休めないのは生きてる証
あゆみは何でも前もってきちんと準備をしないと、
気が済まない性格だった。
1日たりとも無駄にしたくないと思い、
正月から受験勉強に励んでいた。
みんながボーっとしている時間にも、
少しでも勉強して自分の知識を増やしておかなければ。
そんなあゆみの様子を見て、のんびり屋の母が言った。
焦らないで、たまにはのんびりしたら?
だから母さんはダメなのよ。
でも・・・受験は3年も先なのよ。
お正月くらいは休んでもいいんじゃないの。
今年からはコンビニだって、
実験的に休みじゃないの。
世の中はね、休まずに働く時代から、
休日はしっかりと休む流れになっているのよ。
だから大丈夫よ。ゆっくり休みなさい。
そういって母さんは、
ソファーでのんびり寝転んで、
テレビを見て笑い、また眠り、
お腹が空いたらお菓子をつまんで・・・。
これを朝から繰り返してる。
こうやってぐうたらしている人を見ると、
余計にしっかりしなくてはと思い、
私は朝からずっと机に向かっている。
1階のテレビから笑い声が聞こえてくる。
少し遅れて母さんの笑い声も聞こえた。
私は目を閉じると机の上のテキストに目をやった。
「さあ、集中、集中。」
しばらくすると、1階が静かになった。
母さん、また居眠りしているな。
私は1つずつ、テキストの問題の空白を埋めていった。
「あれ?あれ?」
1階から母さんの声がする。
「あゆみ、ここに置いてあった母さんの財布知らない?」
「え、知らないよ。」
私も下に降りて言って探すが見当たらない。
ふと、玄関を見るとドアが開いていた。
「母さん、ドア開いてるよ、もしかして・・・。」
母さんの顔色が変わった。
「今、うとうとしていて、ガタっと音がして間が覚めたのよ。
今の音は、もしかしたら・・・。」
私は急いで、玄関から外へ出てみた。
ちょうど突き当りを曲がる人影が見えた。
私はその影を追いかけた。
「どろぼう!」
ちょうどおまわりさんが通りかかった。
「あの先にいる人が、母が寝ている間に家に入って、
財布を取ったみたいなんです。」
交番のおまわりさんがすぐに無線で連絡を取り始めた。
しばらくすると、少し離れたところで、
財布を持った男性が見つかったとの連絡が入った。
無事、何も取られずに財布は戻ってきたが、
とんだ新年最初の日になった。
ほらね、母さん、
生きている限り完全な休みなんてないのよ。
母はうなだれている。
私も思わずため息が出たが、
気を取り直し、再び机に向かった。
カリカリとシャープペンシルで文字を書く音が、
私の耳に強調されるように聞こえてきて、
また、集中力が高まる。