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1-15 遭遇

 

「うわー、コイツどーする気ィ?」


 メネが雷撃に焼かれた島主を小突く。

 閉鎖された地下の中では、肉の焦げた臭いが充満していた。


「どうするもなにも、今日にはこの島を出るんだ。ほっとけばいいだろ」

「死んではないんです?」

「加減はしたつもりだからな。生きてる保証はしかねるけど」

「むぅ……」

「いいからさっさと竜人族の子を探すぞ」

「待って」


 倒れた島主を後にし、地下室の探索をしようとしたその時。

 牢屋からの声が俺達を呼び止めた。

 目を向けると、鎖に繋がれた獣耳族の女がこちらを見ていた。


「ハヤって子を探してるの?だったら私知ってるわ」

「本当か?教えてくれると助かる」

「ええ、教えてあげる。でもその代わりやって欲しいことがあるの」

「なんだ?今すぐ出来ることならやってやれるが」

「その男を殺して」


 淀みない言葉で女は言った。

 島主の殺害。

 それを願うのはこの場にいる亜人達なら当然かもしれない。


「まだ死んでないんだよね。とどめを刺して欲しいの」

「いや、死んでないかは分からないが」

「確認してみて。死んでるならすぐ教えるから」

「……マサムネ様、この人まだ息があります」

「じゃあ殺してよ。そしたら教える」


 この女だけではない。

 地下室にいた亜人の誰もが俺に注目している。

 殺すこと自体は簡単で、魔術を1つ唱えるだけで済む。

 だが……だが……。


「っ……」

「殺してくれないの」

「コイツも、痛い目を見た。それで十分だろ」

「なんで、そいつは私達に酷いことしてるんだよ?!ここにいるのだけじゃない!何人も亜人がコイツに弄ばれて、死んだのを知ってる!ちょっと痛い目にあったくらいで許されるわけない!」

「だったら!お前らがやればいいだろ!」

「私達が殺ったのがバレたら、後で空警団に何されるか……貴方達なら大丈夫なんでしょ?今日には島を出るって言ってたし」

「それは、そうだが……」

「多分だけど革命軍なんだよね?貴方達」


 息を呑む。

 どうやら俺は死んだ亜人やこの場にいる亜人達の無念を晴らす権利を持っているようだ。

 この力、振るうとすればこういう亜人達のために使いたいとは思う。


「お願い!革命軍の人!」

「俺が、この手で……」


 だが、他人を手に掛けたことのない俺は。

 世界について何も知らないこの俺は。

 今まさに、命を奪うことを躊躇っていた。


「っ!お、俺は!」

「マサムネ様……」


 パ ァ ン !!


「「!!」」


 乾いた音が地下を反響する。

 それは術を唱えようと手をかざした直後だった。


「バーカなにモタついてんのよ」


 白煙を立ち上らせている銃口が倒れた男に向いていた。

 持ち主はメネ。

 拳銃の向いた先の男は絶命していた。


「メネお前……」

「殺したわよ。ほらさっさと場所教えなさいな」

「ええ、ええ!ありがとう!すぐに教えるわ!」


 そうして、メネは女に話を聞きにいった。

 冷酷に、かつ合理的に。

 亜人であるメネならば感情的な理由も入っているかもしれない。

 それでも、確かに俺はメネに助けられたのだった。


 〜〜〜〜〜〜


 地下室の最奥。

 さっきまでいた部屋とは別に、扉で区切られた部屋が目的の場所であった。


 入ろうと扉を開けた瞬間、真っ白な空間が現れる。

 そこには牢屋も何も無い。

 部屋の隅に何冊かの本が置かれているだけだ。


「いた。あの子ね」


 部屋の真ん中辺りに水色長髪の少女がいた。

 頭から白い角が2本生えている。

 こちらに気づくや否や怯えた様子で部屋の端へと逃げていく。


「そういう反応するのも当然か」

「……この部屋は綺麗にしてありますね」

「それぐらい竜人族様が大事ってことでしょ。の割には奴隷コレクションの隣室だけど」


 怖いぐらいに真っ白な部屋の中。

 俺達はつかつかと歩き、ハヤへと手を差し伸べた。


「助けに来た。大丈夫だ、俺達は空警団じゃない」

「!!」


 なるべく声色は柔らかに。

 だがハヤは出した手を振り払い、ブンブンと頭を横に振った。


「……あら」

「怖がられてんじゃない。もっと優しーく声掛け出来ないの?」

「やってるよ。これで断られちゃどうしようもないぞってくらいにな」

「任せなさい。私の聖母のような微笑みでなんとかするわ」

「さっき拳銃ぶっぱなしてた人が……?」


 ギギギ……と音が聞こえそうなぎこちないスマイルでメネは詰め寄った。

 が、ハヤは応じてくれない。


「……フフフゥん?」

「マサムネ?まだ弾丸は残ってるのだけど」

「いや、そんな顔で脅すな。そりゃ断られるに決まってるわ」

「うっさいわね。あーあ、もうぶん殴って気絶させて運んだらどうかしら」

「むちゃくちゃ言うなよ」

「もう!2人ともこれは笑顔とか声じゃないですよ!」


 そう言ってノルンはフルフェイスの兜を脱ぎ、笑顔でハヤに手を差し伸べた。

 すると、ノルンの獣耳に気づいたハヤは戸惑いながらも手を握った。


「ほら、ね」

「流石」

「……?てか、その子一言も喋らないわね」

「そういえば。えと、喋れます?今から貴方を私達の船まで運ぼうと思うのですけど」

「?……」


 何度か話しかけるが、ハヤは不思議そうに首を傾げるのみ。

 おかしい。まるでこちらの言葉が通じてないかのような……。


「……あ」

「「「あ」」」

「ーーーーーーーーーー。」

「「「え?」」」


 ハヤの口から発せられたのは、間違いなく声。

 だが、その言葉は何を言っているのか全く分からなかった。


「えっと、コイツが何言ったかわかる人ー」

「……」

「ーーーーーーーーーー。」

「マジかよ」


 意思疎通が出来ない。

 まさか種族が珍しければ使う言語も珍しいとは、思ってもみなかった。


「とりあえず出るか」

「そうね」「そうしましょう」

「ーーーーーーーー。ーーーー?」


 ハヤの手を引きながら、俺達は真っ白な部屋から出た。


 牢屋室を通り、島主の死体を跨いだ先。

 地下室を出るとすぐに廊下へと出る。

 後はこの官邸を出て船の停めた場所に着けば無事脱出というワケだ。


「これから竜人族を連れて歩くが、目立つよな?普通」

「フードなり何なりで隠しながら行きましょ」

「角、隠しきれますかね?」

「ーーーー?ーーーーーー。」

「ごめんなさいね。また後でゆっくり話しましょうか」

「この娘との意思疎通は今後の課題ね」

「今後……あの地下の亜人達は、連れていかなくて良かったのか」

「いいのよ。アイツらも“陸”には逆らいたくないらしいし、人数揃えればいいもんでもないわ」

「ですね。目立ちすぎると、例の“眼”の人に……」


 そこまで言ってノルンの動きが止まった。

 ノルンだけじゃない。メネやハヤもその場に固まった。

 不思議に思い俺も3人の目線の先、廊下の向こうを見た。


「やっほー、また会いましたね。旅の人」


 例の“眼”の人。

 俺の身体も、一瞬だけ石にされたように固まった。


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