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1-12 記憶

 

 騒がしい雑踏の群れ。

 人間達が歩き回る街の中を亜人2人、人間1人が掻い潜っていた。

 時は真昼、状況としては現在停滞中である。


「あれ美味しそう!メネちゃんあれ買ってください!」

「はいはいちょっと待ちなさい」

「あんま目立つなよな」


 はしゃぎながら屋台へと駆け寄るノルンに、まるで保護者のように付き添うメネ。

 俺たちは人間に紛れながら、何食わぬ顔で街を散策していた。


「はぁ……本当に俺らこんなことしてていいのか?」

「しょうがないでしょ。竜人族の娘攫ってきても、船が修理できるまで匿うしかないんだから。今は待ちよ、待ち」

「分かってはいるんだが、なんか緊張感ないんだよな」

「別に、私は気を抜いてるつもりはないけど」

「あむあむあむ……お二人共も食ふぇます?」


 ノルンは買ってきた肉まんじゅうを頬張りながら、手に持った袋を差し出してきた。

 完全に何も考えてない顔だった。


「じゃあ、1つ貰う」

「はいメネちゃんも!」

「私は要らないわよ。アナタ達だけで……」


 くるくるくるくる

 メネの腹から虫の音が鳴った。

 背けたその顔はいつの間にか真っ赤に染まっていた。


「メネ、腹減ったんなら食べた方が」

「っ_______________聞いてんじゃないわよ!!」

「おべふっ!!」

「もー、お腹空いてるなら言ってくださいよ。もっと買ってきたのに」

「い、いいのよ私は。船にあった携帯食食べるから」

「あんなのダメです!絶対体に悪い物入ってますよあれ!」

「携帯食舐めんじゃないわよ。ああ見えて結構考えて作られてるんだからね」

「ダメったらダメです!ほらお金出してください!買ってきますから!」

「っ、つつ……てか、金なんていつ手に入れたんだ?」


 平手打ちされた頬を押さえながら聞いた。

 手渡された硬貨を持ちどこかへ行くノルンを眺めながら、メネは問いに答える。


「船に置いてあった。あと、ここの亜人に貰ったわ」

「くれたのか」

「ねだったの。言ったらすぐ出してくれたわ」

「そりゃあな。あっちとしては断れないだろ。ズル賢いな」

「駆け引きに長けてると言ってもらおうかしら」

「そういうの得意そうだよな。メネは……」

「?何、急にじっとこっち見て」


 改めてメネの姿を見てみる。

 朝黒い肌に白い頭髪。

 横に伸びた耳を除けば、人間と何ら遜色ない姿だ。

 それはノルンも同じだ。

 なのに、何故この世界の人間は亜人を奴隷として扱っているのか。


「なんか真剣な表情してるけど」

「いや……えっと、あのテンタってやつも同じ長耳族なんだよな。なんか、話すこととか無かったのかな、と」

「話したわよ。一、二言で済んだけど」

「そんなもんか」

「そのことなんだけど……私たちのことで

 アナタに言わなきゃいけないことが1つあったわ」

「なんだいきなり」

「ノルンと私ね、実は記憶喪失なの」

「……なんでそんなこと今話すんだ」

「いや、話してなかったなーって」


 メネは軽い調子で話しているが、嘘は言っていない。

 本当のことなのだろう。


「私たちだけじゃない、亜人の皆がそうなの。生まれてから島で目覚めるまで、間の記憶がほとんどすっぽ抜けてるのよ」

「島で目覚めるまでって……気づいたら奴隷扱いされてたってのか」

「そうね。でも、何も無いわけじゃない。皆それぞれ断片的な記憶を持ってるの」

「断片的……?」

「私の記憶は、同じ長耳族の連中に除け者にされた記憶よ」


 メネは特に気にしないような素振りで話を続ける。

 まるで他人事みたいだ。


「普通長耳族って金髪で色白なのよ。でも、私や家族は浅黒い肌に銀髪。それで除け者にされてたって記憶よ」

「あんまり、良い話じゃないな」

「私みたいに除け者にされてた長耳族は何人も居たらしいわ。でも、あのテンタってやつはそんなこと知らなかったの」

「知ってても、その記憶は消えてるかもしれないわけか」

「わからない……亜人は皆、記憶の断片を持ってる。それぞれ違う内容の記憶を持ってるんだけど、一つだけ共通することがあるの」

「共通すること?なんだ」

「大体が“陸”で暮らしてる平穏な記憶なのよ。横見りゃ海が広がってるし、上には何も無い青空が広がってたそうなの」

「“陸”で、平穏な……?」


 ザワ ザワ ザワ ザワ


 突如、目の前の人混みがどよめき始める。

 人々が目を向ける先にその騒ぎの原因はあった。


「なんですかっ!離してください!」

「ウチは亜人に食わせるメシなんてねぇんだよ!」


 屋台の店主らしき男に手を掴まれているノルンの姿がそこにはあった。

 何やら揉めている様子である。


「なんでですか!ワタクシはここにある物を注文しただけです!何も悪いことはしてません!」

「亜人であることが悪いことだつってんだよ!分かったら触れるんじゃねぇ!商品がダメになるんだよ!」


 大衆の注目がノルンへと集まる。

 その視線は当然、亜人を味方するような眼差しではなく。


「なんで亜人がこんなとこまで出てんだよ!」

「この街から出てけ!お前らに売るもんなんてねぇ!」

「もの食ってる暇があるならさっさと働きに出ろ!」


 瞬く間に広がっていく非難の声。

 飛び交う罵倒や投げられる小石にノルンの表情はみるみる曇っていった。


「っ、のクソ人間共……空警団であろうとなかろうと、変わんないのねコイツらは!!」

「待て。亜人のお前が行っても多分悪化するだけだ」

「な……!!そんなこと、分かってはいるけど」

「俺が行く。メネはここで待ってろ」


 見るに堪えない。

 ノルンは何も危害を加えていないはずだ。

 何故こんな目にあわされる必要がある?

 叫びたくなるような怒りを抑えながらも、俺は人混みに割り込んで行こうと踏み出した。

 その瞬間。


「_______________これは、なんの騒ぎだい?」


 後ろから投げられた声。

 振り返ると、そこには空警団の鎧を着た1人の男が立っていた。


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