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1-9 全速前進

 

 風を切り、空を優雅に泳いでいく飛行船。

 外を眺めると切れ長の雲が船体をなぞって通り過ぎていく。

 ゆっくりと進んでいく風景。

 高く、緩やかな風の音……。


 荒ぶるエンジン音!

 揺れるは傾くは、の船内!

 平衡すら保てない俺らを無視して、飛行船は超高速で風を切り裂いていく!

 状況はまさに、アウトオブコントロール!


「ぎっ、うぎぎぎぎぎ!!」

「っ……!!」

「は、早く船を止めろ!メネぇ!!」

「いいいい、今やってるわよぉ!!」


 前方から後方にかけての圧の中、メネは椅子に掴まり、パポピポパポピポと電子音を立てながら制御盤を弄くり回していた。


「何やってんだよ!!」

「待って!どうすればいいのかわかんないのよ!」

「動かす前に、情報は十分だとか言ってなかったか?!」

「情報あっても動かせるかどうかは別みたい!聞いたまんまとは何だか勝手が違うみたい!」

「それ気づくのが遅すぎんだよ!!」

「助けてよ!」

「こっちのセリフだバカ!!」


 島出発前、メネの手動の設定によってこの飛行船は動き始めた。

 自信満々で操作し始め、順調に発進しようとしていたのも束の間。

 突如、飛行船はありえないほどのスピードで飛び始めたのだ。

 発進前、一瞬だけ目に入った“速度最大(フルスピード)”の表示についてあの時言及しておけば……。


「ノ、ノルン?お前は大丈夫か?」

「……!」


 ノルンは獣耳族特有の身体能力で床にへばりつき、耐えながらも目を見開いている。

 ちなみに俺は壁に叩きつけられたまま、この激流に身を任せていた。


「なに悠長にポコポコやってんだ!速度止めるだけだろ!」

「そ、れ、が、わかんないの!私も必死にポコポコやってんのよ!」

「何のためにポコポコしてんだよ!」

「それが分かんないからポコポコやってんの!」


 明らかに混乱した様子で手を動かすメネ。

 ダメだ。この調子でアイツにポコポコさせていたらいずれ何か起きる。

 不都合な何かが、確実に。

 そう、前方の窓に少しずつ近づいてる島が見えているのだ。


「……マサムネ様」

「ノルン?なんだ、どうした!」

「この船の説明書(マニュアル)があるはずです。どうにかそれをメネちゃんが読めたら、解決するんじゃないですか?」

「そうか!よし!で、それはどこに」

「この船のどこかに」

「……メネぇ!」


 絞り出すような怒号を投げかける。


説明書(マニュアル)ゥ!この船の!それ、見ろ!」

「……!!無理!あそこにあるけど届かない!私が席から離れたら操作出来ないでしょ!」


 メネの指さす先。

 固く閉ざされた小さな収納スペースがある。

 制御盤の端下、それはメネが手を伸ばせば届く距離であった。

 そして当然ながら俺が届く位置でもなく。


「……マサムネ様。ワタクシが一か八か跳んでみます」

「無理だろ」

「無理です。なので、マサムネ様の魔術でどうにかサポートしてくれませんか」


 グググ……とノルンの脚に力が入る。

 爪がを床に鋭く突き立てられ、尻が上がった。

 いわゆるクラウチングスタートの形だ。


 気は乗らないが、やらなきゃ最悪死ぬ。

 そんな状況でサポートを俺に任せたノルンの覚悟。

 わずかにだが、その信頼を感じられた。


「わかった。風を起こす魔術でノルンの体を押す。それでいいか」

「はい。それでお願いしますね……」

「ひ、ひぃぃぃ……!」


 情けない声を上げるメネを後目に、ノルンはカウントダウンを始める。

 詠唱、発動まで俺は準備万端。


「3、2、1_______________!!」

「任せたぞ!ノルン!」


 ノルンの出立と同時に、広げた手を高くかざした。


 〜〜〜〜〜〜


「お、おいザッド!本当にやるのか!」


 とある島の隅っこ。

 ほの暗い木陰の中をふたつの影が息を潜めていた。

 片方は鱗人族と呼ばれる亜人。

 トカゲがそのまま人の形をなしているような種族。

 もう片方は長耳族の男だった。


「やる。やるしかないだろう。このままアイツらの言いなりになってたまるか」

「だからって今さ?もうすぐ“眼”の連中も来る。なら連中が帰ってからの方が」

「それじゃ遅い!今回でシオンが連れてかれる可能性が!」

「……なんだあれ」


 2人が向く先、島の外から何かが近づいていた。

 丸く、白く、巨大な。

 何かが猛スピードで近づいてくる。


「……あれ、空警団の船さ?もしかして」

「こんな早いはずがない。予定ではもう少し猶予があるはずだ」

「予定ならそうさ……待て。こっちに近づいてないか」

「そんなわけないだろう。あのスピードならこの島にぶち当たる」


 まさか、と冗談交じりに船を眺めていた。

 だが、次第に冗談では済まされない事態であることに2人は気づき始める。


「おい。嘘だ。こっちに来るさ?!」

「待て待て待て待て待て!おかしいだろう!」

「っ、逃げろ_______________!!」


 予想以上のスピードに冷や汗をかき、2人はその場から全速力で離れた。

 息を切らして逃げた、その1分後。


 ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!


 飛行船は下部で大地を削りながら、島の端に無理矢理上陸した。

 正気の沙汰とは思えない光景を目前にし、唖然とする2人の前にその原因となった操縦者は現れた。


「ゲホッ!ゲホッ!あ゛ー……なんとかなったわね」

「マジで、メネお前、今度から操縦すんなよ。次は俺がするからな」

「メネちゃ、ほんと……おぼろろろろろろ」


 開かなくなった戸を押しのけ、船の中から出てきたのは3人分の人影。

 疲労困憊(ひろうこんぱい)の長耳族、怒る人間、そして嘔吐する獣耳族。


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