5.デンファレ
たくさんの友人と、育ててきてくれた家族に見守られて。ステンドガラスの美しい光を受けて。無垢で清楚な眩しい空間にて、彼女らは、誓いのキスを交わした。
大粒の涙が、ぼろ、と左目から落ちていく。夢に見ていた結婚式。憧れていた、素敵な結婚式。
「ねぇ、泣いてんの?」
隣に座っていた友人が、茶化すように囁いてきた。私はわざとらしく怒った表情を作ると、友人の膝を軽く叩き、
「感動してんの!」
と言い返した。そんな理由じゃないのに、なんて心には、無視をして。
美しさ、可愛らしさの際立つ、ウェディングドレス。ここに居るだけで、胸の高鳴るこの空間。
私だけじゃない、女性が一度は羨ましく思うことだろう。私だって、羨ましい。
隣に立つのが私だったら良かった。
誓いのキスを交わすのが、私だったら良かった。
みんなに見守られて、良かったねって。
祝ってもらえるのも、私が良かった。
こんなこと、何度考えても、何度悔やんでも、何を恨んでも、変わりはしない事実。2人が幸せなら、それでいいんだ。そうやって蓋をした筈の心が、叫び出す。
出番がやってきて、席を立った。彼女・理香の親友として、光栄ながら花束の贈呈を任せて貰えたのだ。
「えー噓! こんな綺麗なの、貰っていいの!」
「理香のために私が用意したんだよ」
「さぁやのセンス、最高すぎる……。ありがとうーー……!」
「いえいえ。この先も幸せになってね」
「ねぇ、泣いちゃうってば……ほんとにありがとう……」
目に涙を浮かべる理香。お互いに微笑みを見せると、私は席へと戻る。
デンファレと言うランの仲間を、花束のメインにした。紅紫色と白色で、華やかに可愛らしく作ってもらった。
デンファレには『お似合いの二人』といった花言葉がある。幸せになってほしい願いを込めて、知った瞬間に即決だった。それに、本当にお似合いだと思うから。
理香と相手の真斗は、幼馴染だった。一緒に遊んだことが何回もある。
真斗は優しく朗らかで、細かいところに気がきくから陰で支えてくれて、任せられた役目は責任持ってやり遂げてくれるから、みんなに信頼されていた。
理香はいつもみんなを引っ張ってくれる盛り上げ役で、ちょっと大雑把だけど最後まで絶対に諦めない心の持ち主で、ころころと表情の変わる素直さがみんなに愛されていた。
そんな2人だから、いつか両思いになるってわかってても、想いを伝えられなくて。私の片想いの期間は、およそ10年にもなった。2人が付き合いだして、結婚を決めてからも、ずっとずっと気持ちが捨てられないままだった。
恐らくこの先も、伝えることはなく、叶うこともない。下唇を強く噛み締め、しっかりと2人を見据える。
これから2人の未来には、子どもができて、明るい家庭を築いていく。私はそれを見て、聞いて、恋がいよいよ終わったことを実感するのだろう。
約10年間。心の底から、大好きだったよ。
……私が真斗だったら、私に恋をしてくれたのかな。
デンファレ
『お似合いのふたり』