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1-20 挨拶

 

 緩やかな速度で進む景色。

 押しかかってこない圧。

 傾かない船内。


『安定飛行に入りました。ここからは自動操縦になります』


 制御盤から聞こえる穏やかな音声。

 これだ。きっとこれが正常な飛行なのだ。


 島を飛び立った俺たちは“陸”へ向かうため、飛行船での航空を開始していた。


「ふぅ、もう大丈夫みたいです。マサムネ様」

「助かる。今度から操縦はノルンに任すわ」

「了解です……って、どうしたんですかそこの2人」


 ハヤは震えながら俺の背に抱きついており、それを見ているメネの姿が船内の隅っこにあった。


「ハヤちゃん、かなり怯えてるみたいですけど」

「そりゃあんなことされたらな」

「しょーがないでしょ!ああするしか思いつかなかったんだから!」

「ひっ」

「おいおいあんま小さい子怖がらせんなよ」

「ぐっ……!別に、怖がらせる気は」

「ハヤちゃーん大丈夫ですよーあの人ああ見えて運動音痴ですからー」

「普通に私のことバカにしてない?」


 出発前の1件にて、こめかみに銃を突きつけられたことが余程怖かったのかハヤはメネに対して異様に怯えていた。

 目を合わせることもままならないようだ。


「間違えて引き金引きでもしたら死んでたんだ。俺だってビビるよ」

「いや、見てよ。ほら、弾切れだったの。万が一も無かったのよ?」

「ひっ」

「あ。また怖がらせた」

「メネちゃん?」

「いや、なんでそこで怖がんのよ!!」

「ひぃぃ……!」

「うーわ、怖ー」

「メネちゃん、ほどほどにしてくださいね」

「ぃ、ぎぎぎぎ……!!」


 メネは怒りのあまり歯を食いしばった。

 まんま鬼の形相だった。

 ハヤの立場じゃなくても普通に怖い。


「_______________はぁ。まあいいわ。じゃあ出来るだけハヤは私に近づけないようにして」

「慣れるまではとりあえずな」

「ーー、ーーーーーーーーー?」

「え?なんです?」

「ーー……ーーーー?」

「全くわからん。なんで竜人族だけ言語が違うんだ?」

「いや、私達も知らないけど」

「謎の多い種族ですからねぇ……」


 ハヤは必死に身振り手振りで何かを伝えようとした。

 俺たちを何度も指さしたと思うと、しきりに自分の名前を連呼している。


「「??」」

「……名前聞きたいんじゃない?」

「それだ」

「メネちゃん流石」

「こういう時にだけ煽てるな」

「いやあ、今のうちにご機嫌取っとかないとと思ってな」

「ハヤちゃん!ノルン・ノランシーです!ノルンって呼んでください!ノ、ル、ン!」

「マサムネ・トキタ。マサムネでいい。マサムネ」

「ノルン、マサムネ……」


 ハヤは復唱して覚えようとした。

 ジェスチャーである程度は伝えられるが、やはりこれだけでは時間が掛かってしまう。

 そのうち解決策を考えよう。


「ノルン、マサムネ!」

「ふふ、通じたみたいでよかったです」

「名前が呼べるなら、しばらくは身振り何とかなるな」

「メネちゃーん!メネちゃんも教えてあげてくださいよー」

「私はいい。何か会話することもないと思うし」

「もう!これからはハヤちゃんも一緒に行くんですから、名前くらいは教えてあげてくださいよ!」

「じゃあアナタ達が教えてあげなさいよ。私じゃ怖がっちゃうでしょ」

「もー!」

「マ、サムネ」

「ん?なんだ」

「ーーーーーー?」


 ハヤは少し躊躇いながらも拗ねているメネの方を指さした。

 どうやらメネの名前も聞きたいようである。


「あー、メネ!お前の名前も聞きたいんだってよ!」

「別に私の口から言う必要ないでしょ」

「メェ、ネェ、ちゃあん!」

「だから、アナタ達で勝手に教えてって_______________」


 メネがめんどくさそうに言っている中、ハヤは恐る恐ると言った様子で近づいて行った。

 猛獣に怯えている子供みたいだ。


「……なによ」

「っ……」

「震えてる。やっぱり怖いんじゃない」

「!!」

「顔横に振ってるけどね。これから長旅になるんだから、あんまり無理しない方がいいわよ」

「……ワ」

「わ?」

「ワ、ワワ、ワタクシ、ハヤ、イウ、デス」

「頑張ってハヤちゃん!」

「ワタクシハヤイウデス!!」

「……ふぅん」

「ワタクシ!ハヤイ、ゥ……」


 言いかけた所でメネは突然立ち上がった。

 唐突な動きに対してハヤは後ずさろうとするが、涙目のままその場に留まった。


「ゥ、ウウウ!」

「はぁーあ……メネメー・バレタ。メネでいいから。よろしくねハヤ」

「……メネメー?」

「メネ。そっちは呼び慣れてないからやめて」

「メ、メネメー」

「やめて。メネよ」

「メネメー!」

「やめろって言ってんでしょうが!!」

「あ、メネちゃんまた怒ってるー」


 痺れを切らして騒ぐ長耳族。

 青い顔で俺の後ろへと走り寄ってくる竜人族。

 それを見て笑う獣耳族。

 島の上では奴隷同然の亜人達も今はこうして、力を抜いて生きていられる。

 彼女達がなんの懸念もなしに生きられる場所に、いつか連れて行けたらと思った。


『燃料少量、補給のため近くの特例島へのルートに移行します』


 制御盤がそう表記していると気づいたのは、もう少し後のことだった。


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