ、だ」

「へえ、話が見えないっスけど」

「そこに君たちも通ってもらう」

「……!?」

「はあ?!」


 ついて出た口を思わず押さえる。

 通う、学校にってことか?

 オレは“(ここ)”じゃ奴隷だろ?何をどう間違ったら学び舎に通うことになるんだ。


「ああ見えてミィンは優秀なのだが、抜けているところがあってね。特に学園に通うのは初めてだろうから上手くいかないことも多いだろう」

「あ、あの、私たち奴隷ですよ?」

「そんなミィンを魔力持ちである君たちが手助けして欲しいのだよ」

「そういうのはこの家の使用人とかにさせた方が」

「使用人では信用ならんのだ。君たちのように命を握っている存在でなければ、やはり完全ではない」

「ならそもそもご主人様を通わせなければいい。今までだってそうしてたんじゃないんスか」

「表舞台に出さなすぎた。周りの名家の者にも目をつけられ始めたのだよ。あの娘、もしかして世に出せない理由があるのでは、とね」


 魔力の有無がそこまで重要か。

 大した量もないくせに、よく分からない連中だ。


「それで……やってくれるかね」

「ノーと言えば命は無いんスよね」

「無論だ」


 首輪に手をかけた。

 この程度の仕組み、オレなら一瞬で解除して外せる。


 和を乱すな、役割に準じろ。

 あの日オレが誓ったことだ。

 奴隷として主に従い、そこの生徒として学園に通う。

 これは役割に準じた行動か。オレは、この地の規則を破ってはいないか。


『……終わりだ。もう全員、終わりなんだァ』


 もうあの日のような思いはしたくない。


「_______________分かりました」


 首輪から手を離す。

 ここでオレが奴隷をやめるのも、和を乱すことになる。

 この家が大成したとて、“陸”そのものがひっくり返るわけではないのだ。


「この身、このインガウェーク家のために尽くします」

「……私も、そうします」

「そうか良かった。これで君たちも、立派なインガウェーク家の一員だ」


 安心しきったようにエインは肩を落とす。


 今は従おう。

 このインガウェーク家という地を守る為に、奴隷として従おう。

 だがもしこの家が“陸”を、この世界を乱すようなことをするなら……。


「ありがとうございます」


 この新たな世界を維持するために、奴隷という身のまま殺してみせよう。

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