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31の花言葉  作者: 夏川 流美
14/32

14.アサガオ

 息を飲んだ。


 街で偶然見かけた女性の姿。高身長によく似合う長いワンピースをなびかせ、颯爽と目の前を過ぎていく背中から、目が離せなかった。



 慌てて追いかける。話しかける口実を数秒で考え、とにかく引き止めたい一心で前に立った。



「あの――お、お姉さん! …………ここらへんに、美味しいレストランって、あります?」



 突然声をかけた私に、彼女は驚いた顔をしながらも冷静に答えてくれた。



「ごめんなさい、ここらへんのことあまり知らなくて」


「あ、そっかそっか……分かりました。というか、お姉さんすごい綺麗ですね、びっくりしちゃいました」



 変な人だと思われているだろうな。困り眉で笑いながらお礼を返される。だけど綺麗なのも、びっくりしたのも本当だ。整った顔立ちは、身長と相まってまるでモデルみたい。


 去りたそうにしてる、けどなかなか離れられない様子の彼女が、目を逸らして耳に髪をかけた。隙間から、薄い水色のイヤリングが見えた。


 はっ、として凝視する。間違いない、アサガオのイヤリングだ。私が今耳につけているものの色違い。



 ……なんで。




「お姉さん、そのイヤリング……どこで……?」


「これは……ちょっと、覚えてないんです。でも母親に『大切にしなさい』って言われて」


「あぁ、そうなんだ……みて、私も、同じやつ。……色違いなんだよ?」


「本当ですね、すごい偶然」



「そうだね、じゃあ、ありがとう、お姉さん。私はここで…………」




 堪えられなくて逃げ出した。

 やっぱり、やっぱりそうなんだ。やっぱり、私の親友だった。見た瞬間に分かった、そうだろうと思った。



 アサガオのイヤリングが色違いなのは、お揃いなのは、偶然なんかじゃない。だってそれは、私があげたものだから。ずっと友達でいようねって、お母さんに手伝ってもらって手作りしたものだから。




 私と彼女が出会って仲良くなったのは中学校。プレゼントしたのは中学生最後の年。同じ高校に行って同じバイトを始めて。そして……彼女が事故に遭ったのは、高校2年生の時。


 何ヶ月も経て目を覚ました彼女は、私を見て「知らない」と言った。一時的だろう、と言われた記憶障害。私は二度と彼女に会いに行くことはなく、彼女も同じ学校に戻ってくることは二度となかった。




 その記憶障害はまだ治っていないのだと、さっきの出会いで知った。きっとこの先も私を思い出すことなんて無いのだろう。


 私の親友、元気そうに見えた。今はどんな人生を選んでいるんだろう。別の親友とか、彼氏とか、作っちゃったりしてるのかな。遊びに行く途中だったりして。




 考えれば考えるだけ、嫌になる。もし私が、入院中にちゃんと会いにいってたら思い出してくれていたのかも。そんなの、もう今更遅いか。


 あーあ、イヤリングを大切にしなさいだなんて、彼女のお母さんはすごく残酷だ。そして、着けてる彼女はもっと残酷だ。大切にしていればいいんだから、着けなくたっていいのに。いいのに、なのに、着けてる。



 嬉しい。会えたこと、着けてくれていること、元気そうなこと。

 だけど、辛い。苦しい。悔しい。悲しい。どうしようもできない過去を、無性に取り戻したくて仕方ないや。





 でもなにより、

 街中でひとり泣きじゃくる私のそばに

 親友が来てくれないことが


 すごく、寂しいや。







アサガオ

『固い絆』

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