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1-16 自己紹介

 

 冷や汗が頬を伝う。

 ハヤを連れ出し、廊下で遭遇したのは街で会った“眼”の男とその他数人の空警団であった。


「例の“眼”の人ってのは……あ、もしかして僕?」

「……」

「あれ?違いますか?」

「隊長、あの竜人族は」

「わかってるよ。ちょっと話すから黙ってて」


 後ろにいる4人の兵を制すと、男はこちらに向かって一歩踏み出した。


「こんにちわ。昨日ぶりですね旅人さん」

「昨日ぶり?会ったことありましたか」

「いやいやいや会いましたよ……まあそんなことはどうでもいいです。そこの女の子、どうするつもりで?」

「回収しに来ました。空警団として」

「……仮に空警団だったとして、所属は?」

「“爪”の13番隊」

「13番?そんなに“爪”っていたっけ?ねえ」

「隊長、“爪”は15番隊まで存在しております」

「マジ?はーあ、有り得るっちゃ有り得るわけかあ……」


 メガネを掛けた女が淡々と告げる中、男は面倒そうに頭を搔いた。

 まだノルンとメネの正体はバレていない。

 ならば、上手くいけばこのまま脱出出来るやも。


「はい“陸”から竜人族を回収するよう命を受けま______________________」

「まあいいよ」


 男が薄く微笑んだ。

 それと同時に横にいたメネの身体が後方へと吹き飛ぶ。


「_______________え」

「勝手に確認させてもらうから」


 振り向いて確認するとメネの身は無事。

 だが、顔を覆っていた兜はどこかに吹き飛んだらしく、メネの長い耳は顕わになっていた。


「う、うう……」

「長耳族ね……副長。空警団に亜人を迎えた例なんてあったっけ?」

「ありませんね」

「じゃあ決まりだ。とりあえずは捕獲、かな?」

「くっ……!おいメネ!動けるか!」

「メネちゃん!!」

「ぅ……大丈夫!なんとか、いける!」

「ノルンとメネはハヤを連れて先に行け!!」


 近づく5人の兵士。

 俺はその一群に向けて魔力を込めた。

 吹き飛ばせ。殺さないにしても、戦闘不能にまでは持っていけるまでに。


「くらいやがれ_______________空破風(エアストライク)!!」


 集束。

 解放。

 手の平から放たれた突風は、人を吹き飛ばせるほどの衝撃を編む。

 吹き抜けた空砲は廊下を駆け、目の前の兵士へとぶつかった。


 パ リ ン !

 ガ シ ャ ガ シ ャ ア ン !!


 割れる窓ガラス。

 そして、吹き飛んだ甲冑が何度も床に叩きつけられた音。

 敵数人の距離を離したのは確かだ。

 だが


「はっはは!あっぶなー!なんだ今の!」

「隊長、“矜恃の盾(ハットシールド)”が1つオシャカになりました」

「一発で?!ははっ、なにそのふざけた威力?!」


 男はまだそこに立っていた。

 男だけではない、彼を含めまだ3人もそこに無事で立っている。

 真正面から受けながら。それも、無傷で。

 “爪”の連中と比べれば、その力の差が一瞬で読み取れる。


「……!」

「メネ、ノルン!早く行け!」

「でも、マサムネ様が」

「俺のことは構うな。後で追いつく」


 恐れを見せるな。

 敵に余裕が出来ないよう。

 アイツらが信じて任せられるよう。

 己を奮い立たせるべく、俺は重い甲冑を脱ぎ、臨戦態勢を取った。


「……俺を信じてくれ」


「_______________はい!!」

「さっさと行くわよ!ほらハヤも!」

「ーーーーーー……。」


 微塵の不安も見せず、割れた窓ガラスから3人は出て行った。


 流れるひと時の静寂。

 敵の5人中2人は吹き飛ばした。

 残るは3人、俺の力があれば申し分ないだろう。


「旅人さん1人になっちゃいましたね」

「俺1人で十分ってことだ」

「ホントですか?確かにさっきの威力連発出来るんなら貴方1人で十分かもしれませんけど」

「ふ……出来るんだよ!それがな!!」


 間髪入れずに尖鋭火弾(フレイムバレット)を唱える。

 外すはずのない距離で、確実に当たるよう放った。

 命中、そして上がる粉塵の帳。

 それでも残ったのはやはり3つの人影であった。


「うわマジだ。一発防ぐのに1個って、これ結構高いんだけどなー」


 無傷の兵士。

 帳が上がって現れた彼らは透明な膜のようなものに取り囲まれていた。

 おそらくこの膜が彼らを守ったのだろう。


「でも、防げるんならいけるね。2人はじゃあ逃げた方よろしく」

「御意」

「っ!追わせるか_______________」


 走る一閃。

 追おうとする兵士2人に手を向けるが、それは男の攻撃によって阻止された。

 放たれた元、握られていたのは細く長い剣だった。


「ダメだよ旅人さん。無視したらさ」

「……刺突剣(レイピア)か」

「よく知ってますね。使うの空警団じゃ僕くらいなんだけどな」

「ガシャガシャと、その鍔の煌びやかな装飾は何か役に立つのか?」

「あっはー、やっぱり思います?僕もいらないって言ったんですけどね」


 男は高価そうな刺突剣を床にガリガリと引きずった。

 作り手への敬意も、それを持つ誇りも、その男からは感じられない。

 むしろそれに対して、煩わしいような感情すら読み取れた。


「立場に合った物使う方が、部下に示しがつくぞって言われちゃいまして」

「立場……?」

「知りません?やっぱ戦う相手くらいには知ってもらいたいな」


 男はニコリと笑うと、慣れた手つきで切っ先を華麗に舞わせた。


「“眼”1番隊隊長、クルート・ガレンセン。場所によっちゃ“亜人を屠る者(デミスレイヤー)”なんて言われてます」

「へぇ……言っとくが、こっちは名乗る気ないぜ」

「じゃあやっぱり“旅人さん”で」


 その笑みが戦いのゴング。

 刺突剣と共にクルートは踏み込んだ。


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