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31の花言葉  作者: 夏川 流美
10/32

10.ネモフィラ

 滝のような涙で床に水溜まりを作って。かっこいい顔面はぐしゅぐしゅなブサイクにしちゃって。



 あっ、そのワイシャツ、アイロンかけてないでしょ。全くもう、私がいないとそんなことすらやらないんだから。



 しかも朝ご飯、食べるのやめたでしょ。それから、昼と夜はコンビニで済ませてるでしょ。ダメだよ、ちゃんと自炊しないと。





 ……なんて、こんなこと伝えたくても、伝えられない。ちゃんと健康で幸せな生活をしてほしいのに、貴方はこうして毎日、遺影の前で泣き崩れている。



 情けない。

 あーまったく、情けないよ!



 たかが私がいなくなっただけじゃない。

 私と結婚する前の日々に戻るだけじゃない。

 貴方の職場なら、女性なんて何人もいるでしょう。

 だったら早く、慰めてくれる女性をそばに置いたら楽になれるのに。



 だけど、まぁ、

 こうして私を想って泣いてくれる貴方だから、私は貴方と結婚したんだよね。

 そんな貴方が大好きだったから。




「許してくれ」



 繰り返し呟いているその言葉。理由は明確。貴方が運転する車に乗って、私達は事故に遭ったから。とはいえ悪いのは、信号無視した相手。



 それでも、知らないわけがない。貴方がどれほどの罪悪感を抱えて今を生きているのか。だからとっくに許しているし……というかそもそも、貴方に怒ってなんかいないし。


 貴方は悪くない。それに、死んじゃったけど悔いはないの。死んじゃう直前まで、貴方と一緒に居られて楽しかったから。結婚してから毎日が幸せだったから。



 いつ死んでも良いって、思えた毎日だったよ。

 こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないね。でも、本当の気持ちだよ。





 あーあ、こんなにもたくさん言いたいことがあるのに。私は何も喋れなくて、触れられなくて。悲しんで謝って、辛そうな苦しそうな貴方を見つめているだけで。


 ごめんね。




 ……どうか、貴方に気付いてほしいの。玄関先に咲いた、少しのネモフィラの花達に。こんな私たちを不憫に思った、きっと神様からの贈り物。


 私の気持ちの全て。貴方に伝えられる唯一の言葉の代わり。花が咲いていたのは偶然だけど、奇跡だけど、これで貴方がもう、自分を責めないようになってくれたら嬉しいと思ってるよ。





 ね?

 お願い、泣かないで。






ネモフィラ

『あなたを許す』

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