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31の花言葉  作者: 夏川 流美
29/32

29.クロユリ


 どこから流行り始めたのか分からない。噂では、越冬するために人間の体温や栄養に寄生するように変異したとか、してないとか。


 今年の11月からニュースになるようになった『花咲病』と呼ばれるそれは、人間に花が咲く奇病だった。



 咲くも咲かないも、原因も、花の種類も、全く解明されていない。同じ条件のように見えても、ひとりは奇病に罹らないし、ひとりは目から花が咲くし、ひとりは全然違う花が指先を埋め尽くす。


 そして、目の前に咲くクロユリは"人間だった"私の夫。



 夫の花の咲き方は、今の医療技術と知識では治せないと、早々に手を上げられた。聞くところでは、発覚した時点で既に体内中に根を張っており、摘出しようものなら内蔵のほとんどが無くなる、と。


 食道に茎が伸び、飲食できなくなった夫はみるみるうちに痩せ細っていった。呼吸するのでさえ激痛を伴うようで、会うたびに苦しみと痛みで涙目をして憔悴しきっていた。



 毎日お見舞いに行ったものの、毎日確実にやつれていく。私は何をすることもできず、そんな夫にいつも通り話しかけて帰る。ただそれだけの日々だった。そんな日々も、もう終わりを迎えたわけだが。



 病気に罹ったと判明してから、僅か1ヶ月。通常では考えられない、人間の身長をも超える巨大なクロユリ達が夫の口から咲いた。夫は花瓶代わりに上を向き、口をぽっかりと開けたまま、二度と動かなくなっていた。


 当然見たことのない異様な光景に、この世のものではないような気持ち悪さに、人間扱いされない姿への違和感に、私は瞬間的に吐き気を催し、口に手を当てた。



 だけど、抑えた手の中から笑い声が漏れた。



 こんなの見て笑っちゃいけない。万が一、笑ったことが他人にバレたら、私が疑われる。


 でも、それでも堪えられなかった。



――あぁ、やっと死んだ!!




 これは、賭けだった。


 私に隠れて不倫していた夫を。女に指輪を買っていた夫を。私を女扱いしなくなった夫を。


 どうにかしてバレないように殺してやろうと、毎日毎日毎日毎日ネットで調べていた。何か。何か手段はないか、と。


 そんな中、病が流行り始めた頃に見つけた「花の種を売ります」「病気のせいにして殺せるチャンス」というSNSの書き込み。


 正直、信じてはいなかった。けれど、本当だったら流行り始めた今しかできない。数万で購入した疑惑品が、まさか本当に効果があったとは!!


 お医者様は「人間の栄養を吸い付くしミイラにしてようやく花も枯れる筈。その前に火葬するのがおすすめだ」と言っていたが、こんな滑稽な夫の姿を早々に焼いてしまうのはあまりにも勿体無い。



 私は夫がミイラになるまで、この目に焼き付ける。毎日毎日毎日毎日、ざまあみろと、心でほくそ笑む。



 知らぬ間にできた

 手の平の芽を引きちぎって。





クロユリ

『呪い』

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