第二章 86 嘘を吐いた自己正義達 7
互いにゆっくりと歩き出して、部屋の中央に到達する前に先にアースが拳を下から突き上げる。それを華麗に避けて体を宙に浮かせて蹴りを入れるがアースは微動だにしない。それ何処か逆に足を掴まれて再び激戦繰り広げた部屋まで投げ飛ばす。オールディの身体は扉周りの壁ごと巻き込んで体に傷を付けながら崖の元まで転がっていく。
「俺に力比べで勝てるわけがねえだろ」
「…力はいくら勝っていようとも…僕の生への執着の方が強い…!!」
崖っぷちに横たわり、ゆっくりと起き上がりながらそう叫ぶ。追撃する為にアースは同じくゆっくりと部屋の中央へと向かっていく。
「所詮主観でしかわからない事で論争するのは下らない」
立ち上がる寸前でアースはオールディの膝を蹴り、逆方向に曲がった膝を抱えながら地下へと落ちる。だが、寸での所でふちに掴まり、炎の中に再び身を投じずに済む。オールディはここからの打開策を数秒間考えるが答えを出す前にアースはその遥か予想を超えてくる。
鋭く長い木片を両手で持ち、自ら炎の中へと宙を舞い、全体重を乗せて浮くオールディの胸を一突きし、心臓を貫通する。木片は背中を突き抜けて、地面へと突き刺さる。この状況は非常に不味い、まさかあの状況からこんな状態まで追い込まれるとは思わなかった。やはりこの男は僕の予想を遥かに超えてくる。
「出来ねえよな。今、木片にエネルギーを纏わせたら俺の身体に致命傷を与える事ができるかもしれねぇがお前自身も焼き切るってことだぜッ!!」
「それが…アース。お前の予想か。ああ、その通り、お前の想定通りに動くはずだった。お前がそれを言うまではな。」
胸に突き刺さった木片にオールディは手を伸ばす。だがすぐにアースに両手首を掴まれて封じられる。だがオールディは笑みを浮かべた。
「言っただろ?お前がそれを言うまでは想定通りに動く筈だったって」
オールディは口を大きく開く。そこには舌一面に斑点模様が描かれて今迄溜めに溜めた木片や鉄屑をマシンガンの様に吐き出し、突き刺さった木片を撃ち砕き、折る。折れて倒れる木片をアースは取ろうとするが手首から動かすことが出来なかった。
オールディがいつの間にか発動していた体内私物によって血塗れの両手が取り込まれていたのだ。アースはそんな事に気を取られている間に折れた木片は体内へと取り込まれてしまう。
「何度も要った筈だぜ、僕は血に臆するほど覚悟は緩くない。」
そのまま手から木片を取り出してエネルギーを纏わせる。そして動けぬアースの首目掛けて手首を捻る。アースはそれに対して無理に離れようとせずにオールディの身体と密着して手首の可動域から逃れ、攻撃を避ける。
アースのその行動にすぐに反応して体内私物を解く。アースもその行動を予見していたのかすぐに離れるが、解除した瞬間に無造作に振ったエネルギーがアースの両手首を焼き切った。だが切られたものの距離を取る事は出来た。
「ぐぅぅぅ…!!」
アースは思わず声を上げる。だがそこに絶望の表情は一切なかった。一気に劣勢になった状態でもアースは慌てふためくことなく焼き切れた両手首の断面を掲げて笑ったのだった。
「あれほどのチャンスはもうないぜ」
アースは両手首の断面を齧り、わざと傷をつけて修復をさせる。だが以前と比べ全くと言っていいほど回復しない。このペースでいくと10分掛かっても元通りになっているか不安なくらいだ。そんな姿を見てオールディは笑い返す。
「その回復速度がお前の想いの強さだ。比較にもならない」
「それはとんだ勘違いだぜオールディ。これが、これこそが、『深淵化』の最大の弱点なんだよ。大体はお前の解釈通りだが回復は細胞一つ一つが生を渇望し、体を生かす為に死に物狂いで動いてるんだ。血液もその分高速で仕事をする。俺は既にティディとの戦いで相当血を失っている。すると仕事量は少なくなる。当然なんだこの状態は。お前はまだ大して血を失っていないだろ?だから当然なんだその回復速度は。嘘だと思うなら…身をもって体験してみるか?今、この場で」
アースは治りかけの親指と人差し指で突拍子もなく器用に銃を取り出してオールディの耳に穴を開ける。だが穴はすぐに塞がらず、ゆっくりと元へ戻っていく。アースよりスピードは速いものの最も速かった時に比べ途轍もなく遅くなっている。アースはその耳に指を指す。
「それが答えだ。お前も爆弾で全身を肉片に変えて血液を大量に失っているんだ。だから回復速度が一段と遅くなっている。」
「だからなんだと言うんだ。お前より僕の回復速度の方が速い。ダメージを受けて回復を待ったって有利なのは僕で不利なのはお前だ。何一つ変わりはしない。」
「これ以上長く殺り合う必要もない。もう十分だ。オールディ、お前は此処に落ちた時点で負けなんだよ。それにどうせお前は俺を殺せやしない。」
その言葉に何一つ表情を変えることなくエネルギーを煌めかせながら呟く、「どうかな」そんな二人を見下ろし一切姿を見せなかったジョニーが突如現れて二人に向かって叫ぶ。
「最高のひと時を過ごそうぜオールディ!!そしてアース、幸運を。」
その言葉と共に爆発音が轟き、同時に地震が起こる。三人とも立っていられない程バカでかい地震だ。天井がひずみ、脆いところから崩れていく。そして同時に連鎖する爆発音にオールディはアースの意図に気付く。
「ジョニィィ…!!僕が立ちはだかるほんの数分の間に二人で此処まで予想を立てていたというのか…!アースが時間を稼いでいる間に爆弾で会場ごと倒壊させるために…!!」
「作戦時間は一秒にも満たねぇよ。お前の弱点を暴く為に使って書いた『爆』も文字だけでやるべきことは分かった。これから数秒でペシャンコに潰れる未来にこの回復速度で果たして俺達は無事でいられるかな?」
「馬鹿な!僕だけじゃない!!お前も死ぬんだぞ!」
「俺が死ぬかどうかは俺だけが知る未来だぜ」
轟音と共に崩れていく天井とそれに潰されるまでの数秒間を二人は何もできぬまま睨みあう。本当ならボルボロス相手に使う秘策だった。この力を使う為にぎりぎりまで作戦時間を引き延ばしたんだ。日を跨ぐ鐘の音を聞くため————————————————二度目の『世界不干渉』のために。




