1-23 不信
ノルンの感動の再開を終え落ち着いてから、俺たちは島の長でありノルンの父親、ビオク・ノランシーとようやく話を始めた。
「はっはっはっ!みっともないところを見せてしまいましたな!本当に申し訳ない!」
「す、すいませんでした」
「いいよこのくらい。何年ぶりかの再会なら当然だろ」
「それよりも、呼び出された理由を知りたいんだけど」
「理由というのは特にありません。ここに訪れた者はまず私の下に来るようになっているのでお呼びしたわけですな」
「ここはどういう島なんだ?獣耳族の王国とは聞いているが、特例島なんだろ?」
ビオクの部屋へと向かう途中に亜人、それも獣耳族の女性を多く見かけた。
“陸”に管理されている割には行き交う亜人達は皆自由に過ごしているように見えていた。
加えて、人間が一人もいない。
「ここは“陸”が許可した亜人の保護島です。この中なら私達亜人は自由に生きられるのですよ」
「保護島……そんなものがあるのか」
「竜人族のような例がありますからな。我ら獣耳族にも特殊な能力があると予見した者が作ったのでしょう」
ビオクは首輪を撫でながら言った。
保護区などと聞こえのいい言葉を選んでいるが、まあ分かりやすい話、動物園のようなものだろう。
念の為生かしておく。
“陸”側の人間としては扱わない魂胆が薄ら見え透いていた。
多分それはビオクも理解している。
「形はどうあれ、こうして生きられているのはありがたい。ここでは主に獣耳族の保護がされています」
「他に保護島があるってこと?」
「おそらくあと2つ程は。私はこの島の管理を長として、その任を受けています」
「管理も亜人の手でやってんのね」
「さて……私の話を聞くのも飽きたでしょう。次はそちらの話もお聞きしたいですな」
「……。」
「何故私の娘を連れて、何故この島に、何故空警団の船で降り立ったのか。詳しくお聞きしたい」
若干の疑念を抱いた瞳が、人間の俺を注視する。
「……いいんじゃないかしら。ノルンの父親だし」
「へ?それは、全部話すってことか?」
「ええ」
「いいのか」
「ええ、って言ってるんだけど」
メネは不機嫌そうに小突いた。
特例島の管理人。
ノルンの父親と言えど“陸”の息がかかっている可能性もある。
それをメネともあろう者が警戒もせず……。
「分かった。ここに着くまでのことを話す_______________」
ノルン達と出会ってからこの島に着くまで。
かいつまみながら、その経緯を話した。
ノルンやメネの首輪やハヤを島から連れ去ったこと。
話終えるとビオクは納得しないような表情で口を開いた。
「むぅ、わかりませんな。何故“陸”に向かうのです?」
「……え?」
「こっちにも色々事情があんのよ」
「娘が巻き込まれているのです。私としては“色々”で済まされるのは困りますな」
そう言って、ビオクは書類を取り出す。
書類には多くの名前が刻まれていた。
「この島に居る亜人達を記録した書類です。空警団が来る度にこれを渡すことになっています」
「今それを私達に見せて、どうするわけ?」
「島の長である私なら、貴方達をこの島の住民として記録することが出来ます」
「……!」
「名前やナンバーを偽装すればバレることもありません。“陸”も亜人を一人一人記憶しているわけではないのでね」
「お父様、それは私達がここで平和に暮らせるということですか」
「その通り。ここに名を刻む権利も、貴方達に船の燃料を渡すことも私ならば出来るのです」
「“陸”に行きたいのなら、アナタを納得させるだけの理由を寄越せってことかしら」
「ええ……ですが、マサムネ様。人間の貴方だけはここに残れません」
「俺、だけ」
「ですから貴方に“陸”へと向かうための、その志をお聞きしたいのです」
「俺の、志……?」
疑念の残ったビオクの目が俺を刺す。
どうして“陸”を目指している?
何故だ。それだけの理由が俺にはあったはずだ。
虐げられている亜人達のため?
それとも“村”を襲ったことへの復讐?
どれもしっくりこない。
俺はーーーーーーーー。
ーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーー。
「_______________俺、は」
「マサムネ?」
「はぁ……まあいいでしょう。ここに空警団はしばらく来ない。これについては一旦保留ということにしましょう。おい、エアロ!」
「皆様のためのお部屋を用意しております。どうぞこちらへ」
まとまらない思考。
虚ろな感情のまま、俺は獣耳族の後を着いて行った。
前にもこんなことがあった気がする。
「俺……なんで」
「マサムネ様、大丈夫ですか?具合が悪そうですけど」
「ーーーーーマサムネ?」
「ああ、すまん。納得させないと、先には進めないもんな。ちゃんと、それらしい理由を考えないと……」
“陸”のこと。
これから先の出来事を考えようとすると、意識が遠のく。
“村”にいた時はこんなことなかった。
いつから俺はこんな風に。
「……なんだよ」
「別に、なんにも」
ビオクと同じ、疑うような目がメネから俺へと向けられていた。




