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1-29 過去

 

「マサムネ、てめぇ!」


 メッタは俺の顔を見ると間髪入れずに掴みかかってきた。

 その瞳には喜びの涙も感動も当然なく、怒りの眼差しを向けてくるのみであった。


「メッタ、やっぱお前か。コヅエの首輪が解除されてたのもお前がやったんだろ」

「どの面下げて来やがった!てめぇが、てめぇさえいなけりゃなあ!!」

「いなけりゃ……なんなんだ?」

「“村”があんなことならなかったんだろうが!!」


 メッタは躊躇なく拳を振り下ろした。

 避けるか?反撃するか?

 否、俺はメッタと話をしに来たのだ。


「……!どういうつもりだ」


 容赦のない鈍痛が俺の頬を捉える。

 だが倒れもせず、怯みもせず。

 表情すら変えずにその打撃を顔で受けて見せた。


「今となっては何の驚きもないぜ。“村”を出たはずのお前があの時、あの場所にいたのは」

「なにを……」

「だが、この世界を知った上でもまだ分からないことがある。だから教えてくれ」


 “空破風(エアストライク)

 唱えると同時、部屋中に風が吹きすさぶと辺りに伏せていた紙切れはパラパラと音を立て舞い上がり始めた。

 これは初級魔術の類だ。

 本来ならば軽く髪がなびく程度の威力。

 それが今や一室を揺らすほどに。


「_______________この力の正体。そして、あの日“村”に何があったのか。俺には知る権利があるはずだ」

「知る権利だ……?それを教えたところで今更何になるってんだよ」

「何にもならないかもしれない。だが、俺はそれを知りたい」

「何が悲しくててめぇの要望に答えなきゃなんねぇ!」


 メッタの殴打が再び繰り出される。

 俺は黙ってそれを受けた。


「“村”の連中は皆、半亜人として捕まったぜ。ガルーグもマーマもお前の妹もなぁ!今頃奴隷として楽しくやってんじゃねぇかな。お前のせいでよ!」

「っ!でも、だからこそ聞く必要があるだろ。あの日俺が何をしたのか!」

「は、はは……ムカつくんだよ。“村”をあんなにした元凶のてめぇが、こうやって何不自由なく生きてんのがよ」


 メッタの懐から刃渡り数センチの短剣が取り出された。

 そして、その凶器の穂先は俺へと向けられている。


「いっぺん死ねぇ!このクズがぁ!!」


 メッタは殺気の篭った目付きのまま、その短剣を突き出した。

 このまま短剣に触れれば、次に貫かれるのは俺の心の臓だろう。


「……!」


 直進したナイフの刃先はすんでのところで止まった。

 静止させたのは他でもない、俺の腕だ。


「メッタ。俺はお前と話をしに来た。贖罪しに来たわけじゃない」

「だから何だ。俺はお前を許す気は」

「今お前と俺が戦ったらどっちが勝つか、分からないわけじゃないだろ?」


 魔力を込めた手のひらをメッタの前に突き出した。

 俺は死にに来たのでは無い、知りに来たのだと示してみせた。


「_______________くそっ!……分かった。話す!それでいいんだろ」

「そうだ。それでいい」


 メッタは短剣を収めると、不機嫌そうに床に座した。

 納得はしていないが、話してくれる様だ。

 俺も一息ついてから何も無い床に腰を下ろした。


「はぁ……そんで、何から話せばいい?」

「何もかもだ」

「それが分かんねぇんだよ!お前らがどこまで知ってるかを俺は知らねぇ!」

「知りたいのは俺のこの力が、“村”がどう関係してるのかだ。知ってるんだろ?」

「なっ、いや、実は……それに関しては俺もよく知らねぇんだよ」

「ん?ほんとかそれ?」

「っ、待て待て待て!本当なんだって!俺が知ってんのは長から教えてもらった断片的な情報だけ!だからその上げた手を下ろせ!」

「その断片的なのでもいいから教えろって言ってんだよ」

「今から話すつもりだったんだって!はぁ……」

「早く話してくれ」

「お前なぁ……」


 さっきまでの殺気が嘘かのように慌てふためくメッタ。

 コイツの命はほとんど俺が握っているようなものだが、どうも緊張感がない感じだ。

 メッタらしいと言えば、らしいが。


「まず、その力のことだが……マサムネ、お前は村の中心にある核に触れたな?」

「核、というと」

「村のどっか地下深くにあったらしいんだが」

「……あ、ああ。あれか」


 核。

 おそらくは俺に力を与えた“宝”のこと。

 どうやらメッタも知っているようだが……。


「あれが俺達の“村”の動力源だったらしい」

「“村”の動力源……?」

「俺達のいた島は他とは違って特殊らしくてな。周りから見えなくなる膜みたいなのに包まれていたらしい」

「結界みたいなもんか」

「オマケにちょっとずつ動いてる。そんで、その辺諸々の力の源だった核から力を奪ったのが……お前だ」

「……!」

「核は人間の生命を燃料に動く。それは生贄になる者の魔力が高ければ高いほどよく動くんだとさ」

「生贄、ってのは……」

「俺らの言ってた“英雄”になって村を出た連中だ。今更だが“村”に俺らの思ってた“外”なんてない。外に出ていったと思った奴らは皆、その核の燃料になってたってわけだ」

「……そう、なのか」

「最悪だよな。あの日の俺達は生贄になるために頑張ってたんだぜ」

「なら、“村”を出たはずのお前はどうして生きてたんだ。お前と同じパーティーだった連中は」

「俺以外は皆燃料になっちまったよ。俺は、まあ、若者全員が燃料になっちまったら“村”自体が終わっちまうってことでたまに残される、まあラッキーボーイだよ」


 メッタはどこか自嘲気味に笑った。

 彼の役職は俺と同じ魔術師。

 パーティー内には仲のいい戦士や僧侶、弓手がいただろうに。

 それも皆、今では


「そんな“村”の真っ黒な裏っ側もお前が全部ぶち壊しちまったけどな……あーあ、お前へのムカつきとか、話してる内になんかどうでもよくなってきたな」

「メッタ……お前は“村”の全てを知った上で従ってたのか?」

「あ?しゃーねーだろうが。あん中じゃ逆らえるほど俺に力なんて無かったよ」

「……そうか」

「話せるのはこれっぽっちだ。さあ出てけよ。俺はもう、この島に残ってで生きられるだけ生きるつもりだからな」


 メッタは床に寝転がり、外した首輪をクルクルと回し始めた。

 首輪があるということは1度奴隷にされたということ。

 そして今ここにいるということは“陸”に逆らい、抗ったということ。

 彼にも抗う意思はあった。

 ただ“村”ではその力が無かっただけ。


「_______________すまん。メッタ」

「なに今更謝ってんだばーか」


 どこか見下してかけていた彼に罪悪感が湧いていた。

 誰が悪かったんだ?俺か?“村”か?それとも襲ってきた“陸”の連中か?

 考えたところで答えが出るものではない。

 振り向かず、俺は部屋を後にした。


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