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45/111

2-3 面倒

 

「じゃ〜ん!ミィン誕生日おめでとう!コイツが誕生日プレゼントだ!ぜひ受け取ってくれたまえ!」


 早朝と呼ぶには少し遅い朝。

 鍛錬場での事を済ませたオレはインガウェーク家の屋敷に戻り、当主とその娘のいる部屋へと案内されていた。

 ちなみに、案内される間、ゲルデとかいう男から親の仇のように睨まれていた。


「まあ!なんて立派な奴隷!こんなものを用意していたなんて知りませんでしたわ!ありがとうございますお父様!」

「気に入ってくれたか?よおしよおしそれは良かった!」


 入室と同時にこれである。

 わざとらしく知らばっくれるミィンと満足げな当主。

 よくよく考えると娘の誕生日に奴隷をプレゼントってどうなんだ?

 おかしいと考えるのが“村”の常識だが、それが通じないのが“陸”なのか。


「ところでゲルデ君。ヨハンにこのことはバレていないかね」

「ああ……はい。大、丈夫、かと」

「なんだい。妙に歯切れが悪いが」

「いやあ、はは」


 当主とゲルデが何やら隅で話している。

 そういえばあのジジイは大丈夫だったろうか。

 上手く手加減出来なかった気がするが。


「ねぇお父様!この子に名前付けていいですか?」

「いいとも!好きな名前を付けたまえ!ポチとか、タマとか……私としてはジョゼフなんて」

「ガルーグ・メルスバッサ!ガルーグ・メルスバッサにしましょう!」

「……ん?ああ、うん。いいと思うが、何か居そうな人名っぽくない?あんまり奴隷付ける名前じゃ」

「この子に似合うと思ったんです!そうですよねガルーグ?」

「……はぁ」

「ほら、嬉しそうですよ!お父様!」

「ああそう?……うん、ならいいんじゃないかな……?」

「ではガルーグに屋敷を案内して来ます!行きましょうガルーグ!」


 明らかに怪しまれている。

 だがそんなことお構い無しにミィンはハイテンションにオレの手を引く。

 流されるままに、オレは部屋を後にした。


「んっん〜♪さあ着いてきたまえボクの可愛い奴隷くん!」

「随分楽しそうっスね」

「そりゃそうだよ。キミが正式にボクの物になったんだ、こんな風に連れて歩いても誰も何も言わなーい。そうだ!今のうちにお互いの呼び名なんかを決めておこうか」

「はあ、決めればいいんじゃないスか?」

「何がいいかな……あ、2人きりの時はタメ口で話そうかな。うん、それがいい」

「呼び方……普通にご主人様、でいいっスよね」

「……なんだいそれ」

「へ?」

「そんな呼び方嫌だ!あとタメ口!今がその2人きりだからね!」


 ミィンは上機嫌から一変して、急に声を荒らげ始めた。


「ちっ、ご主人様とオレは奴隷と主人っスよ」

「嫌だよ。ていうかキミ初対面の時とは態度が違うじゃないか。ボクのことをミィンちゃんって呼べ」

「なら昨日言ったの覚えてますよね?ご主人様とオレは主人と奴隷。ルールと役割は守るよう頼んだはずなんスけど」

「む……嫌だ。そんなのつまんないよ。いいじゃん2人きりの時くらい」

「お断りします」

「だからタメ口だって!嫌だ嫌だいーやーだ!ボクの奴隷なんだからボクの言うこと聞いてよ!」


 ミィンは地団駄を踏みながらオレの胸板をポコポコ叩いてきた。

 一人娘だからだろうか、当主といいあのジジイといいかなり甘やかされてると見える。


「はぁ……命令だってんなら聞くしかないスけど」

「あ、なんかそれ嫌だ。言わされてる感じになるじゃん!」

「だから主人と奴隷はそういう」

「むむむ……もういいよ!ふーんだ!」


 ミィンは頬を膨らませると、そっぽを向いてしまった。

 正直言うとかなり面倒くさい。

 ガキの子守り、オレの最も嫌うことの一つだ。

 平和ボケしたバカと仲良しこよしなんて反吐が出る。

 これなら過酷な肉体労働を強いられていた方がマシだった。


「なにボーッとしてるの!早く来てよ!」


 窓から見える豪勢な庭を眺めて現実逃避していると、無理矢理手を引かれ、現実に引き戻された。

 バカ長い廊下、立ち並ぶ高価な花瓶や絵画、忙しなく通り過ぎていく使用人達。

 絵に描いたような金持ちの屋敷だ。

 “村”じゃ到底お目にかかれない光景だらけだった。


「はい、ここがシェフ達の厨房だよ」

「オレが立ち寄る機会あるんスか」

「ないよ」


 ないのかよ


「ここが使用人達がよく待機してる部屋」

「オレが立ち寄る機会は」

「ないよ」


 ないんかい


「それで、ここがお父様秘密の部屋。エッチな絵とか宝石とか」

「オレが立ち寄るのは」

「入ってもいいけどバレたらキミは死ぬよ」


 死ぬのかよ


 こうしてミィンは屋敷のあらゆる場所をオレに案内した。

 だがどれもオレには訪れる機会がないような場所ばかり。

 実に無駄な時間が過ぎ、いつの間にか時刻は昼前になっていた。


「ご主人様。そもそもオレが立ち寄れるような場所この屋敷にあるんスか」

「あるよ。一部屋だけ」

「じゃあまずはそこを……」

「嫌だ。キミがボクの名前を呼んだら案内する」

「そもそも、ご主人様がオレの名前呼んでませんが」

「キミが先だ!じゃなきゃ呼んであげない!」

「いや、それはご自由にしてくれていいんスけどね」

「それも嫌だ。せっかく本名名乗れるようにしたのに、キミとかお前とかナンバーとか、可哀想じゃないか」


 自然と“可哀想”と出たのは常々そう思っているからか。

 “陸”と言えど、常識全てがひっくり返っているわけではなさそうだった。


「……オレは、定例やルールを破るやつが嫌いなんスよ。つい最近そういう奴のせいで酷い目にあったもんで」

「……?そうなんだ」

「だから、あんまオレにオレのルールを破らせないでください。次はオレがそいつみたいになっちゃうんで」


 ルールを破ったやつ。

 今頃なにをしてるんだろうか。

 オレらの“村”を無茶苦茶して、自分だけ力を手に入れて。

 死んだだろうか?だとしても許せない。

 せめて1発くらい、殴ってやりたい。


「ん……じゃあご主人様から命令。1回でいいから、ミィンちゃんって呼んで」

「っ……ミィン、ちゃん」

「ニヒ」

「……!」

「ニヒヒヒヒヒヒ!」

「な、なんスか、なんスか」

「なんでもなーい。さあ、着いて来たまえガルーグ君!キミの部屋を案内しよー!」


 機嫌が戻ったのか、スキップ気味に廊下を駆けていくミィン。

 名前を呼んだだけでこれだ。

 今後とも何か困ったらこれで切り抜けてやろう。


「ニヒ、つーいた」

「ここが……って、どうしたんスか」

「いいから。ガルーグもボリューム落として」


 忍び足でドアに近づくミィン。

 何故か声を潜めながら話している。


「実はね、この部屋にはボクのコレクションである怖ーい猛獣がいるんだよ」

「は……そんなのとオレは同室なんスか」

「大丈夫さ。慣れれば懐くよ」


 オレが奴隷だからなのか、コイツはオレが喰われるのを全く予見してないようだ。

 猛獣、金持ちだし虎なり獅子なりを飼ってるのだろうか。

 丁度いい、腕が鈍っていたところだ。襲いかかって来たら素手で制してやろう。


「グッドラック」


 あろうことかドヤ顔でサムズアップ。

 少し、いやかなりイラッとしたが堪えた。

 猛獣上等だ。むしろ心躍ってきた。


 警戒しながらも、静かにドアを開けた。


「……?」


 獣特有の臭いはしない。

 耳を澄ませども、強い息遣いや寝息はしない。


 シュル パサ パサ


 布の擦れる音。

 確かにそこに気配がした。

 人型?!想像していたものとは違うが、猛獣ならば_______________


「______________________!!」


 一息に飛び出し、オレがそこで見たものは。


「……え?」

「は?」


 白磁と見まごうような肢体。

 水色の頭髪に白く伸びた角。

 そして、2度見するとそこにはやはり女の裸体。

 一糸まとわぬ肌色。


「……待て」

「待つか、変態」


 しなやかな脚から繰り出される蹴撃。

 戸の向こうからニヒヒヒと笑い声がした。


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