1-25 馴染み
窓から差す陽光に瞼を開く。
朝だ。見慣れない部屋の中だが、いつも通りの。
覚醒と同時に身体中へと少しずつ、少しずつ意識が伸びていった。
すると、腹の辺りで意識が止まった。
柔らかい、違和感?
「……?」
「うぅん……むにゃむにゃ……」
「え、人の声が」
ノルンの声だ。
ボヤけた視界では、ハッキリと肌色が見えるのだが。
まさか、これは。
「おーっす。マサムネ起きてる?ノルンが部屋にいないん_______________」
「メネか。今起き」
「っ!!な、に、してんのよこの変態!!」
「ゲボふ!!」
「んぁ?おはよメネちゃ……きゃあああ!!」
メネから容赦ない平手打ち。
全く同じ威力、角度で俺の頬を貫いた。
回る視界の中で見えたのは、全裸で横たわっているノルンの姿。
何が起こってるのか。
俺は昨日の寝る前はいなかったはずだし、ノルンも身に覚えのないような反応をしている。
「なんでだよ……」
そう呟きながら、地面へと突っ伏した。
〜〜〜〜〜〜
「お父様!ワタクシ、この島を出ることを決めました!」
「そんな、馬鹿な!!」
ビオクの悲痛な叫びが部屋を響いた。
対するノルンは断固として、譲るつもりはない表情である。
「考え直せノルンよ!昨日はそんなこと言ってなかっただろう?!」
「いいえ。ワタクシはもう決めました。皆さんと一緒に“陸”に行くんです」
「そんなぁ!?」
「……なんか説得出来ちゃいそうね」
「娘の言葉には弱いんだな。昨日の威厳が嘘みたいだよ」
「なーんだ、立派な目的も何も必要なかったんじゃない。よかったわねマサムネ」
「何にも考えてなかったからマジで助かった。下手すりゃ今後の方針ガラッと変わってたかもしんねぇから」
「……にしても変ね」
「あ?何が」
「ノルン、昨日は悩んだ感じだったのよ。てっきりここに残る気かと思ったんだけど」
「吹っ切れたんだろ。見てみろよ、父親相手にあんなだぜ?」
「外は危険だ。死ぬ可能性なんて十分あるのだぞ!ここに残ればそんな心配もない!」
「例え死んだとしても、人間の言いなりだけは絶対嫌なんです!」
「私の気持ちになってみろ!」
「可愛い子には旅をさせよって言うでしょう?!」
「ほらな?」
「吹っ切れたっていうか、別人みたいというか」
「ここから出れるならなんでもいいだろ。な、ハヤ」
「ノルン、ーーーーー……」
「……?」
口論する2人を遠巻きに眺めながら言った。
この調子で行けば、燃料ももらって今日中には出れる。
事態は良い方に転がっているはず。
なのに、メネやハヤの表情は浮かないままだ。
訝しむように、ノルンの様子を見ている。
なにをそんなに身構えているのか。
もう少しで念願の“陸”に行けるというのに。
〜〜〜〜〜〜
「燃料入れた!ちゃんと積めてるか、そっちで確認してくれ!」
「はーい!」
ビオクの説得に成功し、船の燃料も確保した。
後は準備していよいよ出発。
色々あったが、どうにか船も正常に動けそうである。
今回の出航で“陸”までたどり着ければいいんだが……。
「ふぅ、結局1日しか滞在しなかったな」
「マサムネ、マサムネ」
「ん?どうしたハヤ」
「ヨンデル、アジン、アッチ」
裾を引いてくるハヤが示す先。
島で最初に会った、獣耳族の番兵がそこに立っていた。
何やら俺を呼んでいる様子。
近づくと背を向け歩いていくので、誘導されるがままに着いて行った。
「え、ええと、なにか話が?」
「……」
話しかけても答えてはくれない。
船を離れ、竹林の中へと入るとその歩みは止まった。
「……マサムネ・トキタと言ったか」
「は、はい。そうですけど」
「貴様、ノルン様に何をした」
「何を?というと……」
「何をしたかと聞いている!!」
番兵はものすごい剣幕で俺を睨んだ。
その両の腕には槍が握られている。
「返答によっては貴様を殺す」
「何をしたって言われても、特に何もしてないが」
「嘘をつくな!!ノルン様は昨日まで怯えていらっしゃった。“陸”には行けない、皆に失望されると!一夜で処理出来るような感情ではなかった!」
「でも本人はあの様子だろ?」
「っ、私は!ノルン様とは古くからの仲だ。あの方を守るために、今までこの槍を振るってきた」
番兵は槍を振り回した後、その切っ先を俺に向けた。
「そんじょそこらの男が、どうこうしていい存在ではないのだ!!」
「その割にはノルンのこと分かってねーのな。アイツは強いヤツだ。自分の悩みくらい自力で乗り越えられるんだよ」
「知ったかぶりやがって……!!昨日の夜!ノルン様は貴様の部屋に行った!そこで貴様が何かしたに決まっている!」
「はぁ……いくらなんでも嘘でっち上げんのは止してくれよ」
夜にノルンが俺の部屋に?
そんな覚えはない。
確か俺は昨日の夜メネやハヤに会った後に寝て、そしてーーーーーーーーーー
「っ……?」
「おのれ!しらを切る気か貴様ぁぁぁ!!」
怒号と共に番兵は槍と共に走り出した。
一瞬の頭の痛みに反応が遅れたが、単調の攻撃なら、なんの問題もない。
「瞬流氷結」
触れたその瞬間湧き上がるように氷が出現。
竹と白霧の空間の中、巨大な氷の華が番兵の体を拘束した、
「かっ、は……」
「俺達の邪魔すんな。そんなにノルンが守りたかったら、ノルンより強くなってからにしろ」
悔しそうに顔を歪ませる番兵に踵を返した。
「……マサムネ」
「ハヤ、見てたのか。言ってくれよ」
「マサムネ、ダメ、アブナイ」
「危ない?大丈夫だよ。アイツ弱かったし、殺してもないから」
「チガウ、チガウ」
ハヤは心配した表情で俺の手を握った。
違う?何かを伝えたそうにしているが、正しく言えていないようだ。
もどかしそうに口を動かしている。
「ーーーーー。ダメ!マサムネ、ダメ……」
「……?ハヤの言葉も、早いとこ分かるようにしねぇとな」
「……。」
「また今度、分かるようになったら話してくれよ」
「ハヤちゃーん!マサムネ様ー!準備出来ましたよー!」
遠くでノルンの呼ぶ声がする。
出発の時だ。早く行かなくては。
ハヤの手を引いて、船の見える方へと走った。
「ーーーーーー」
ハヤが浮かない顔をしている。
そのうち、彼女の言葉を理解する日も来るだろうか。




