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1-27 同胞

 

「ナカマ……!」

「へ?仲間?」


 走ってきた子供の仮面が外れると、そこからはうねった特徴的な角が現れた。

 捕らえた子供はハヤと同じ竜人族の娘だったのだ。


「オナジ、ツノ」

「……!お前も竜人族だったのか!」

「ノルン、そろそろ離してやれよ」

「あっ、はい。すいませんね」

「ぬ。今更離したとて、空警団の連中に恩を売る気はないぞ。ましてや同胞の奴隷を連れてる連中なんて……」

「ざんねん。空警団じゃないわよ」


 メネは兜を少し上げて、横に伸びる耳を覗かせた。


「長耳族?!なんなんだお前ら」

「……改めて聞かれたら、私ら何なのかしらね」

「言われてみればそうですね」

「なんでもいいだろ。さてコイツどうするか」

「「騎士様ー!」」

「……!」

「ぐえっ!」


 呼ぶ声と共に後方から先程の兵が追いついて来る。

 怪しまれるのを恐れたからか、メネは瞬時に竜人族の娘をその場に押さえつけた。


「へぇ……へぇ……捕まえて、くれましたか」

「ああなんとかな。ところでこの亜人はなんなんだ?」

「島主アノーロ様の奴隷であります。突然屋敷を脱走したとのことで、追いかけ回しておりました」

「なるほど……」

「ちょうど島主に用があったところよ。ついでに送り届けておくから、アナタ達は持ち場に戻りなさい」

「「はっ」」


 軽く敬礼した兵士2人は回れ右をした後、夜の街道へと歩いていく。

 小さく、その場で全員がため息をついた。


「なんとかなるもんだな」

「なんだ……?お前らもしかして助けてくれたのか?」

「いえいえ気にしないでください。コチラも怪しまれないようムゴグッ!」

「ええそうよ助けたの。お礼に私達を匿ってくれるアテを探してくれないかしら。出来れば快適なベッドがあると嬉しいわ」

「んむぐ!んむむむ!」

「匿うなら任せろ!いいところ知ってるぞ!」

「ベッドは」

「ないぞ!よし、そうと決まればついてこいお前ら!」


 のっしのっしと娘は歩き出した。

 アテがあるのは本当のようで、自信満々の様子で街を進んでいく。

 確かに宿が無くて困ってはいたが、事がスムーズすぎないか。

 逆に怪しくなってきた。


「ふん♪ふんふふーん♪」

「おい、これはどこに向かってるんだ」

「このすぐ先にある教会だぞ!昨日コヅエもそこで匿ってもらったんだ!」

「コヅエって……?」

「コヅエはコヅエって言うんだぞ」

「ややこしい自己紹介ね」

「……その教会にいるのは知り合いなのか?」

「おう!昨日知り合った人だぞ!」

「昨日って……いきなり怪しくなったな。本当に俺達も泊めてもらえるのか?」

「教会の人は皆、竜人族に優しいからな!お前らは知らんがそこの同胞なら間違いないぞ!」

「……そうなのか?」

「教会では竜人族は尊いものとして教えられてるってのは私も聞いたことあるわ」

「なあなあ!同胞の名前はなんて言うんだ?コヅエはコヅエだぞ!」

「……?」


 コヅエは目を輝かせながら詰め寄る。

 その最中、俺の目に止まったのはコヅエの首輪だった。

 流れているはずの魔力がそこにない。

 不思議なことだが、コヅエの首輪は機能していないということになる。

 だとすれば、何故?


「なあ、教えて欲しいぞ!」

「……あぁ、こいつはハヤって言うんだ」

「ーーーーー……」

「なんだ公用語が喋れないのか!今度コヅエが教えてやるぞ!」

「そういえばコヅエちゃんは普通に喋れてますね。お勉強したんです?」

「いいや?竜人族でも公用語は小さい内に習うから、普通は喋れるぞ」

「……もしかしてハヤちゃんが喋れないのがおかしいのでしょうか」


 竜人族の言語で言葉を交わす2人。

 内容の分からない会話に耳を傾けながら進んでいると、やがて大きな教会の目の前へと出た。

 コヅエは灯りの見えない教会を見るや否や、遠慮なく中へと入っていった。


「帰ったぞ!マリーア!いるのか!」


 コヅエの甲高い声が教会中を響くと、奥にポツンと座っていた修道女らしき影が燭台を持って近づいてきた。


「あらあら、おかえりなさいコヅエさん。そちらの方々は?」

「同胞のハヤとその連れだ!泊まる場所を探しているらしいぞ!」

「その格好は空警団の方……ではないのですね」

「紛らわしくてごめんなさい。私達は竜人族ではないのだけれど、泊めてもらってもよろしくて?」

「ええ、もちろん。困っている人には等しく手が差し伸べられるべきですから」

「ありがとう。俺はマサムネ・トキタ。獣耳族がノルンで、長耳族がメネメーだ。よろしく」

「マリーア・ネートです。“神はいつもそこに”」


 マリーアは手を祈る形にした後、決まり文句のように呟いた。

 この感じ、マーマを思い出す。

 確か僧侶であった彼女も面倒くさそうに祈りを唱えていた。

 今頃何をしているのだろうか。こんな世界だ、酷い目にあってないと良いが。


「なにボーッとしてるんだ。さっさと来い!」

「……あ、すまん」


 物思いに(ふけ)っていると、いつの間にか俺以外の面々は教会の奥へと進んでいた。

 急いで追いつくと、ドアがいくつか立ち並んでいる空間へと出た。


「何もありませんが空いている部屋が1つありますので、どうぞご自由にお使いください」

「ありがとうございます!」

「アリガトウ」

「全部客間みたいだけど、私達以外にも人がいるの?」

「あと2人居るぞ!ホームレスと半亜人の奴隷だ!」

「半、亜人……?」

「コヅエもよく分かんないけど、メッタって人がこの部屋にいるぞ!」

「_______________なに?」


 メッタ。

 聞き覚えのある名前だ。

 俺の記憶が正しければそいつは“村”の人間のはず。


『その力、早く戻せ!いつ手に入れやがった!まさかお前が_______________』


 “村”が崩壊する直前、メッタの言った言葉の意味は結局分からずじまいだった。

 “宝”から得たこの力の正体、もしそれを知っているメッタが本当にこの場にいるのだとしたら_______________。


「……マサムネ様?」


 何だか少し怖かった。


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