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31の花言葉  作者: 夏川 流美
20/32

20.ヒャクニチソウ


『ごめんなさい。貴方を待ち続けることが、私にはできなかった』



 これで最後にしようと決めた、数十通目の手紙の始まり。相手は、ずっと昔に恋人だった人。



――海外に行くんだ。



 成績優秀で好奇心の高い彼は、一生懸命に働いたお金で海外移住を決心した。そうと知らされたのは、行ってしまう前日の夜で、私と一緒に居るつもりが無いことは明白だった。



――いつ戻ってくるかは決めていない。ずっと待たせてしまうから、だから、



 別れよう、と彼は言った。



 待って。なんで。置いていかないで。なんて、私には言えなかった。ひとりになるのは確かに怖かったし、突然の報告と別れに深く傷付きもした。


 だけど……じゃあ一緒に着いて行くと、言える勇気が無かった。彼と違って、海外に特別憧れていたわけではないし、英語なんて話せないし。


 せめてここで「ずっと待ってるから」と言えていれば、また違ったのかもしれない。でもその時の私は、ほとんど放心状態で



――わかった。



 と答えるだけだった。




『7月に結婚式を挙げます。もし時間があれば、きてください』




 彼が行ってしまってから数年後に、告白してくれた男性と付き合うことになった。誠実で、朗らかな笑みを浮かべる人。彼とは違い、いつでも側に居てくれる人。


 そんな男性と順調にお付き合いが進み、結婚式を挙げることが決まった。だから、今まで定期的に送っていた手紙は、結婚の報告で最後にする。


 ウェディングプランナーさんや夫と、どんな結婚式にしようか相談を重ねる中で、式場の一部に『ヒャクニチソウ』のお花を飾ってもらうようお願いをした。



 明るく輝き、目を惹かれる美しい花。


 

 送った手紙に返事が来たことは一度も無かったけれど


 確かに彼のことが好きだったから。






ヒャクニチソウ(別名:ジニア)

『別れた友を思う』

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