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前編

 

 月明かりが差す夜中。

 草原の上で俺たちは魔物と戦っていた。


「マサムネェ!!早く詠唱しろ!いつまでかかってんだこのグズ!」


 うるせぇ!こっちも必死にやってんだ!


「無、理!こっちもそろそろキツくなってきた!早くしてよマサムネ!」

「ヘルプミー」


 なら静かにしてくれ!詠唱ってのは集中力がいるものなんだ!


 風切り音や掛け声が飛び交っている中、俺を除いた3人の仲間は大型の魔物と対峙している。

 彼らが待っているのは強力な魔術。

 申し訳ない、そう感じていながらも俺は目を閉じて詠唱を続けていた。


 〜〜〜〜〜〜


「マサムネ。お前パーティー追放な」


 いつも通りの日常。

 昼前に読書に(いそ)しんでいた俺ことマサムネ・トキタは突然そう告げられた。

 不機嫌そうな面で俺を睨むのは同じパーティーメンバーのガルーグである。


「追放?俺にパーティーを抜けろってことか?」

「その通りだ」

「なっ、はあ?!ふざけんなよ!なんで俺がそんな扱いされなきゃならないんだ!」


 突然の出来事に思わず机を叩く。

 その瞬間に同じ教室にいた他の2人もこちらを向いた。


「俺がいなくなったら誰がこのパーティーの火力役になるんだよ!」

「3人でなんとかする予定だ」

「お前ら3人って、戦士と弓手と僧侶だろ?どうやっても無理だ」

「マサムネ。いいかよく聞け」

「……なんだよ」

「パーティーメンバーにはそれぞれ役割がある。例えば戦士のオレ様は魔物の注目を集めて、他の仲間の負担を減らす最も重要な役割だ」


 ガルーグは自信ありげに続けた。


「弓手のナルカは魔物を妨害して足止め、僧侶のマーマは主に仲間のサポートだ」

「そんなこと今更。俺だって知ってるよ」

「そうか。んで?魔術師のマサムネくんはどんな役割だったっけなぁ?」

「……だから、火力役だよ。魔術使って大型の魔物を倒す」

「だったよなあ?そんな火力役のテメェはこの前の任務中何してたのかなあ?!言ってみろよ!」

「ま、前のは最後にちゃんとやっただろ。大型の魔物だって仕留めたよ」

「詠唱に時間かかりすぎてんだよ!!」


 ガルーグが俺の机を勢いよく蹴り上げる。

 納得できない物言いに俺は思わず立ち上がった。


「そんなの当たり前だ!魔術師には色々あるんだよ!」

「都合なんざこっちにもあるってんだ!それぞれが上手くやるために努力してる!お前はどうだ?使える術の種類ばっか増やしやがって、覚えてる詠唱の短縮なんざしようともしねぇ!」

「俺は自分の可能性を広げてるだけだ!詠唱の時間をかせぐのはそっちの役割だろ!」

「かせぐにも限度があんだろ。昨日のは最悪だったぜ?なあお前ら」

「確かに、昨日のマサムネにはちょっとイラついたわね」

「ナルカに同じくー」


 教室の逆端で固まっている2人が興味なさげに言う。

 普段は仲裁に入るナルカでも、今日はガルーグに賛成してるようだった。


「この前メッタの野郎のパーティーが村を出たの聞いたよな?」

「……聞いたよ。先週だろ」

「メッタはオレらと同期だ。アイツは出来たのに、なんでオレらはまだ村を出れてねえんだ?」

「それは俺たちがまだ未熟なだけで」

「いや、これが誰のせいか……見ろよ。パーティー4人中3人が同じ考えみたいだぞ」

「っ……!ああ分かったよ!お前らお望み通り出てってやるよ!」


 3人の刺すような視線に耐えきれず、俺はドアに向かった。

 そして去り際、教室にいる3人に向けて叫んだ。


「いいか!俺が抜けて後悔するのはお前らなんだからな!!」

「けっ」

「いや私は追放に賛成とは_______________」


 聞く耳持たず。

 俺は怒りに任せてドアを閉めた。


 〜〜〜〜〜〜


 英雄学校

 魔物退治を生業とする者“英雄”を育てる教育施設だ。

 なんでも世の中は人間に迷惑をかける魔物で溢れてるらしく、それらを退ける“英雄”はどこでも必要とされているようだ。

 俺の住む村の若者はほとんどがその“英雄”を目指していた。

 目指す理由は単純で、この村を出るには“英雄”になるしかないから。

 そういう村のルールなのだ。


 加えて、この村には娯楽が無い。

 村にはこの英雄学校と民家しかない。

 そんな村に若者が残りたいと思うはずがなく。

 村に住む若者は鬱屈とした不安を抱えながらも“英雄”を目指していた。


「くそっ、くそっ、くそっ!なんだよアイツら……!」


 そんな若者の一員である俺は学校の廊下を不機嫌そうに歩いていた。

 目指す先はこの学び舎の核。


 “村長の部屋”

 そう書かれている札を確認すると、俺はドアノッカーを叩いた。


「どうぞ」

「入ります」


 無駄に怒気のこもった声で返事し、すぐさま部屋に入った。

 高級感漂う机や本棚が見えると共に紙臭い煙草のにおいが鼻を抜ける。

 俺は顔をしかめながら、部屋にいる爺に目を向けた。


(おさ)、相談があるんですけど」

「つい最近に聞いたよ。パーティーを抜けるよう言われたのだろう。何があったのかは詳しく知らないが」

「いつも通り、ガルーグの奴が勝手にキレてるだけです」

「任務中に何かあったと聞いているのだが」

「……任務は、特に何も。いつも通りでしたけど」


 任務というのは“英雄”見習いが不定期に行う魔物退治のことだ。

 村に攻めてくる魔物をパーティーで退け、“英雄”としての腕前を測る。

 俺たちにとってはかなり重要な機だ。


「とにかく、パーティーとは4人揃ってこそなのだよ。強さだけではなく協調性というのも必要だ」

「だから俺はいつも通りに」

「海、街、城、君が村の外のモノに関心を持っていて知識を多く蓄えているのは知っている。だが、外に行くなら知識だけでなく周りと上手くやっていくためのものもだね……」

「俺も周りを見て動いてるつもりです」


 こっちとしては必死に話しているが、どうやら長は俺が全面的に悪いと思っているようだ。

 俺に非がないと言えば、それは嘘になる。

 だが、こっちの苦労を知ろうともしないアイツらにも悪い所はあるはずだ。


「はぁ……近いうちに任務もあるだろう。その時までに私も君のパーティーに何とか言っておくから君も上手く話しておくように」

「……はい」


 長の呆れたような溜め息混じりの声を最後に、俺は部屋を出た。

 やり場のハッキリした怒りを抱えながら、モヤモヤとした気分が渦巻いている。


「詠唱の短縮だろ?見てろよアイツら……次の任務までに_______________」


  … … … 。


「ん?」


 反応して、目線を後ろに投げる。

 誰かの声が聞こえた気がした。

 掠れたような、くぐもったような声が俺を呼んだ気がしたのだ。


『……こ……すか?』


 どこからともなく声が聞こえる。

 後ろとか前とか上とか横とか、からではない。

 俺を呼ぶ声がしているのだ。


『聞こえましたか。聞こえましたら、右手を上げてください』

「お、おお……えっと、誰でしょうか?」

『貴方は力が欲しいのでしょう?』

「はい?」

『私は貴方に力を与える者です』


 響く声。自分だけに聞こえている声。

 俺はその声に戸惑いながらも、返事をするしかなかった。


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