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キルライフ  作者: 沼郎
第2章 嘘を吐いた自己正義達
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第二章 85 嘘を吐いた自己正義達 6

 

 黒煙が天井を伝い、会場全体へと行き渡っていく。ジョニーは部屋の壁側を歩いて奥までたどり着く。そして壁に凭れかかり、床に座り込む。最早両手で覆い隠していても露わになるほど血は良く服に滲み、傷は目につく。


「…ジョニー…肩を貸そうか?」


「…そんな表情するんじゃあねェよ。いうほど深手でもねェからな。まず、一服くらい、させてくれ。」


 おもむろに皺くちゃの煙草を咥えてライターを取り出した。アースもジョニーの横に座り、大きくため息を吐いた。そんな様子を見てジョニーはなけなしの煙草が入った箱を差し出して揺らす。


「悪い、俺はいいよ」


「…ああ悪い悪い。俺だけ吸ってんのが気に食わねェのかと思ってよ。ってなら俺の横に居ない方がいいぜ、肺を悪くする。」


「気にするな、今はそんな気分なんだ。…それより、よく俺の意図に気付けたな。」


 感心するアースを横目でちらっと見て、二回ほど白煙を吐いた後にゆっくりと答える。


「オールディを投げ入れて秒で『爆』って書かれた紙屑投げられたらそりゃアそいつが弱点なんじゃねェかと思うだろ?それとお前が投げたってことも分かっていた。丁度、オールディも救出しに来る人間がいる事に言及していたしな。」


「すぐに入ってこなかったのは手榴弾を取りに行っていたからか。それでタイミング良く焦り、隙だらけのオールディに手榴弾を手中に体内私物を使わせたわけか。」


「切られるつもりはなかったけどな。まあ結果的に血にアルコールを混ぜて既にあったアルコールと触れ合わせ、度数を下げて燃えぬようにすることは出来たし結果オーライだな。」


「そうそう…手榴弾が爆発せずに私物化されるかもとは思わなかったのか?」


「意地悪な質問だな。時を遡ってるお前には分かるだろ?熱や稼働するエネルギーを体内に取り込む事が出来ても私物化するのには時間が掛かる。だから爆破寸前の手榴弾を入れてやったンだよ。」


「…そうか、やはり時間遡行もオールディに察されたわけか。……なぁジョニー。死ぬつもりなんだろ?」


 アースの質問にジョニーは暫く黙り込んだ。そんな沈黙に耐えられなかったアースは手を出して再び声を掛ける。


「俺にもくれよ、その煙草。」


 ジョニーは驚いた顔を見せ、少し躊躇する。


「喫煙者じゃねェんだろ?」


「俺は察した。なら、お前も察しろよ。そんな気分なんだ。」


「…そうか。」


 ジョニーは箱を差し出す。アースはボロボロな煙草を一本取って咥える。ジョニーは先端にライターの炎を近づける。


「吸えば点く。」


 アースは指示通り大きく吸い込むと煙草の先端に火は灯り、灰が零れる。そしてアースは思い切り咽て咳をする。ジョニーはそんなアースを見て「吸い過ぎだ」なんて笑い、笑顔を見せた。アースはそれがうれしくてたまらなかった。


 アースは一口だけ吸った煙草を握り締めて火を消した。二人は会場が燃え続ける以外の音がしないこの部屋でジョニーが煙草を吸い終えるまで一言も喋らなかった。アースは本当はジョニーを会場の外へ連れ出して助けたかった。けれどジョニーの想いを絶ってやれるほどとても今の関係性じゃあ口出しなんてできやしなかった。ただ最後に険しい顔から解放されて笑顔を見せたジョニーを見るとそんな想いも消え去った。


「俺たちは大嘘を吐かなきゃならない。」


 煙草を吸い終えたジョニーはアースにそう告げる。


「きっとそれしかない」と。


 アースは嫌な予感がして通って来た部屋の入口に目を向ける。そこには体中火傷を被い、瞳孔を開いたオールディが突っ立っていた。


「冗談じゃねえぞ……復活できない最悪の条件は全てそろっていたはずだろ…!?」


 体を蝕むがすぐには消せない『炎』


 それを持続させ、且つ酔いを引き起こす『アルコール』


 そしてそれらの私物化を防ぐための『血液』


 其処に追い打ちを掛ける様に遠くに散らばった肉片の数々。片腕はあったが、呼吸すら儘ならない状態で、どうやってあの場を抜け出してこの場に立っていられることが出来るというのだ。完封出来ていたはずだ。


「何度も、思い知らされる。」


 近づくわけでもなく、部屋に入ってきてそんな事を呟く。ジョニーは呼吸を荒くしながらしかめっ面のままでいる。アースは対策の方法を脳内で巡らせた。だが思考が追い付かず、完全にフリーズしている。


「この世に救いの女神は居ないのだと。だから、つくづくそういう土壇場で祈って神頼みしてるような人間を見ると嫌悪感が押し寄せる。過ぎ去っていったパラレルワールドはどうだ?僕はちゃんと敗北必至な状態で、お前に抗っていたか?」


「…」


「きっと、僕は癇癪を起す筈なんだ。どうしようもない状況に陥った時、もう手の施しようのない事態に直面した時、僕は床に寝転がり、羞恥心も持たずに全力で全身を使って拒絶するんだ。心の中で悪態をつきながらね。それが僕の本質だ。幾ら仮面を厚くしたって剥がれるものなのさ。」


 そう、オールディと二度目に戦った時、あいつはどうしようもない事態に陥って蹲っていた。罵倒を繰り返しながら。俺はそんなオールディを『勝ちたいけど勝てないから何もできない餓鬼』と評した。


「だからどうしたって?」


「つまり、今の僕とは違うという事だ。もし、これから時を戻し何度もやり直そうとするならば…現状の僕を超えた僕がお前の前に立ち塞がる」


 オールディはようやく腕を上げて戦闘態勢をとる。深淵化同士の戦いは間違いなく泥仕合となるだろう。ただ、ここで俺が引くわけにはいかない。恐らく確実に殺す方法はもう、細胞の生存条件である呼吸を絶つことしかない。


「来いよオールディ。深淵化の真髄を見せてやる」




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