1-19 出航
クルートとの戦闘後、俺は人混みを避けながら船の場所へと向かった。
街を通る際、人々はやはり俺たちが起こした騒ぎに勘づいているようで、不安げに状況を話していた。
「さっきの銃声だよな……?」
「今日騎士様達がここに着いたらしいけど、何かあったのか」
「この前の亜人がさっきこの辺を走ってたぞ」
「騎士様達はどこへ行ったんだ?」
流れてくる会話の内容から察するに、3人はこの辺を通り過ぎているようだ。
捕まったという話が聞こえないだけマシか。
だが銃声が聞こえたという話から、メネが少なくとも交戦したことが分かる。
「頼む、無事でいてくれ……」
人目を避けつつ街を駆けていった。
こうして街を抜け、島の輪郭をなぞる森へと出る。
ザッド達が言うには、修理した船は森の中に隠しているらしい。
だが、十数人を乗せて飛ぶような乗り物をそう簡単に隠せるだろうか。
目的地へと着こうとする頃、木陰に隠れる2つの影を見つけた。
「うわわわ……ど、どうしましょう」
「ーーーーーーー……」
「だ、大丈夫ですよハヤちゃん。このくらいマサムネ様がいればなんとかしてくれます」
「ーーーーーー」
「え?えへへ、大丈夫ですよワタクシは」
「ーーーー?」
「何やってんだお前ら」
「ひぁ_______________!!」
大声を出しかけたノルンの口を咄嗟に押さえた。
「びっ、びっくりさせないでくださいよ。心臓に悪いです」
「びっくりさせるつもりは無かったんだが……これはどういう状況だ?」
「何かと聞かれれば……ピンチと言う他ないですね」
「ーー……」
2人の見つめる先へと目線を投げる。
見えたのは飛行船と亜人と……周辺を闊歩している空警団の兵士たちである。
「やっぱり見つかってたか……」
「どうやら修理は完了してるみたいですけど、今まさに解体されようとしてます」
「人数は……10人くらい。ザッド達は捕まってんな」
「前みたいにマサムネ様が全員倒しちゃえばいいんじゃないですか?」
「……いや、それはやめた方がいい」
「なんでです?」
「さっき敵の団長と戦ったが、俺の魔術を防げる機杖を持ってた」
「あぁ……それは」
「まあコイツら全員がそれを持っててもおかしくないってことだ」
クルートが団長なら、ここにいる兵の戦闘能力は大したことないだろう。
だが、やはり機杖の存在が邪魔をしている。
バリアを貼る物以外にも何かがある可能性だってある。
俺1人でこの人数の相手は無理があるのだ。
「ザッド、ーーー……」
「大丈夫ですからね。ハヤちゃん」
「くそ、どうすれば」
「……何やってんのアナタ達」
「うぉ_______________!!」
上げかけた声が、浅黒い手のひらで抑えられる。
背後には、いつからいたのかメネが立っていた。
「びっ、びっくりさせんなよ」
「驚かせるつもりはなかったんだけど」
「……」
「な、なんだよノルン」
「別に?なんにもないですよー」
「言いたいことがあるなら言えよ」
「なーんにもないでーす」
「ん゛ん゛ん゛!!」
「うるさい。で、これはどんな状況かしら?空警団に船が見つかって解体されかけてるように見えるけど」
「いや、もうその通りだよ。説明もいらねぇだろ」
「どうすれば切り抜けるか皆で考えてたところです」
「切り抜ける、ね……うん。そんなの簡単じゃない」
すぐに何か思いついたようで、メネは立ち上がり、ハヤの手を引いて船の方へと歩き出した。
「ちょ、ちょちょちょちょっと!メネちゃん戻って来て!」
「おい!いくらなんでも考え無しに行くなよ!」
ノルンと必死に呼び戻すが、足は止まらない。
メネの姿はあっという間に兵士に見つかった。
「!!おい!別の亜人だぞ!」
「動くな!この船は我々、空警団の所有物だ!」
「貴様ら亜人が触れることは許されていない!」
兵士達は長銃を向けてメネを威嚇する。
このまま撃たれてもおかしくない勢いだが、メネは臆せず、ハヤを目の前で抱き寄せた。
「なんだ?」
「ハヤ……!」
「ハヤだ!」
捕らえられた亜人達がハヤに注目する中。
メネはハヤのこめかみに拳銃を突きつけた。
「ひっ……!」
「兵士諸君、動かないでちょうだい。この子は竜人族よ」
「「!!」」
竜人族、その言葉が出た途端兵士の動きは固まった。
「大事なんでしょこの子。殺されたら困るわよねぇ?」
「ふ、ふん……お前ら亜人はお友達同士なんじゃないのか」
「私はそんなこと思ってないわ。言っとくけど、私の引き金は軽いわよ」
「メネメー……!ハヤをどうするつもりだ!!」
「あらザッドいたの。ごめんなさいね、私達アナタに謝らなくちゃいけないことがあるの」
「……?」
「私達ね、別に革命軍でもなんでもないの。ただの野良奴隷なのよ」
「……!」
「奴隷解放とか?亜人の自由のために、とか大層な目標掲げてないわけ。だからアナタやこの子がどうなろうと構わないの」
「き、貴様ァ!騙していたというのか!」
「あんな期待した目で見られたもんだからつい、ね」
メネはにこやかな表情で首を傾ける。
亜人の表情は怒りに染まり、兵士達の表情は真剣な焦りへと変わっていった。
動けばハヤを殺す、この言葉に真実味が帯びていっていた。
「はいはい離れてー、早くどいてねー」
海を割るかのようにメネは兵士の群れを通り、船の中へとたどり着いた。
すると、しきりに手招きをし始めたので急いで俺たちも船へと走っていった。
「……メネ、これはどういうことなんだ」
「さあね。私ももしかしてと思っただけで分かんないわ。ただ、竜人族はかなり大事にされてるらしいわ」
「えっと、今回はワタクシが操縦でよろしいですか?」
「……任せた」
こうして船内へと無事たどり着いたので、開いた乗降口から外を見ながら準備を始めた。
「許さんぞ……貴様ら……」
「よくも我らを騙してくれたな……」
「亜人如きが、卑怯なマネを」
「このままタダで済むと思うなよ」
兵士も亜人も、誰もが怨めしい視線で俺たちを刺してくる。
メネは何故か煽るようにハヤを揺らしてるし、ハヤはずっと青い顔で震えていた。
「ふむ、ふむ……ん!出発準備完了です!」
「よし、じゃあ出入り口のドア閉め_______________」
出発、この島とは最後だろうと。
足場も兼ねているドアを上げようとした、その時
「ヒッ、ヒハハッ!!」
刺突剣の刀身を持ったクルートが、血走った目でこちらに走って来ていた。
「!!おいノルン!早くドア上げろ!!」
「待ってください!!」
「死ねぇぇぇぇ!!」
投擲された刀身の姿を最後に、島の光景はドアで遮られた。
ギュルギュルギュルギュル!!
船の装甲にめり込もうとする刀身の音が、ドア越しに聞こえていた。
「_______________っ、はぁっ……!危な、かった」
「なんなのアイツ……」
上昇を始める飛行船。
離れていく島の姿。
クルートの血走った目が、しばらく頭に残っていた。




