表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キルライフ  作者: 沼郎
第2章 嘘を吐いた自己正義達
96/168

第二章 87 嘘を吐いた自己正義達 8


 ひだまりに溶けた過去の夢を見ていた。


 あるいは遠い未来に過去を重ねていたのかもしれない。


 未来に幸せが訪れるというのなら、僕は今の僕を犠牲にして次の僕に託すことだってできる。ルザ先生は「平和は何時か訪れるだろう」と言った。「けれど今じゃない」とも。


 ルザ先生が見据える視線の先はきっと何千年も先の未来なのだろう。


 僕も想う。そんな未来を、かつて其処に存在した幸せを。

 平和を渇望してはいたが、僕が呼吸を止める日までに平和が訪れないことを知っていた。

 未来の為に骨身を削ってはいたが、僕が動いた所で未来が変わらないことぐらい理解していた。

 ただ茫然と立つことに焦燥感を抱き続けてはいたが、僕が干渉せずとも極悪も最善もこの歴史の中に埋もれていく事ぐらい分かっていた。


 知っている。そんなことぐらい分かってるんだ。


 望めば叶うとは思わない。寧ろ叶わない事の方がほとんどだ。それでも僕は、みんなで笑い合った声が果てしない荒野に轟く未来に一秒でも近づく。その為にはこの想いを封じ続けることなんてできやしなかった。


 ささやかだが、それは壮大で、僕の人生の結論だ。望みはそれだけだ。それだけなんだ。

************************************


 耳鳴りがする。じわじわと脳全体に広がり、やがて世界ごと掻き回している感覚に陥る。これほどこの王都で過ごしてきたというのに夜空をじっくりと見る事はなかった。だからその分より何倍にも美しく映ったのだろう。少し大きくてグルグル捩じれた満たない月が輝いている。それに負けじと星々も空を明るく染めている。


「…」


 見惚れてしまっていた。ただ歪んだ夜空が耳鳴りと共に正常へ戻るにつれて全身が大きく負傷している事に気が付いた。アースの左足は瓦礫によって押し潰されていた。力を入れて押し退けようとしてみるが、驚くことにアースの身体にはそんな力すら残っていなかった。


「…ジョニー」


 徐々に呼吸は荒くなっていく。より思考が現実へと近づいていったのだ。アースは最早残りの血液量の事を考えず、左足首を手ごろな瓦礫で何度もたたきつけ、切断する。そして歪な断面を地面に乗せて辺りを見渡した。


 …会場は完全に崩れてしまっている。まだ炎は消えることなく絶えず木材を焼き尽くしている。唖然として立ち尽くす。アースは焦る気持ちを抑えながら瓦礫の山を歩いて手がかりを探す。暫く周辺を歩いているとふと唸り声が聞こえた。その声に導かれるままその箇所の瓦礫を我武者羅に掻き分ける。


 唸り声の正体はジョニーだった。だが、ひと際大きな瓦礫が腹部を押し潰していた。腹部から流れだす大量の血液は坂を下って窪みに溜まっている。そして汗をかきながらまだ意識のないまま魘されている。アースはすぐにその瓦礫を退けようと両手で持ち上げようとするが全く微動だにしない。それどころか変に力が入るせいでアースの手が滑ってそのまま指の皮を瓦礫で剥いてしまう。両手は血に塗れ、痙攣している。


 いつ目を覚ましたのかはわからないがジョニーはそんなアースの手を掴んで自身の顔に近づける。


「…ぐぅ…ぅ……アース……」


「ま、待ってろジョニー!すぐに助けるぞ!!再生薬を持ってくるからな!!」


 血相を変えて屋敷へ向かおうとするアースの腕をジョニーは放さなかった。


「間に合わねェよ……それによォ…頼みが…あるんだ…アース……」


 アースはその言葉に焦りを加速させ、思考をフル回転させる。アースが立てる未来の予定にどれ一つもジョニーが死ぬ未来はなかった。それは今後も変わらない。ジョニーは救う、それは絶対変わる事はない。


「ジョニーいいか!よく聞け!!俺は時を戻せるんだ!過去4度俺は凄惨な未来を変えてきた!今度は上手くいく、だから…」


「馬鹿な事を言うんじゃねェよ…初対面の…相手によォ…」


 段々声量も小さくなっていくジョニーにアースは涙を流して叫ぶ。


「意地悪言うなよジョニィ……!お前にとってはそうでも…俺にとってはこの世界で初めてできた友達なんだ…!俺の前からいなくならないでくれよぉ…!!」


「……オールディにエネルギーで切られたときに…流れ込んできたんだ…アイツの想いが…無数な位あったんだぜ…でもよォ…そんなかに何一つ貶めるような感情なんかありゃしねェんだ……アイツどこにも憎悪なんてありゃしねェんだよ……どれもこれも…純粋な想いだったんだ……全部。」


「…何を言ってるんだよジョニー…!」


「……はぁ……テメェーも…鈍感だなァ…………。」


 ジョニーはそう言うと手に握っていたオイルが僅かしかないライターをアースの胸に押し付ける。きっと目ではもう俺を認識できなくて微かに聞こえる声の在る方向に突き出したのだろう。虚ろな目をしながらジョニーはその方向を見つめ、にかッと笑った。そしてそれ以上喋ることもなく、呼吸音が聞こえることもなかった。


 言葉が出なかった。アースは膝から崩れ落ちて項垂れる。思考は停止して世界は静止した。炎だけが揺らめき、鈍色に染まり切った世界に色付ける。そんな静まり返った世界だからこそ聞こえた音がもう一つあった。瓦礫が崩れ、血液だまりの窪みの横、何者かが地面から這い出て来る姿と共に。


「…取り零したようだな」


 ジョニーの虚ろな目を瞼で隠し、アースはゆっくりと立ち上がる。もう左足首は完全に治り、それどころか握り締める拳に力が入りすぎて表面の血管が破れてしまっている。だがそんなことになど構いもせずに炎の上や鋭い瓦礫の上を歩いてオールディの元へと向かう。


「僕も同じに思っているよ。」


「もう…喋らないでくれ。これ以上俺にこんな想いを抱かせないでくれ。」


 近づいてくるアースに対してオールディは何か抵抗するわけでもなく、ただ両腕を上げて降服の姿勢を取る。


「なんのつもりだオールディ。そいつは虫がいいんじゃないか」


「僕だってこんな結末なんて望んじゃいないんだ。だからアース、取引をしないか?」


 そのオールディの口から放たれた言葉にアースは一瞬理解するのを拒んだ。そして再度その言葉が脳に到達したとき、アースの核の底から怒りが込み上げる。冗談じゃない、ふざけるな。アースはゆっくりと銃を取り出して6発分弾を込める。そしてオールディの額に照準を合わせた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ