表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31の花言葉  作者: 夏川 流美
26/32

26.はなきりん


――ただ、君に触れたかったんだ。



 君の声はどうにも、脳に響く。僕の頭をクラクラとさせる。それは、甘くとろけさせる媚薬のように。


 早朝の鳥の囀りのように、切なく美しいその声が、君以外を考えられなくした。




 君の視線は、金縛りへと導く。頭の先から足先までを、ぴしりと動かなくさせる力がある。そう、君に見つめられると動けなくなる。


 奥ゆかしく光の入る潤んだ瞳に、僕の中身が吸い込まれて、君以外を考えられなくした。




 君の手は、電流を走らせる。君に触れられたところが、熱い。熱い。熱くて堪らない。まるで魔法のように、びりびりと痺れて熱を帯びる。


 無機質に白くて艶めかしい指先に、絡め取られて動けなくなって、君以外を考えられなくした。




――ただ、君に触れたかったんだ。



 それだけなんだ。君からじゃなく、僕から、君へ。手を伸ばし、そっと触れ、ガラスを扱うように静かに愛でるだけ。


 そうしたかっただけなんだ。


 そう。


 たった、それだけできれば。











 ……できれば、良かったはずなのに。










 こんな、筈じゃぁ、なかった。









 君が、倒れていた。

 僕の目の前で。


 

 手の中には、小さなナイフがあった。


 君の首筋には、絵の具が固まっていた。



 おかしいな。








 思い返してみた。



 呼び出したんだ。そうそう、君に想いを伝えたくて。君に触れたいと、言いたくて。


 いつも僕にくれる声も、視線も、手も、僕だけのものって信じていたから。




 でも、君には相手がいた。


 僕じゃない、他の奴にとっくに触らせてたんだ。何もかも。君の全てを。




 あんなに僕だけに囁いていたのに。

 あんなに僕だけを見つめていたのに。

 あんなに僕だけに触れていたのに。



 全部、本気じゃなかったんだ。




 だから、ああ、そうだ。

 ポケットに入れていたものを手に取った。


 いじめてくる奴らを、いつか殺すための折りたたみナイフ。僕のお守り。



 それをつい、君に振りかざしてしまって。




 満月の夜、狼の遠吠えのような寂しそうな声を君が出すから、聞きたくなくて3回振りかざした。もう、二度とそんな声を出せないように。




 そうして僕たちの周りには、君の首から溢れ出た、赤いはなきりんが散った。



 物音ひとつしない2人きりのこの世界で、僕は君に、そっとキスを落とした。



 ただ、君に触れたかったから。






はなきりん『早くキスして』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ