第二章 83 嘘を吐いた自己正義達 4
一体お前はそんな表情を僕へ向ける。怪訝そうな顔をしたアースが唸るオールディを見下ろしている。僕が殺してきた不必要な亜人達と親しかったのだろうか。それにしては憎しみという感情というより正体不明という得体の知れなさを気持ち悪がっているかのようにも思える。
「驚き戸惑うとでも思ったか?オールディ」
嘲るように挑発する。普通に考えれば外からは明確な殺意を持ったジョニーが会場の中へと向かってくるし前方からも正体不明の男が僕を襲ってきている。普通なら絶体絶命と慌てふためくのだろうとでも思っているのだろう。
だが、少なくとも僕の存在を詳しく知らないからそういう表情をしているわけではない。その証拠にこの男の拳から血液が滴っている。これはパラレルワールドで僕と戦い、僕の能力の特性を良く知っているからだろう。
「なるほど、やはり感情は不羈に、時間を横断するのか。お前のその冷静さはその腕の『覇者の証』からくるものか?それともあの時の深淵化の発動から発生頻度が上がったから自惚れているのか?」
「…その通りだ。それと、僕の名前だけ知っているのは不公平だろう。お前も名乗ってくれよ」
「アースだ、よりよい未来の為に来た。」
「そいつはいいな」
不敵に笑い、膝に力を入れる。だが立ち上がろうとする前にアースは銃口を掌に向けて引き金を引く。弾丸は手を貫通し、オールディの膝に被弾しすっ転ぶ。ある程度想定はしていたものの、厄介な現実を目の前に額から汗は流れる。
「立つんじゃあねぇーッ!這い蹲ってろ!!」
ゆっくりとだが確実に男の掌に空いた傷口は塞がっていったのだ。
「生への想いは万能薬ではない、ただし脆弱なものではない、段階的にその状態を維持することが困難だってだけだ。お前は得て学んだ期間が短いからわからないだろうがな、知らないだろう?深淵化持ちの殺し方を」
オールディはバレないように背中に斑点模様を描き、もうすぐ入ってくるであろうジョニーへの対策をする。だが、その数秒間の沈黙がアースに違和感を感じさせてしまった。アースは彼の髪の毛を引っ張り、背中をこちらに向けさせる。予想通り斑模様は突起を覗かせ、木片は抑えきれずアースの右胸に突き刺さる。
「ジョニー!お前はもう避難しろ!」
大声で外に聞こえるようにアースは叫ぶ。オールディの行動から察してジョニーが外にいると勘付いたのだろう。だが、返事もなく、此処に入ってくる様子はない。
「マナを感じるか」
「さあな、少なくともそういう会話をしないと延命できないくらい追いつめられているのか?」
「昔…何度か…目にしたことがある。右胸に『刻』の文字を刻まれた者が…つるぎに纏わせていた。無色透明であろうマナを恒星に似た青色に染めてな。」
とどめを刺そうと近づいたアースの身体に突き刺さる木片を握って腕を膨らませて。
言葉の意味を理解する前に右腕は宙を舞う。淡く青色に光る木片は男の腕を焼き切ったのだ。断面は活火山の地質を描いたような細かい穴や泡が焦げ固まっている。その焦げが深淵化の回復を妨げるのか、アースはすぐさま断面を抉り、してやられたような表情をする。
ルザ先生は濃い赤色の『刻』の文字を右胸に印していた。無理に取り除こうとしたのか、文字のある部分だけ変に古傷が重なっている。今となってはその意味が理解できるが当時は理解できなかった。そして同じく刻印の者が扱うこのエネルギーを僕は羨ましく感じていた。同じようにして腕に力をいれてみたものだ。持たぬ者が見様見真似で行っても結果は知れたことだが。
『刻印』を持つ者だろうが、『覇者の証』を持つ者だろうが、同じく身体に消えぬ文字を宿らせている。片方が忌み嫌われるモノでももう片方が英雄と崇められるモノでも、結局のところは人の領域を超えた力を持つ、強者であることに変わりはしない。
どんな条件を達成して、どんな苦境を超えて、どんな想いを抱いて、得たのかはわからない。ただ一つ、僕は幾つかの未来で手に入れた想いの結晶だ。この力を知らぬという事は前回の終了時点で得たという事だ。どちらにせよ、目論見は当たっていて、次の未来には希望があるだろうという事だけだ。
「こいつがとっておきか?ここの。」
巡り巡る思考をこの言葉に遮られた。アースは嘲るような笑みを浮かべ、手の甲を見せつけて覇者の証について言及する。ある程度存在を知って理解しているから出た言葉なのか、それとも僕がこのエネルギーを使って畳み掛けられた筈の攻撃を一度だけで止めた事を勘違いして一撃必殺だと思ってくれているのだろうか。
「もう消えてるぜ、そのとっておきは」というセリフで後者であることを理解した。有耶無耶にすることは出来たがオールディは含みを持たせ、疑いを乗せる。「再び灯るかもしれない」と。そして今まで我慢し続けた笑い声を、腹の底から解放した。
「まだ延命か?」とアースは言う。その言葉が脳内にこだまする度に邪悪な笑いは零れてくる。
「僕は知りたかったんだ、たった一つだけね。そして得た、確信を。忘れるなよアース。ここが、この会場が、此処が僕のフィールドだってことを」
その言葉を吐くと同時に全身に隙間なく斑点を出現させ、何か行動を起こす間もなく小型の球体はアースの身体に引っ付いて爆発を起こす。一つ一つの威力がとんでもなく大きなわけじゃあなかったが確実に張り付いた部分の肉を抉っていく。物量に回復が追い付かぬまま、アースの身体は陥没だらけになっていた。
「僕は僕の殺し方を考えていたよ。ありとあらゆる可能性を全て考えてね。僕が異常性を感じてからの数十時間。想定通りだっただろう?だが、ここからは違う。…あっと驚かせてやるぜ、特異点アース!!」




