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31の花言葉  作者: 夏川 流美
12/32

12.ツツジ

 どこから秋虫の音が聞こえる。季節が変わると、あっという間に空気が冷え始めた。色付きだした木々の葉は、夜風に揺れている。



「花乃、このあとどうする? あたしの家泊まりにくる?」


「う〜ん、そうだね……! (なぎ)ちゃんがいいなら泊まりに行こうかな」



 隣を歩く親友――凪ちゃんの提案を受ける。同じ大学、同じオカルトサークルに所属している私達は、心霊スポットを巡ってきた帰り道だった。


 今日は夜更かし。どんなことをしようか、お供のお菓子は何を食べようか。考えるだけで堪らなくワクワクしながら会話を広げた。


 ゆっくりと帰路を辿る中で、空を見上げる。そこには大きな満月がぽっかりと浮かんでいて、私達を見守っているみたいだ、なんて不思議な思いを人知れず抱いた。





 十数分歩き、たどり着いた凪ちゃんの家は、アパートの2階。もうすっかり見慣れた部屋に遠慮なくお邪魔して、定位置に座り込む。凪ちゃんはすぐさまいろんな種類の遊び道具を机に広げた。私と同じくらい、遊ぶのを楽しみに目を輝かせている。



「ささ、どれからやる?」


「う〜んとね、凪ちゃんが選んでいいよ! 今日も心霊スポット巡り一緒に行ってくれたから、好きなの選んで!」


「えっと、じゃあ〜……よし、UNOからやろう!」


「私UNOには自信あるよ! あ、でも凪ちゃんとはやったことなかったかも…。えへへ、負けないからね!」



 遊ぶものを決めたら、机の上を整理してお互い本気で勝負に挑む。凪ちゃんが誇らしげにUNOを叫ぶ中、私の手持ちは6枚。これは負けちゃう、と焦る気持ちを必死に隠した。





 UNOは私の3勝3敗。チェスは1勝2敗。トランプは0勝4敗。枕投げは引き分け…………という残念な結果の数々で、気付けば時刻は深夜2時半を回っていた。


 凪ちゃんの目蓋も重そうに沈み、私も思考回路がぼんやりとしてきた。口数も減ってきていて、寝るには良い時間かと、ちらちらと時計を確認する。


 まだ遊ぶのをやめたくない気持ちはあるけれど……。そう葛藤していると、凪ちゃんのほうから声がかかった。



「ね、花乃、眠くない? あたし、そろそろ限界」


「いつの間にかこんな時間だね……もう寝る準備しよっか!」



 寝ぼけ眼でなんとか動いている凪ちゃんの姿に苦笑を溢した。机をずらし、床に私の布団を敷いてもらう。私が布団に入ると電気は消され、カーテンの閉まった窓からうっすらと月明かりが差し込む。



 今日の心霊スポットも何もなかったなぁ……。一度くらい幽霊に会ってみたいのに。でも、こうやって凪ちゃんと夜更かしして遊べるのは楽しいから、いっか。



 天井を見つめ、そんなことを考えていた。しんと静まり返る部屋。突如として凪ちゃんと声がぽつりと落とされた。



「ねぇ……花乃」


「凪ちゃん、どうしたの?」



 ベッドのほうを向いて答えると、同じくこちらを向いていた凪ちゃんと目が合う。途端、弾かれたように視線を逸らし、壁に体を向けた。



「ごめん、なんでもない、寝よ! ……おやすみ」



 なんだろうと疑問には思いながらも、布団を被ってしまった様子を見て、追及するのを止めた。


 帰り道に聞いた虫の声が、またどこからか微かに聞こえる。それは子守唄のように心地良くて、意識は段々と薄れていった。








――外から差し込む光に、目を覚ました。うんと背伸びをして息を吐き出すと、ふと部屋の違和感に意識を向ける。見回した部屋の中に、凪ちゃんの姿が無くなっていた。



 先に起きて別の部屋に居るか……はたまた、トイレに行っているだけだろう。そう思って数十分待ってみても、戻って来ることがなく、ましてや物音も聞こえない。


 枕元のスマホを確認しても、連絡は何もきていなかった。目を覚ますようにもう一度、うんと大きな背伸びをして立ち上がる。



 朝から凪ちゃんは何しているんだろう。



 様子を見に出ようと、部屋のドアに手をかけた。だけど、おかしい。



「……あれ、開かない」



 ドアが開かない。押しても引いても、スライドして開けようなんかしても、外開きのドアは無論開かない。鍵はついていないのに開かないってことは、部屋の前に大きな荷物でも置かれている?


 それがわざとか、わざとじゃないのか、今は分からないけど……。




「おーい、凪ちゃーん」




 ドアを何回かノックしてみる。応答はない。家にいないのかもしれないと思って、電話をかけてみると、家の中から着信音が耳にできた。ついでに、凪ちゃんであろう足音が目の前にくる音も。




「……花乃、起きたの?」


「おはよう凪ちゃん! なんかドア開かないよ。なんでー?」




「……ごめん、閉じ込めた」




 凪ちゃんの返答に、え、と言葉が詰まる。


 閉じ込めた? わざと、私を?


 理由が分からない。突然のことで少しだけパニックになる。再びドアを開けようとしてみるけど、やっぱり、開かない。本当に凪ちゃんがこんなことしたの? ……なんで?




「待って、急にどうして!?」


「……ごめん。あたし、もう花乃に会えない。……合わせる顔が、ないの」



 ドアの向こう側から聞こえてくる、凪ちゃんの震えた声。少し意識を外せば聞き逃してしまいそうなくらいの小さな声。それだけで、何かあったんだって分かる。分かるけど、この状況じゃ何もできない。




「どうしちゃったの……? ねぇ、お願い、とりあえずここから出して。ちゃんと顔を合わせて……凪ちゃんのお話、聞かせて?」



「…………ごめんね。他の人に開けてもらうから、待ってて……ごめんね」



「凪ちゃん……凪ちゃん、待って!」




 部屋の前から去っていく音がする。名前を呼んで引き止めようとしたけれど、その足取りは止まらなかった。


 私の言葉に聞く耳をもってくれない。今の凪ちゃんはおかしい、どうかしている。こんなこと今まで一度もなかったのに、なんで急に。


 凪ちゃんが私の前から居なくなっちゃう。もう二度と、会えなくなっちゃう。そんな可能性への恐怖が、不安が、私の鼓動を騒がせる。


 手先に流れる血流までもが、心臓みたいにドクドクと鳴った。どうにかしなきゃ。今すぐ凪ちゃんに会いにいって、それで、話を聞こう。だめ、勝手にいなくなるなんて、そんなの私が許さない。




 迷わずに窓に駆け寄った。窓を開け、下を覗き込む。フチに掴まってギリギリまで体を伸ばしてから降りたら、きっとダメージは少ないはず。2階なら普通に飛び降りても、きっと死ぬことはないと、思うし。



 多少足はすくんだ。でも、今の緊急性に比べたらこんなの迷う暇ない。私は落ちる場所と落ち方に最新の注意を払いながら、必死に体を伸ばして窓から部屋を出て行く。


 落ちた先は土。けど着地がダメだった。立ち上がろうとした瞬間、右足首がずきりと痛む。



「こんなのっ……気にしてる場合じゃない!」



 刹那、目に涙が浮かんだが前を向く。凪ちゃんはまだ家にいるだろうか。もうどこかに行っちゃっていたらどうしよう。はやる気持ちで玄関まで辿り着く。


 お願い、そこに居て。


 玄関の扉に手をかけると、扉はすんなりと開いた。目の前には座り込んでいる凪ちゃんが、顔を上げたかと思えば即座に体を背けた。


 たった一瞬だが、目が合った。その一瞬で、凪ちゃんの右目付近に違和感を感じた。何か違ったような気がするけど……今はもう隠されていて、分からない。



「なんで……どうやって出たの……」


「窓から出てきたの。凪ちゃんがどこか行っていなくて、良かった」



 顔を覆い隠す挙動に疑問を持ちながらも、近付いていく。凪ちゃんはその場を動きはしないものの、少しでも距離を取りたそうにしている。



「やめて、来ないで!! ……もう会えないって言ったでしょ」



 初めて聞いた怒鳴り声。思わず足が止まる。足首が、ずきりと痛んだ。そんなに私と会いたくなかったの? 親友だと思ってるのに、こんなお別れなんて嫌だよ。




「私は凪ちゃんと会えなくなるの嫌…………。あそこで待ってたら、凪ちゃんともう会えないと思ったから、私、頑張って出てきたんだよ」



「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも、でもね、ダメなの。私はもう、花乃と一緒に居たらいけないから。だから、ごめんね……このまま、帰って」



「一緒にいたらダメ、とか。急にそんなこと言われても頷けない。私は今の凪ちゃんを放っておけないから、帰らない」




 ずっと俯いたまま、顔を隠している凪ちゃん。怒ったり、泣きそうだったり、やっぱりおかしい。何か私に隠している。多分、凪ちゃんの顔に何かあったんだと思う。


 どんな凪ちゃんでも受け入れるのに。例え大火傷してたりすごく腫れてたり……してたら悲しいけど、それでも嫌いになったりしないのに。



「凪ちゃんが私と居られないのは、隠している顔に理由があるの?」



 問い掛けると、数秒の沈黙の後、僅かに頷いた。予想通り。私は凪ちゃんの前までいってしゃがむと、声をかける。



「見せたくないと思うけど、私、凪ちゃんの力になりたいから、ごめんね……。嫌なことする私のこと、嫌いになっても大丈夫だから、ね……」



 顔を覆う凪ちゃんの手に、そっと触れる。顔から剥がそうと動かすと、凪ちゃんは簡単にそれを受け入れ、手を下ろした。


 頬に伝う、いくつもの涙。凪ちゃんの泣き顔も初めて見た。だけどそれよりも先に目についたのは――





――右目を覆う白い花の群生。





 はっと息を飲む。目から花が咲いている。

世の中に、体から花が咲く病気が存在していることは知っている。しかし詳しくは知らない。私には関係ないと思っていた。類稀に見る病気。早々関わることなんて、ない、と…………。





「あたし、病気に、なっちゃったみたい」



 ぐしゃぐしゃに濡らした顔で、誤魔化すように口角を上げる凪ちゃん。でも口角は痙攣するように引き攣っていて、眉間は辛そうにしかめられている。



「だ、大丈夫、まだ治らないって決まったわけじゃないから!」



 凪ちゃんの手を取り、強く握りしめた。


 詳しくない私でも、これだけは知っている。この病気は治らない。治療法の解明されていない、不治の病。咲いてしまったら死ぬまで咲き続ける。



 慰める言葉が、これ以上見つからない。どうしたら安心させられるの。どうしたら凪ちゃんの涙を止めてあげられるの。深夜までは何事もなく笑っていたのに、なんでいきなりこんな病気になっちゃうの。




「……花乃。この花がなんだか、わかる?」



 問いかけられたので、焦る気持ちの中よく観察してみる。見たことはあった。道端で見かけていた気がする。確か、名前は……




「ツツジ、だよね?」


「そう、正解。じゃあ、白いツツジの花言葉は知ってる?」


「……分からない。なぁに?」



「白いツツジの花言葉は"初恋"。この花が咲く原因は、花言葉の通り、初恋。誰にも知られたくない初恋をした時に、右目から咲くんだよ」




 花言葉は初めて聞いた。凪ちゃんは何でも知ってるなぁと思いながら、胸に湧き上がった思いを心に留める。つまり凪ちゃんは、そういう初恋をしたってこと、だよね。そんなの、隠すことじゃないのに。



 私が黙っていると、あのね……と凪ちゃんが言葉を紡いでいく。




「あたし、ずっと恋なんてしてこなかった。好きだなんて想い、知らなかった。花乃がいるから毎日楽しくて、正直恋人なんて関係要らない。くだらないって思ってたし」


「でも……さっき言ったように、このツツジは、誰にも知られたくない初恋をしたときに咲く」




「ね、おかしいでしょ。


 あたし、花乃に初恋なんて……変、でしょ?」




 そこまで言い終えると、くしゃりと笑顔を見せた。反面、瞳からは大粒の涙が床に落ちていく。


 握り締めた凪ちゃんの手に、また力を入れる。まさか、私に恋だなんて。


 頭が白くなる。信じられない、けど拒みたくない。これは凪ちゃんの大切な想い。



「全然変じゃない!!


 あのね、恋ってキラキラ〜ってしてるんだよ。周りにお花咲いてるみたいに毎日が華やかになるの!


 ドラマで見る恋はみんな幸せそうでね、私もいつかこんな恋がしたいなぁって憧れてるの……。


 だから、だからねそんな悪いことしちゃったみたいに泣かないで! 私、凪ちゃんにとっての幸せになれるの嫌じゃない!!」




 伝わってほしい。私だって凪ちゃんが大好きだ。かけがえのない親友で、大切な存在。変えの効かない、唯一無二の存在。


 だからどうか、傷付かないでほしい。苦しまないで、ひとりで抱え込んで、自分から居なくなろうとなんてしないでほしい。


 凪ちゃんの幸せが私だなんて、嫌なわけがないんだから。




「……花乃らしいね」



 苦笑いに近い、安心したような笑みを浮かべた。



「ありがとう……けど、やっぱりもう隣に居られない」


「なんで……!?」


「この病気は……悪化していくと、視界が奪われる。神経が繋がっているから抜くこともできない。失明みたいになっちゃうの」




 新たな情報に驚愕した。不治の病に侵されただけじゃなく、失明までするというのか。どうして、凪ちゃんがそんな代償を背負わなければいけないのか。誰にも知られたくなかったかもしれない、だけど、その相手がただ私だっただけなのに。



 嗚咽を漏らし、言葉を詰まらせながら、凪ちゃんは苦しみを吐露する。




「なにも、見えなく、なっちゃったら、あたしもう、花乃のこと分からなくなっちゃう。


 同じ景色を見て、同じことで笑って、…同じことで遊んで、同じ、ことで、喜ぶことも、もう……もう、できなくなっちゃう。



 あたし、そんなの耐えられない。花乃の隣には、ちゃんと…………同じように、生きられる人が居て欲しいの。あたしじゃ、だめなの、



 だから」







「だから、ごめん、さよなら、しよ」






 足元が崩れていく一言だった。たったその一言で、目から涙が溢れていく。


 苦しそうに、悔しそうに、不安そうに、辛そうに。そんな感情ばかりを込めて、さよならしようなんて、言わないで。




「不治の病だからって私諦めたくない。凪ちゃんは私の大切な親友だから……!


 凪ちゃんの目がもし見えなくなっちゃっても、私がそばにいる!


 目が見えなくても、視覚以外の五感でね景色感じられるよっ……匂い、音、触感でね、感じるの!!」



 

 説得するのに必死だった。溢れた涙なんて気にならないくらい必死だった。声は震え、指先は酷く冷たく感じた。


 親友なのに、突き放さないで。ひとりになろうとなんか、しないでほしい。


 ……だけど、もし……




「………もし、凪ちゃんがどうしても、さよなら、したいならね、私のこと嫌いだって、顔も見たくないって、完全に突き放してほしい……。そうしたら、私、上手にさよなら、するからね……」




 怖かった。こうは言っても、もし本当にさよならされたらどうしようって。私自身、さよならされて歩いていける気がしなかった。怖くて、怖くて、凪ちゃんの顔は見られなかった。



 凪ちゃんの手が震えている。……分からない、震えているのは私のほうなのかもしれない。黙りこんでしまった凪ちゃんがとにかく怖くて、次に発する言葉が「わかった」だったらどうしようって。




 長い、重い、空気がのしかかる。しばらく経って、凪ちゃんがか細く息を吸った。





「…………花乃のこと、あたしが守ってあげなきゃって……。あたし、勝手にそんなふうに思ってたの。


 花乃はあたしがいないとダメだって思うフリしてそばにいて。……いつから、だったんだろうね。あたし本当は、花乃がいないとダメみたい……。


 そんな状態でさ、さよならとか……本気でしたいわけ、ないじゃん」




 その言葉に顔をあげると、涙に濡れた瞳を細め、笑う凪ちゃんと視線が交わった。




「あたしのかけがえのない親友で


 あたしが初めて恋した人は、花乃なんだよ?」




 今までに感じたことのない安堵。やっと、笑ってくれた。本気じゃなくて、本当に、本当に良かった。また瞳から涙が溢れ出し、高ぶる感情のままに、凪ちゃんを思い切り抱き締める。



「ごめんね、私、まだ恋したことないからね、よくわからなくてお返事出来ないのっ………。


 でも、でもね、凪ちゃんとこれからも一緒にいたい気持ちは変わらない! だから一緒いてっ! もうさよならしよ、なんて言わないでっっ……。


 凪ちゃんがね、私が守ってくれた分お返しするまで……ううん、お返しが終わってからもずっと……!!」




 ありがとう、花乃。と耳元から優しい声が聴こえる。あぁ、いつもの凪ちゃんの声だ。優しくて明るくて面白くて、一緒にいて楽しい凪ちゃんの声。




「あたし、花乃がいてくれて本当に良かった。あたしの……親友が、花乃で良かった。


 そう言ってくれて、すごく嬉しい。本当に、ありがとう。


 この先もずっとずっと……宜しくね」




 力強く抱き締め返される。全身で感じられる凪ちゃんの体温が、ここに居るんだと主張して、涙は止まる様子がない。



 居なくならなくて良かった。さよならしなくて良かった。これからも一緒に居られるんだよね。また笑っておしゃべりして、夜更かししたり、心霊スポット行ったり、他にもたくさん思い出作れるんだよね。



 私は離れないから

 もう居なくなろうとしないで。



 恋してくれて、ありがとう、凪ちゃん。









***





 凪の右目に白いツツジが咲いてから、はやくも半年が過ぎた。大学を辞めた凪のために、花乃は今日も家に向かう。


 インターホンを押した直後、ドアが開く。右手に白い杖を持った凪の視界は、ツツジの開花後、数週間で白い闇の中に覆われてしまった。



「花乃? おかえり、お疲れ様」


「うん、花乃だよ、ありがとう! あのね、今日はね……」



 杖の代わりに花乃の腕を探り探り掴むと、話してくれる出来事に耳を傾ける。


 一緒に笑って、一緒に悩んで、一緒に怒って。凪の目が見えないことなど、お互い気にしない。以前とは何も変わらない日々を、2人は過ごしていく。




――――


 白いツツジが咲く奇病。この治療法は、未だに見つかってはいない。


 慣れ始めた純白の世界の中で


『もしかしたら一生このままなのかもしれない。けれど、変わらず一緒にいられるなら、このままでも……』


と時折考える凪は、その度に首を振る。




「諦めたくない」

花乃があの時、そう言ってくれたから。



 だからいつかきっと、死んでしまう寸前になったとしてもきっと。必ずこの病を治して、花乃とまた目を合わせて笑うんだと、人知れず凪は誓っていた。




 だけど、今はただ

 声を聞いて、温もりを感じて

 そこに居てくれることに






『ありがとう、花乃』







***純白の奥に君を見る






ツツジ(白)

『初恋』

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