第4話 殺せない vsハヤブサ
「こちらFG242、松本管制塔どうぞ」
宇宙まで抜けるように高い秋の青空の下、コミュータージェットが取り囲む山々を眼下に掠め盆地に進入する。
「こちら松本、FG242レーダーで機影を確認した。着陸を許可する」
「了解、これより高度を下げ着陸態勢に入る」
日本アルプスの只中に造られた松本アルプス空港は、我が国では珍しい内陸立地でかつ最も標高の高い場所(657m)にある空港だ。四囲が山地のためレーダー誘導が適わず、完全有視界航行でのランディングとなる、これまた日本一難易度の高い空港でもある。
「高度1500、滑走路を確認。車輪を下ろせ」
「了解。うん?機長あれは!」
「鳥?こっちに向かってくるぞ!ランディング中止、機首起こせ!」
旅客機は褐色の飛翔物と機体下部で何とかすれ違った。
「松本管制塔、未確認飛行物体に着陸ルートを阻まれた。旋回して再チャレンジする」
危険回避の息つく間もなく、機長は通信回線を機内電話に変える。
「チーフパーサー客席の様子は?」
「特に動揺等ありません」
「了解。機内アナウンスは省略して、再度着陸態勢に入る。コーパイ(副操縦士)さっきの物体は?」
「視界に認められません。飛び去ったようです。機長、何ですか今の?鳥だとすれば大きすぎる」
「ドローンも含め人為的飛行物なら、許可なくランディングルートには進入できないはずだ。それに今の物体はレーダーに反応していなかった。だとしたら何だ‥‥」
「これで3度目だ」
北川SDTU隊長が腕組みして話すのは、特殊災害対策庁内の会議室。邀撃班(SDTU)と異変調査、災害処理班(雑班)が、松本空港周辺で頻発する未確認飛翔物体と航空機のニアミス事故を巡って、合同ミーティング中だ。
「ミスターキタガワ、飛翔物の特定が概ねできたわ」
没個性な制服姿の周囲を蹴散らすようなパステルピンク地に襟や袖の折り返しやポケットにホワイトのストライプの入ったタイトスーツ姿のジェニファーが、さっと立ち上がって前面のスクリーンへと向かう。
「ニアミスした飛行機のレコーダー画像がこれ」
「鳥じゃねえか」
SDTUの上原がつぶやく。
「そう、当該機のクルーもそう言ってたわ。これじゃ大きさが解らないわよね。地上最大と言われるワタリアホウドリの同縮尺飛翔画像を重ねてみるわね」
「何だこれ!こいつアホウドリの3倍はあるぜ」
会議室にどよめきが上がる。
「そう飛翔物は鳥、たぶんタカやハヤブサなどの猛禽類に見えるけど、その翼長はアホウドリの3倍。10m近くあるわ」
「コントレラス博士、どういうことかね」
ジェニファーをこう呼ぶのは堅物の北川隊長だけだ。
「猛禽類ここでは仮にハヤブサとしておくわ。それが自然の突然変異か人為的かは不明だけど巨大化したってこと。大倉山のモグラと同じね」
席に戻るジェニファーのピンヒールが響かせるコツコツという音を遮って、
「隊長、現地に出動してヤツを即刻駆除します!」
血気盛んなSDTUの木下が席を立って主張する。
「待ってください。巨大ハヤブサは航空路を横切っただけで、攻撃を加えてきたわけではありません。野生生物をむやみに駆除する判断は尚早と考えます」
モグラが燃え盛る姿を目の当たりにした仁子が強い言葉で反論する。聞きなれない声に出席者一同左右を見回し、発言者がふだん会議では俯いているばかりの名取であることを特定して、目を見開いたり、”おっ”と口すぼめたり、のけぞったりと各々驚きの反応を示す。
「横切ったのが問題なんだ。次は衝突しないと名取は保証できるのか?それにあれが野生生物って特定できるのかよ」
座の反応を確認するように一拍置いて、上原が彼にしてはこれまた珍しく抑えたトーンで指摘する。
「そうね。SDTUの皆さんがモグラを検証不能なほど焼却しちゃったから」
「何だと!」
バン!ジェニファーの発言を木下が机を叩いて遮った。彼女は両手を上に向けて少し広げる欧米人得意のポーズをとる。
「オ~ボーイ、カームダウン。だから今回はハヤブサを捕獲して、巨大化のメカニズムを解明したいのよ」
「私も賛成です。モグラの表皮や筋肉は金属的に硬くて、単なる野生動物の突然変異とは思えません」
ジェニファーの主張を仁子が援護するが、
「ちょっと待って、なぜ名取さんがモグラのことにそんなに詳しいの?」
今まで腕組みして瞑想するように目を閉じていた丘がやにわに突っ込んだ。
「直接ぶつかった感覚です!‥‥‥あっ、いや車で事故に遭った時のその~」
仁子はたちまち頬を赤くしていつも通り俯いてしまった。
「装甲車での戦闘時に軽火器で発砲を試みましたが、金属的反響音とともに弾丸がはじかれていました。調査が必要と考えます」
「丘さんまで何言ってんですか!」
「やめとけ木下。ただ、捕獲捕獲って簡単に仰いますが、捕獲は駆除以上にクルーに危険が伴うことを忘れてませんかね」
木下のコンバットスーツの背中を引っ張って席に着かせながら、上原が応じた。
「こうしてはどうでしょうか?」
雑班の加藤班長がいつも通りニコやかに揉み手をしながら、慇懃無礼な態度で議論をまとめにかかる。
「ハヤブサの棲み処があると思われる山系は、その飛翔経路から割り出されています。SDTUの精鋭の皆さんに出動頂き、先ずは巣を特定して飛び立つ前にその捕獲を試みる。但し、危険がある場合は現場判断で駆除に切り替える。いかがでしょう?」
「よし、それで行こう!SDTUは上原が4名を選抜して、ヘリで現地へ出動だ。これにて散会」
北川隊長が示し合わせたように幕を引いたのだった。
「何よ!あの日本的あいまいな決定は。結局現場丸投げじゃない!」
颯爽と出動するオレンジユニフォームのSDTU隊員たちとは目を合わせず、出動待機を命じられた仁子とジェニファーは統合指令室へと向かう。
「捕獲と言葉にするのは簡単だけど、網だって。もうちょっとましな作戦授けられたらなあ」
隣を歩くジェニファーがふっと息を吐く。
<もし変身してハヤブサと闘うとして、私は空が飛べない。瞬間移動も一定の時間とエネルギーが必要なので乱戦中は使えない。圧倒的不利。となると地上からアームレット武器で狙い撃って墜落させて‥‥勝てたとしてもまた殺しちゃう!それじゃダメだ、どうしたら‥‥>
燃えるモグラの断末魔の叫びが仁子の脳裡にまた蘇える。
「ねえ仁子。中東ではハヤブサを使った鷹狩がとても盛んで、王族たちもお抱え鷹匠にその調教技術を競わせてるんだって。鷹匠たちは馴致の際、猛禽類は視界を遮られると大人しくなるという習性を利用して、専用の頭巾を被せてハヤブサを落ち着かせるっていうの。応用できないかなあ。でも誰がどうやって?無理よね‥‥」
左手で短くなった黒髪をかきむしる仁子に、今のジェニファーの言葉は届いているのだろうか。ガラス張りの渡り廊下へ出た二人を日足の長い秋の太陽が照らす。
「ハヤブサの飛翔経路解析によると奴のねぐらはこの辺りだ。赤外線レーダーオン。ホバリングして探索開始」
攻撃ヘリの操縦席から上原の指示が飛ぶ。生物体は通常レーダーには反応しないが、赤外線による体温感知で巨大ハヤブサなら捕捉可能なはずだ。
「感あり!3時の方向3百」
「奴が巣を飛び立つ前に捕まえる。捕獲ネット展張投下用意!」
「目標直上到達まであと10秒」
ここで近付くヘリを敵と看做したハヤブサが大きく翼を広げ威嚇する。
《キエ~!》ヘリのローター音をもかき消す甲高い鳴き声に、機銃座で警戒に当たっていた新人大山が恐怖のあまり引き金を引いてしまった。ダダダダ~ン!
「バカヤロー!」
上原の叫びも空しく、大きな翼で弾丸をはじいてハヤブサは巣を飛び立ってしまった。
「やむを得ん。駆除に切換えだ。奴を追うぞ!」
捕獲ネットを収納する間もなく、ヘリは飛び去るハヤブサの追跡にかかるが、垂れ下がったネットの端が杉の高木の枝に引っ掛かり、機体が傾いでローターが幹に触れて損傷。
「しまった!2時方向の伐採跡地に不時着する。総員衝撃に備えろ!」
ド~ンンン!
指令室のモニター映像と通信がここで途切れた。
「丘君、3名連れて上原機の救援に向かってくれ」
モニターから振り返った北川隊長の視界に丘はいない。彼女は既に救援ヘリのコックピットでヘルメットを着けるところだった。
「1分後に発進する、間に合う人だけついてきなさい」
丘を追いかけるSDTUクルーが駆け出して行き、緊急事態発生に怒号飛び交う指令室をこっそり抜け出し、仁子は廊下に出た。
<丘さんの現着までどんなに急いでも30分。私がみんなを助けなきゃ。でも白昼あそこに変身体の私が飛び込んだら、現地のみんなに丸見えだわ。どうしたら‥‥>
コンコンチキチンコンチキチン、廊下に響く祇園囃子。ポケットから取り出したスマホに大破して白煙を上げるヘリの機体が映し出される。
<私、さっきから”どうしたら”ばっかり。あれもこれも行けば何とかなる。頭を使うのは遠く離れた庁舎の中じゃない。現場で何とかしてみせる。上原さん待っててください!>
仁子は壁の向うの喧騒と裏腹に静謐な廊下の左右を一瞥し、スマホの通話ボタンを押した。
「みんな大丈夫か?」
不時着の衝撃にヘルメットを抱えつつ上原は4名の部下の無事を確認したが、ガシャーン!息つく間もなくヘリのフロントグラスの上部が砕け散った。巨大ハヤブサの鋭い爪による仕業のようだ。
「ここは危険だ。樹林内に脱出する」
「木立ちの入り口まで50mはあります。奴が飛び回る中、あそこまでどうやって」
隣に座る木下がふだんの強気はどこに行ったのか不安気な声を発する。
「おれがこっちのドアを開けて発砲し、奴の注意を引き付ける。その間にお前らは反対のドアから林まで突っ走れ!」
「上原さん一人じゃ危険です。おれも残ります!」
「ありがとよ木下。だがなあこのスライドドアの幅は一人分だけだ。お前は若い奴らの足がすくまねえように、ケツを蹴り上げてやってくれ」
木下はそれには返事をせず、コックピットからクルーを振り返る。
「武器はおれが担いでいく、お前らは装備は全部置いてとにかく走れ!」
《キエ~!》窓が割れ外気と通じた機内にハヤブサの叫びが響き渡る。
「おれの発砲音が合図だ。幸運を祈る」
ガラガラ、上原がスライドドアを開いて、上空のハヤブサにマシンガンを連射。すかさず反対側のスライドドアから4人のクルーが飛び出した。それには気付かずハヤブサは発砲する上原に一直線で急降下。彼は一瞬振り返り、4人と林の間合いを確認。
「あと3秒!2、1」
ドアを閉めて防御に入ろうとするが、一瞬早くハヤブサの強く、鋭い爪がドアと機体の隙間にめり込んだ。ドアが外側に吹き飛び上原は機内に叩きつけられ、うつ伏せでピクリともせず、肩の辺りが血で染まっている。
「上原さん!どうしたんですか?返事してください。上原さん!」
木下の絶叫を尻目に、悠々と上空を旋回してヘリコプターに向かって再度急降下を開始したハヤブサの鼻先を金色に輝く物体が掠めた。それは暫くすると方向を変え、ゆっくりと尾根の向う側へハヤブサを誘う。《キエ~!》行く手を阻まれ興奮したハヤブサは、回転しつつ遠ざかる黄金のブーメランを追い求めて方向転換した。ハヤブサの向かう尾根の天辺には、左腕を高く掲げたシルバーのボディにグリーンのストライプ、紅い短髪にゴールドのティアラ、オレンジの大きな瞳が朧にゆらめくヒロインが待っていた。戻ってきたブーメランが彼女の左腕に蝶のアームレットとなって巻き付く。
<この太い枝ぶりの樹海、平均台と段違い平行棒の無数の組み合わせみたい。私にとって最高の演技の舞台。さあおいでハヤブサ!>
両手を華麗に上げた仁子は平均台上を飛ぶように隣の木の枝に前後開脚で飛び移る。少しよろめくが両手を左右に伸ばしてバランスを取った。枝から枝、木から木へと次々跳躍してハヤブサを尾根の向う側へと連れていく。
「奴が見えなくなった。今のうちに上原さんを救け出すぞ。大山、手を貸せ!」
「はい!」
既に林を飛び出した木下を、責任を痛感する大山が涙目で必死に追いかけていった。
シルバーに輝くヒロインとハヤブサ、樹上の決闘のゴングが鳴った。地上20mに達する杉の高木の大枝で待ち構える仁子に、ハヤブサがヘリのフロントグラスをも砕いた鋭い爪から飛び込む。長い脚が美しい弧を描く平均台技のお手本のような後方転回でヒロインがこれを交わすと、空中で方向転換したハヤブサが翼をバタつかせホバリング体勢でジワジワと彼女を樹幹方向へ追い込んだ。羽ばたきを重ねる大きな翼に別の枝への飛び移りを阻まれ、太い幹を背にして後のない仁子。
<上原さん、私に力をください>
ここぞと突っ込むハヤブサに、間合いをはかった上原直伝の後ろ回し蹴り一閃。バチン!《キ~!》首元を蹴られたハヤブサは悲鳴を上げながら上空に退却し、ヒロインは振り抜いた脚から隣下方の枝へと両手を左右に広げヒラリと片足着地した。そこへ態勢を立て直したハヤブサが今度は嘴から突撃に入った。サッと身体を縮めて一撃を避けた仁子はハヤブサの懐に入りアッパーカットを見舞う。しかし鳥の小さな頭には命中せずパンチは空を切った。かがんだために深紅の髪に覆われた脳天をハヤブサの視界に晒すこととなり、そこへ真下に振り下ろされた猛禽の鋭い嘴が食い込んだ。
「アウ~ッ!」
これまで戦闘中は無言を貫いていたヒロインの口から苦悶の声が零れ落ちた。更に羽ばたく翼に横殴りされて枝からはじき飛ばされ、かろうじて足元の別の枝に移ったものの、彼女の体重を支えきれず枝はポキりと折れて身体ごと垂直落下。仁子危うし。
加速度がついて落ちていく眼前に枝を見つけ必死に腕を伸ばす仁子。ガシン!なんとか右腕を枝に巻き付けて落下を止めるが、身体の重みに引っ張られ枝に掛かった腕が緩んでずり下がっていく。腕が枝から外れる寸前、右掌でガッチリ枝を掴むと、伸びきって全体重のかかる右腕を渾身の力でグイッと屈曲させた。
<やっぱりM90パワーは凄い。私、選手時代でも片手懸垂なんて出来なかったもん。自分だけで闘ってるんじゃないんだな。いつも誰かに助けてもらってる。私も助けたい>
懸垂で身体を引き上げ左腕を振って両腕で枝に取り付いた仁子は、その枝を段違い平行棒の低棒として身体を振って蹴上がりし、身体を折って両足も枝に付けるフット車輪から反動を付けて舞い上がる体操技マロニーで、高棒に見立てた枝に飛び移った。競技会ではD難度の技を正確に数回繰り返して杉の木の天辺に戻ると、ヒロインは樹上で上空のハヤブサに向けてファイティングポーズを取ったのだった。
上空を舞うハヤブサを見上げ思案気な仁子。
“鷹匠たちは馴致の際、猛禽類は視界を遮られると大人しくなるという習性を利用して、専用の頭巾を被せてハヤブサを落ち着かせるっていうの”
<ありがとうジェニファー。やってみる>
胸元のストライプがイエローに変わるのを確認し一つ頷くと、大枝の上で垂直ジャンプを始めた。ハヤブサが再びアタックしてくる。大枝のしなりはトランポリンのようにジャンプする仁子を空高く跳ね上げる。
<今だわ!>
ジャンプの途中で仁子が左腕のアームレットに触れ、それが何かに変化したようだが動きが速く確認できない。《キエ~!》威嚇の叫びを上げて、中空のヒロインに突入するハヤブサ。しかし仁子はひときわ高く跳んだ最高到達点で、跳び上がった長い脚をすっと伸ばした宙返りで相手と体を入れ替え、両手で拡げた金色の”何か”とともに、上から覆いかぶさるようにハヤブサの背に抱きついた。最初は背中に乗った仁子を振り払おうとジタバタしたハヤブサだったが、やがて羽ばたきのスピードを緩めヒロインを背に地上に向かってゆっくり降下し始めたではないか。鳥の頭部付近が秋の陽光を反射してキラキラ輝く。それはハヤブサの首を優しく抱く仁子のティアラと、逆さにした雑貨屋の紙袋のように彼の頭部を覆うバタフライマーク付きの金色の頭巾だった。
演技終了、ヒロインはすっかりおとなしくなったハヤブサにまたがり満点のガッツポーズ。しかしこれでは終われない。
<この子のこの身体の温かみは地球の生き物のそれ。この大きさのまま放したらまたSDTUに発見され
て‥‥>
炎上するモグラがまたもフラッシュバックする。
<ダメダメ、この子は助けなきゃ。でもどうしたら‥‥>
仁子のボディストライプがレッドに変化し、エネルギー限界を知らせる。
“先ずは念じてみるのじゃよ。仁子”
<”どうしたら”じゃない。心のままやってみるのよ。さあ元に戻って!>
M90星人の言葉通りそう念じて、仁子は金色の頭巾ごとハヤブサの頭を両手で強く包み込んだ。たちまち両者の身体全体が光に包まれ、それが消えた時仁子一人が杉の大木の根元にふわりと着地した。ヒロインがアームレット輝く左腕をゆっくり掲げると、《キュ~ン》翼長1mのハヤブサが彼女の前腕にちょこんと舞い降りたのだった。
「こちら丘、事故機を発見。ウォーキートーキーで先発隊と交信し、上原隊員が肩に裂傷を負い骨折の疑いもあるものの、応急処置で止血し生命の危険はなく、残りのメンバーは無事とのこと」
「ハヤブサは?」
北川隊長の緊張でかすれ気味の声が指令室内に響く。
「視認できません。赤外線レーダーにも相応の大きさの生命体の反応なし」
部屋の出入り口が細く開いて、仁子がこっそりと壁際をはうように入室してきた。
<上原さんが助かってよかった>
「丘機はハヤブサの再襲来に警戒しつつ降下し、先発隊を収容後、追って通知する救急医療機関へ向かってくれ」
「了解しました」
この瞬間指令室にホッとした空気が流れた。
「あ~、仁子どこ行ってたのよ!」
「ごめんジェニファー。急にお腹の調子が悪くなってトイレに行って、立ち上がろうとしたら給水パイプに頭ぶつけちゃってしばらく蹲ってたの。ほらタンコブ出来ちゃった」
中腰にかがんだ仁子の頭頂部を心配そうに覗き込むジェニファー。
「ハウプアマサコ、トーラーデメリット。あそこ危ないよね。今時頭上タンク式トイレなんてショウワワールドだわ」
手を伸ばして仁子の頬を優しくさする。
「ハヤブサは?」
「それが消えちゃったのよ。飛び去ったというより消滅した感じなの」
顎の先に人差し指をあてて、視線を上にそらして思案気なジェニファー。
「そうなんだ~、もう現れないといいよね!」
ジェニファーの説明に首を少し傾け、組んだ両掌を胸に近付けて満面の笑みを返す仁子だった。