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110/111

5-11 敵

 

「人の部屋に勝手に入ったらダメだぞ」


 部屋に投げかけられたのは雛鳥のような声。

 淡々とした、そこにある事実を告げただけの声にメネとニクスは振り向いた。

 そこにいたのは竜人族の少女“コヅエ”であった。


「ここはクーシーの部屋だぞ」

「その前にここはフロストハートの屋敷だ。チビッ子、お前いつからそこにいた?」

「チビッ子じゃないぞ。コヅエだぞ」

「はあ?おい銀翼、コイツお前んとこのガキ_______________」


 竜人族の娘。大方革命軍の者だろう。だが、今は騎士としての責任よりも、兄の真実の方を優先したい。

 そう思いニクスはメネの方を見た。


「っ……!」


 ニクスの予想を裏切り、メネの表情は硬かった。

 拳銃を手に持ち、味方であるはずのコヅエにそれを向けている。

 安心とは程遠い警戒の色。

 部屋の前にいる影を睨みつけ、額には汗が滲んでいた。


「どういう事だ?味方じゃねぇのか」

「コイツはクーシィとつるんでたやつよ。多分、アイツと同じ」

「同じ?なんの話しだ」

「“使人”深海の神に操られてる者を、私たちはそう呼んでる」

「深海の、神……?なんだ、全く話が見えてこねぇぞ」

「いいから!今はコヅエから目を離さないで!!」

「メネ。どうしたんだぞ。コヅエはメネの味方だぞ。信用してほしいぞ」


 コヅエは味方に銃口を向けられているにも関わらず、なんの揺らぎも見せていない。

 それどころか、これから放たれるかもしれない弾丸すらいとわない様子で、部屋へと足を踏み入れようとしてくる。

 メネは大きく動揺した。


「それ以上近づかないで!!」

「近づいたら、どうなるんだ?」


 メネが咄嗟に取り出し、投げたのは二十機もの機杖(ワンド)

 小さな鏡のような機杖(ワンド)は宙に放り出されると部屋中に飛び散り、それぞれバラバラの位置につく。


「本気よ。もうここは私の領域、穴だらけになりたくなかったら入ってくんな!」

「穴だらけにはなりたくないぞ……けど」


 メネの脅しなど気にもとめない。

 コヅエは表情を変えることもなく、悠々と前に進み出した。


「コヅエは話を聞いて欲しい。信用してほしい。だから近づくぞ」

「忠告はした」


 メネはなんの躊躇いもなく引き金を引いた。

 ただし、狙いすました瞳の先にはコヅエではなく部屋中を散らばった機杖(ワンド)

 数発、弾丸はそれぞれ別々の方向へと撃ち出され、その先にある鏡型の機杖(ワンド)へと激突する。


 ギギ ィ ン !!


 機杖(ワンド)に触れた弾丸は跳弾し、再び別の機杖(ワンド)

 へと方向を変える。

 弾丸はピンボールのように乱反射し続け、部屋にいる3人を包囲するように飛び回り続けた。


「跳弾……いや、速度が落ちていない。むしろ速く……?」

「何がしたいのか分からないけど、この程度でコヅエは止まらないぞ」


 なおもコヅエは銀弾の結界の中を歩いた。

 その間でも、メネは群れに更なる弾丸を追加していく。


「おい銀翼。何してんだ。コイツは敵なんだろ」

「っ……コヅエ。アンタ本当にクーシィとは何でもないっての?」

「何でもない?クーシィとコヅエはただの仲間だぞ。マサムネやメネと同じだ。同じ革命軍の仲間」

「クーシィが、何かおかしいと思ったことは?!」

「たまに1人になることが多いだけ。クーシィは何もおかしいことはしてないと思うぞ」

「深海の神のこと、何か知ってることは!」

「神?さっきも話してたけど、何の話だぞ?」

「ち、ぃ……!」


 弾丸は跳ね回るが、決してコヅエに命中することはない。

 メネは拳銃を向けたまま小さく舌打ちをした。

 目の前の少女は敵か、味方か。どちらも確信が持てていない。


「銀翼!早くしろ!敵なんじゃねぇのか!」


 ニクスの声と連続する金属音が彼女の判断を急かす。

 敵か、味方か。

 混乱する脳内でもメネはいつもの様に唱える。

 冷静、それでいて合理的に。

 そう考えた途端にメネの頭は冷たく冴えた。


「_______________“照射(ファイア)”」


 告げると同時、飛び回っていた弾丸が姿を消した。


「……メ、ネ」


 そして次の瞬間、全ての弾丸はコヅエの全身に叩き込まれていた。

 無数の穴から血を流し、コヅエの体は力なく倒れた。


「終わった、のか」

「だといいけど。神は底にいる、やっぱあの教会であったヤツらは全員……」

「何だったんだ?“使人”?結局コイツは誰の味方で誰の敵だったんだよ」

「それはおいおい説明する。もしコヅエが本当に敵だったのなら、とりあえずここから離れた方がいいわ」

「おいおいって、状況が分かってねぇようだな銀翼。こちとら本拠地攻められて……」


 パ ァ ン!


 唐突な乾いた音。

 メネは倒れたコヅエの頭に弾丸を撃ち込んでいた。


「お、おい。やりすぎだろ」

「全方位からの集中砲火。それでも足りないのよ。少なくとも頭に3発は入れときたいわ」

「よく分かんねぇけど……真正面から顔面撃つのが一番手っ取り早かったんじゃねぇの?」

「ダメ。正面からじゃ止められる」

「_______________“止められる”?」


 投げかけられる疑問の声。

 その声は他でもない、倒れたはずのコヅエからの声であった。


「な……!」

「メネメー・バレタ。どこまで知っている?伝承の知識だけだと思っていたが、そうじゃないらしいな」


 当たり前みたいに、穴だらけのはずの体はすっくと起き上がった。

 間違いなく命中していた。血も出ている。尋常ならばとっくに絶命している状態だ。

 だというのに、コヅエは生気に満ちた瞳でメネを見つめた。


「力まで知られているとなれば、やはりアイツか……くくっ、柄にもなく柔軟な対応してるようだな」

「っ_______________動くな!!」


 メネは再び弾丸を辺りに張り巡らせた。


「今度はちゃんと殺すわ、“使人”!!」

「そう怯えるな。今更どう足掻いたところで何か変わるわけではない」


 先程と同じように、コヅエは飛び交う弾丸の中を悠然と立っている。

 しかし、表情も声色もまるで違っていた。

 少女のような立ち振る舞いはどこへ行ったのか、一国の王のような佇まいでコヅエは立っていた。


「“照射(ファイア)”_______________!!」

「無駄だよ」


 ニクスはその光景に目を疑った。

 全方位からの放たれる弾の嵐。

 何故かそれは既のところでピタリと止まっていた。

 時でも止められているかのように、弾丸は空中で動きを止めていた。


「“使人”?違うな。我はそれらを顎でつかってやれる存在だ。前に立った時点で死んだも同然なのだよ」


 嘘のような光景の中、その中心にいた少女は不気味に、邪悪に、醜くその顔を歪めた。


「貴様らの言う深海の神。そのものなのだよ我は」


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