中編
「ただいまー」
「あっ、おかえりお兄」
夕刻には少し早い時間。
学校を終えた俺はすぐさま帰宅した。
魔術の練習も、外に関する本すら今の俺の頭には無い。
家に入ると同時に辺りを見回した。
「どうしたの?なんか急いでるみたいだけど」
「フミカ、スコップってこの辺になかったっけか。しまってたと思うんだけど」
「ス、スコップ?倉にあるんじゃないの?え、何に使うの」
「ちょっとな」
俺は家奥の倉を狂ったように探し回った。
その様子を妹のフミカは不思議そうに眺めている。
「くっそ!倉の中散らかりすぎだろ!」
「……またゴルーグ兄ちゃん落とし穴にはめるとか?」
「もう16だぞ?あんなクズにそんなしょうもないことしないよ」
「絶対また喧嘩してるんじゃん!そろそろ大人になりなよ。そんなんじゃ村出たときに絶対困るよ」
「アイツが悪いんだよアイツが……お、見つけた!」
剣や鎧等の群れの中からスコップを引き出す。
これこそが、俺の人生を変えるキーアイテムなのだ。
手に取るや否や、俺は家を飛び出した。
「ちょっと?!どこ行くのよお兄!」
「多分すぐ帰る!お父様とお母様には夕飯時には帰るって言っといて!」
「んー、わかったー!」
遠ざかる妹の影に手を振りながら、俺は夕日の中を駆け出した。
田舎の村らしい畑景色をバックに俺は足を回した。
『妹さんですか?仲が良いようで何よりです』
「ちょっと話しただけだぞ。普通だろ。それより、本当に力貰えるんだろうな!」
『ええ……私の言う通りにすれば必ず』
「はっはは!嘘だったら許さねぇからな!」
響く声に向けてぶっきらぼうに答えた。
今日、学校にいた時からずっと聞こえるこの声。
言っていることが本当とは限らない。だがそんなことはどうだっていい。
アイツらの度肝を抜くような力が貰える。
そんなイメージに心躍らせながら、俺は声の指示に従った。
〜〜〜〜〜〜
ザク ザク ザク
家を出て数分のところにて、俺は木々の間にある何も無い場所を掘り続けていた。
「ふっ……と、おい!本当にここでいいんだよな」
『ええ、ええ。どうぞそこをお掘りになってください』
「掘ってるんだ、が、な!強くなれるって、この下になんかあるのか?」
『貴方に力を与える宝があります』
「宝ぁ?村のこんな何でもない場所に、なんでそんなのが」
『遠く昔に埋められたものです。かなり古いものでして、皆忘れてしまってるのですよ』
「へー……」
『私はその宝の精霊。貴方のように力を求める方を待ち望んでいました』
「力を求める者ね……そんなの世界にごまんと、い、そ、う、だけどっ!」
突然なる甲高い金属音。
めいっぱい下ろしたスコップから、痺れるような衝撃が走った。
「ぁ、っ〜〜〜〜!!」
『見つかりましたね。そこが入口です』
悶える俺を無視して声は嬉しそうに呟く。
見ると、下へと続く金属製のドアがそこにはあった。
俺は周りの土を払ってから、ドアの取っ手を掴み上げた。
「_______________う、お」
ドアから覗いたのは暗く、底が見えないほど続いた梯子であった。
「これ、どこまで続いてんだ」
『ここの中心までですよ。大丈夫です、梯子を降りれば目的の物までたどり着けますから』
「中心……?ま、まあとりあえず降りればいいんだよな」
俺は言われるがままに梯子を降りていった。
降りれば降りるほど闇は濃くなったが、その暗闇はしばらくすれば無くなるものだった。
「ん、なんだこれ。なにかの光が下にあるぞ」
『……宝の放つ光です。もうすぐですよ』
やがて梯子の終わりが見える頃、声の言っていた“宝”は姿を見せた。
「_______________すげえ」
息を飲んだ。
そこにあったのは光放つ巨大な結晶。
人1人程度では到底持ち運べない程の大きさだった。
「これだよな。その“宝”ってのは」
『そうですよ。よかったですね』
「そ、それで?どうすれば俺は強くなれるんだよ」
『特に難しいことは必要ありません。その結晶に触れるだけでいいですよ』
「よし……触れた、ぞ」
結晶に指先を触れた途端、結晶はより一層輝き出した。
かと思うと、その光は俺の触れた部分へと流れ込み始める。
何かが侵入してくる感覚。
奇妙な感覚が俺に駆け巡るが、不思議と不快な感じではなかった。
「っ……?!」
一瞬、脳内に何かのイメージが流れ込んだ。
だが一瞬すぎてそれが何なのか分からない。
唯一分かったのは、地上を遥か高みから見下ろした風景。
「はぁ……はぁ……」
『よかった。これで貴方は力を手に入れました』
「は、ぁ……力。これで俺は強くなったのか」
顔を上げると、そこにあった結晶は徐々に輝きを失っていっていた。
唯一の光源を失った空間は暗闇へと落ちていく。
「結晶が……なんか申し訳ない気分だな」
『気にする事はありません。さあ、上へ戻って力を試してみましょう』
「……ん?」
『どうしました?』
「なんか、お前の声がさっきよりハッキリ聞こえるような」
『……気のせいではないでしょうか』
まあそんな気にすることではないか。
結晶が完全に輝きを失う前に、と俺は来た梯子を登っていった。
地上に出ると外は薄暗くなっていた。
夜がもうすぐ来る、そんな感じだ。
俺は空を見上げながら思いっきり背を伸ばした。
「ふぅ……さて、力を手に入れたらしいが、どうやって試すか」
『なんでもいいです。どんな些細な魔術でも、貴方は力を実感できるでしょう』
「些細な魔術ね……」
初級魔術“尖鋭火弾”
魔術入門にまず習う、なんてことない魔術。
普通なら手のひらサイズの火球が放たれるだけの魔術を、俺は天に向けて軽く唱えた。
「ほっ_______________!!」
ボ オ ! !
その刹那、俺の指先から放たれたのは火球なんてモノじゃなかった。
大きさだけなら先程の結晶並だ。
小屋1つなら覆ってしまえそうな火球が高く打ち上げられた。
「なんだ、こりゃ……」
天高く上がり、やがて何かに当たったように消える。
俺はその光景に呆然とするしかなかった。
3人を驚かせるどころじゃない。
今の俺は間違いなく全世界最強!!
「は、ははは!!すげぇ!これならなんだって出来る!よっし、まずは次の任務でアイツらを……」
何かが満ち溢れる感覚。
その中でふと俺は気づく。
「ん?おおい、どうした!急に静かになったが」
声がしなくなった。
黙りこくっているのか、響いていた声が一切しなくなったのである。
「……ま、いいか。力は手に入れたし」
感謝の意くらいは伝えたかったが、いないのでは仕方ないだろう。
“宝”の精霊とか言っていたし、明日くらいにもう一度梯子を降りてみるとする。
来たる任務の日、アイツらの反応を楽しみにしながら俺は家へと足を急がせた。
パ キ リ
誰も気づかない。
火球が放たれた先。
ぶつかった空が小さく、ひび割れていたことを。