1-8 力の差
「よし。これで全員だな」
倒した兵士の最後の1人を縛り上げ、俺は言った。
もうこの島の上には抵抗できる敵はいない。
「_______________空力手」
風の力を使い、団子状の兵士達を軽々持ち上げる。
仕留めた人数は計15人。
恐らくは、あちらが用意出来た最大戦力。
俺はもぬけの殻になってるであろう飛行船に向けて歩き出した。
「凄いですね。魔術ってこんなことも出来るんですか」
「大したもんじゃない。中級の魔術だし、村の連中は皆使えた」
「魔術を見るの、ほとんど初めてなんですよ。いいなあ、ワタクシにも使えたら」
「そんなに便利なもんじゃない。色々考えなきゃなんないし、学びも必要だ」
「つまりは勉強ですか……苦手です」
渋い顔をするノルンに思わず苦笑した。
確かに誰もが使えたら便利だろうが、本来ここまでの力を発揮するものではない。
こうして15人もの体重を支えられているのも、例の力のおかげだ。
こうして偉そうに言っているが、そう誇れたモノではない。
「……その兵士の方々はどうなってるんです?」
「気絶してるだけだよ。風の力で木に叩きつけただけだからな」
「もっと酷い目にあわせてもよかったんですよ?」
「なんだそれ、提案か?」
「何かと聞かれれば切願ですかね」
「メネほどじゃないとは思ったが、ノルンもしっかり恨んでるんだな。コイツらのこと」
「はい……多分、両親の仇なので」
ワントーン下がったノルンの声に、ある種の寒気を感じた。
後ろから着いてくる彼女の顔は俺からじゃ見えない。
だが、その視線は今間違いなく“仇”に向けられている。
「次からは善処する」
「……ありがとうございます」
謎に気まずい雰囲気を保ちながら、飛行船の止まっている位置に着いた。
ひとまず兵士をその場に下ろすと、音に気づいた者が飛行船の中から出てきた。
「おっ、早いじゃない。もう終わったの?」
「メネちゃん!お怪我ありませんか!」
「そっちが引きつけてくれたおかげで無傷よ。時間もあったし、その間に色々聞けたわ。ね?」
「ひっ……」
「ソイツらは?」
「情報提供者。もう用はないけど」
2人の兵士がメネの手元から離れる。
片方は寝ており、片方は逃げるようにその場から離れた。
見ると、逃げた方には魔力があると何となく感じ取れた。
魔力持ちは“陸”で貴重かつ優秀と聞いたが、何やらメネに怯えている。
「な、なんっ、なんなんだよお前ら!亜人の癖に逆らいやがって……魔力もないくせに!」
「はあ?魔力なきゃ逆らったらダメだっての?相変わらずクソ人間様の自分ルールにはうんざりさせられるわ」
「この方は1度痛い目あってもらった方がいいんじゃないです?」
「そう?さっきので十分懲りたと思ったんだけどな……」
「この、亜人が!魔力持ちの俺を見下しやがって!!」
「_______________!!」
その瞬間、俺には見えた。
男が秘めている力の流れ。
その流れが急に加速を始め、ある一点に集中し始めていることを。
「喰らいやがれ“尖鋭火弾”!!」
集まった魔力は炎へと姿を変え、2人がいる方向に放たれた。
「えっ!」
「うわ」
「2人とも下がってろ……って、え?」
2人とも魔術に反応できていなかった。
しょうがなく俺が、2人を遮るように立ち塞がったのだが。
「これ……魔術、なのか?」
「はぁ……はぁ……これが、上級攻撃魔術だ……!」
接近していたのは手のひらサイズの火球。
避けるどころか、防ぐ必要すらないだろう。
俺は手のひらで迫り来る火の玉を叩き落とした。
「な、にィ……?!」
「幼児レベルだな。ふざけてんのか?」
「い、今のは上級攻撃魔術だ!!学のない貴様には分からんだろうが、攻撃魔術とは緻密な計算と呪文を頭の中で思考する必要があるのだ!」
「へぇ、それで?今のが緻密に計算した結果出来たもんか?」
「人間の努力と知恵を愚弄するか!この、この……?」
今のが人間の知恵?人間の努力?
どこが攻撃だったのだろうか、魔物を相手にしていればお遊びにしか思えない。
“陸”で大事にされている魔力持ちとやらは、全てがこうなのか。
そう思うと、無性に腹が立ってきた。
「事情は知らないが……亜人達を食い物にしてきた結果がそれかよ!」
手のひらにを唱え、宙へと浮かび上がらせる。
男の物とはスケールから違う。
“お遊び”とは比べることも烏滸がましい。
これこそ真の魔術。
「笑えるな。見ろ、これがお前と同じ魔術だ」
「貴様も魔力持ち_______________」
ふっと、男の意識が突然途切れる。
どうやらさっきの魔術で魔力をほとんど使い果たした模様だ。
どこまでも低レベルである。
「凄い。これもマサムネ様がやったんですか?」
「……いや、勝手にあっちが気絶しただけだ。俺はなにも」
「なんでしょう。あの方は必死な感じでしたけど。魔術って1つのミスでああも変わるものなんです?」
「いや、ミスはしてない。あれがアイツの全力なんだと」
「かわいそう」
ノルンは倒れた兵士を前にわざとらしく涙ぐんでみせた。
ノルンは普段は利口ぶってるが、人間を前にするとどこか腹黒い一面が見え隠れしている。
仇が相手なら当然か。
「ふぅ……まさか、このレベルがお前の言う“魔力持ち”なのか?だとすれば、俺一人で世界なんてひっくり返せるぞ」
「……多分そうだと思います。空警団の方は皆エリートしかいないと聞いたので、あれでいて“陸”では優秀な方なのだと思います」
「マジかよ」
「相手が弱いに越したことないわよ。アナタが好き放題暴れられるだけ。そんなことより」
メネは振り返り、目の前の飛行船をドヤ顔で指さした。
「善は急げよ!さあ乗り込みなさい!」
「……動かせるのか?」
「情報は十分。あとは動かすだけよ。操縦者は私、メネメー・バレタよ。文字通り大船に乗ったつもりで任せなさい!」
「正直不安なんですけど」
明らかに動かしたくてウズウズしているメネ。
俺とノルンは嫌な予感をどこか感じながらも、船内に入っていった。
 




