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1-22 身分

 

 番兵に導かれるまま門を通り過ぎる。

 敷地内に入ると、まず巨大な湖や水面を浮く植物達に出迎えられた。


「こちらです。着いて来てください」


 ツカツカと歩いていく1人の番兵へと着いて行った。

 どうも宮殿の中まで連れて行ってくれるらしい。


「なぁ、ノルンお嬢様なんて呼ばれてたがどういうことなんだ?」

「実は私もよく分かりません。でもこの人たちは何故だか見覚えがあります」

「もしかしてどこかのお姫様だったりして?」

「ワタクシがですか?ないない……」

「ノルンお嬢様は我ら獣耳族の王、ビオク・ノランシー様の御息女でございます」

「……それ、ホントですか」

「獣耳族の王?じゃあここは獣耳族の王国か何かってことかしら」

「概ねその通りですね」


 番兵は表情を変えずに答えた。

 これが冗談ではなく真実だと、雰囲気で語っている。

 ノルンが獣耳族の姫。

 “ワタクシ”という一人称といい、整った身なり等は言われてみれば姫っぽい感じがしてきた。


「ワタクシが、お姫様……」

「どうもマジっぽいな」

「ふふ、うふふふふふふ」

「なに急にニヤけて。気持ち悪いわよ」

「姫!ワタクシ姫なんですよ?!これからチヤホヤされるんです。これがニヤケずにいられますか!ふ、ふふ……」

「姫の威厳はないみたいだけど」

「これからはノルン姫って呼んでくださいねっ!」

「あ……俺ら姫に無礼な口きいてるんですけど、いち獣耳族としては許せるもんですか?」

「ええ、仲が良いようで何よりですから」


 振り向かず一定の足並みを維持しながら番兵は言った。

 姫としてのノルンがどういう立場なのかは知らないが、そう悪い扱いではないようだ。


「ところで皆様はどういう方達なのでしょうか。空警団の方ではないようですが」

「……何故空警団ではないと?」


 乗ってきた真っ白な船は一目見れば空警団の物と分かる。

 人間の俺だけは空警団の装備を着ているのでもしかしたら、と疑ってもおかしくないはず。


「そちらの亜人の方達が明るい表情をしていらしたので」

「え、それだけで?」

「空警団の連れる亜人は皆死んだ目をしているのですよ。もし空警団だったとしても良い人には変わりないと思ったのでこうして通しております」

「はぁ、それはどうも」

「これ今どこに向かってるんですか?」

「とりあえずは宮殿の客間に……いえ、その前に会っていただく御人がいます」

「あら誰かしら」

「この島の長、ビオク・ノランシー様です」

「それって今から、ワタクシの、お父様に……」


 聞いた途端、ノルンの顔は曇って行った。

 不安がっているような表情だった。


「父親に会うだけでしょ?なんて顔してんのよ」

「父親相手って、ど、どんな顔して会えばいいんでしょう。分からないんです」

「昔みたいな調子でいいんじゃないか」

「それが分からないんです。お父様との記憶、というかこの故郷の記憶自体、今さっき思い出したものなんですよ」

「今、思い出しただって?」

「はい。あの竹林の辺りからブワーッと、蘇ってくるみたいに」

「……メネ。お前らってそういう感じなのか?」

「いーや、思い出すなんて初耳よ」

「ど、どどどうしましょう。まずはなんて言えばいいでしょう。ただいま?久しぶり?」

「もうすぐ着きますよ」


 慌てふためくノルンを無視して、歩みは着々と進んで行く。

 やがて大きめの扉の前に着くと、番兵は足を止めた。


「ここの部屋です」

「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!まだ心の準備的なものが!」

「入ろうぜ」

「ノックノック」


 遠慮することなくドアを開けた。

 部屋の奥にいたのは顎髭を蓄えた獣耳族の男がいた。


「おお、入りたま_______________」

「_______________!!」


 一瞬のフリーズ。

 数秒後に2人は抱き合った。

 涙も流さず。声もあげず。

 それでも愛おしそうに2人は抱き合った。

 俺とメネはそれを遠巻きに眺めていた。


「感動の再開だな」

「記憶、会った瞬間で蘇ったんでしょうね」

「記憶が蘇るってのは、聞いたこともなかったのか?」

「ないわね。でも、これで私たち亜人のやるべき事はハッキリしたわ」

「……?」

「やっぱり“陸”に行くべきなんだわ。“陸”が亜人(わたしたち)の場所なんだとしたら、行けば記憶が蘇るはずよ」

「そうだな。行けたらいいな」

「ーーーーーー……」


 メネの決意の篭った目は身震いするほど、鋭いものだった。


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