第二章 82 嘘を吐いた自己正義達 3
タイトル統一しました80~89話
「お前が僕を殺せるのかジョニー!」
回復と共に昂った感情を言葉にのせて目の前の大男を煽る。曝け出された両腕の筋肉を覆うように皮膚が伸びて完全に治る前の拳を荒々しく突き出した。勢いは肩を脱臼させる程強く突き上げたつもりなのだが、ジョニーの大きな掌に収まってしまい受け止められる。
「さっきも言ったがよォ…!テメーは触れている面積よりデケェ物を体内に取り入れる事が出来ねェんだ。この攻撃になんの意味があるっつーンだ?」
冷静に拳を包み込むようにしてジョニーの握力で裏拳を砕き、圧力に耐えられずに指の骨が関節を破って皮膚から飛び出してくる。
「熱いんだ。」
オールディはまるで痛みを感じていないかのように懲りずにもう片方の拳も同じように突き上げる。だが結果は全く一緒だった。不要な紙をくしゃくしゃと乱雑に丸めた状態と同じ様にこの両拳の元の形が分からない程歪なものになった。
ジョニーはそのまま掴んだ拳を離すことなく、関節が曲がらない方に力を入れていき、肘を逆に曲げる。腕力だけでオールディの体は宙へ浮き、拳からは勿論、本来曲がる筈のところの皮膚が裂け、そこから血が噴き出してくる。それでも尚、オールディが苦痛に悶える事はなかった。
「熱いけれどそれまでなんだ。」
涼しい顔をして、ジョニーの目を見て淡々と呟いていく。ジョニーも軽蔑するような目で見て「だからなんだ」と右膝を曲げて、首へと標準を合わせる。首を落とした所で殺せるかどうかはやってみなければわからないが、恐らく今出来る攻撃の中で最も有効なのはこれなのだろうと結論付けた。
「僕はこんなに生を願っているのに、体は答えを曖昧にしてくる。深淵化を真に会得するという事は心と体の生への想いを一致させる事なのではないかと考えているんだ。」
「そんな下らない事話してていいのかよォオールディ、これからお前は首を飛ばされるんだぜ」
「試してみろよ。」
オールディは馬鹿にするかのように舌を出してジョニーを挑発する。一瞬だったがその舌先に斑点模様が描かれていたのをジョニーは見逃さなかった。それがなんなのか、全く見当もつかないのだがジョニーは咄嗟に手を放し、顔面を防御する。
予想通りに舌先から一発弾丸が放たれるがジョニーには当たらなかった。が、舌先以外の腹部から出た銃弾の全てをジョニーの身体は受け切ってしまった。オールディとは違って傷が癒されないジョニーにとってかなりのダメージとなる。
ジョニーは最も被弾の多い腹部を抑えながら呼吸を荒くする。そんな様子を見ながらオールディは冷静に話す。
「勘はいいがジョニー、僕の能力の特性を一つ解き明かした程度で全てを知った気になっているとこうなんだよ。僕は全身で攻撃できるんだ。何度も言うがジョニー、そんな僕が『深淵化』と『覇者の証』を手にしたんだ、僕の何処に弱点がある?僕だって首を刎ねられて死ぬかどうかわからないんだ、だから試せるものならジョニー…試してみろよォ!!」
オールディがそう叫ぶ手前、ジョニーはおもむろに煙草を取り出して先端に火を灯す。そしてゆっくりと深く息を吸い込み、煙を吐く。
「そのうち、そうさせてもらうぜ」
そして一度しか吸わなかったその煙草をアルコールの海へと放り、瞬く間に青い炎がオールディへと延びる。それも面白い事にジョニーの向く、オールディとの直線上だけに。
ジョニーは即座に立ち上がり、炎の中へ身を投じ、呆気に取られているオールディに体当たりをして自ら二階から飛び降りる。ジョニーの圧倒的なパワーの拘束力を前に抜け出せることはできなかった。そしてそのままオールディは地面に叩きつけられて頭を強く強打する。後頭部は咲くように割れ、血が零れる。
だが傷口はゆっくりと塞がっていく。全身に潜む無数の細胞一つ一つが生への執着を深く深く、深淵の底から望む限り、身体は生から遠ざかることはない。オールディは依然変わりなく、生を望み、そして未来を手にする。
破壊されたガラスを下敷きにしたオールディは私物化して体の表面上に斑点模様を描く。ジョニーも攻撃を受ける事は分かっていた。だから避けることも出来た筈だが彼はしなかった。細かなガラスがジョニーの筋肉に突き刺さり、鋭いものは貫通していった。
「試すんじゃないのかジョニー」
四股を抑えられ、ガラスを全て撃ち切ったオールディに攻撃手段はない。それなのに余裕を保ち、ジョニーを煽れるのは深淵化の後ろ盾があるからなのだろうか。しかしジョニーもそんな煽りに行動がぶれることはなく、太い二の腕をオールディの喉元に押し付ける。
「鋭い物で切り裂く必要はねェ。力を加えて押し潰し絶つ!!」
ジョニーの考えた面積比による能力の発動条件が正しくあっていた為に腕は私物化しない。だからもうすぐオールディの頭は体から切り離される。なのに僅かに口角を上げて笑ったのは…深淵化を信じているからなのか?…いいや違う。オールディは曖昧な体の答えなんか信用しない。何一つだって信用することはない。
街灯に照らされたオールディの瞳から僅かに反射した上空を飛ぶ物体は、ジョニーの身体を貫通していって斑に赤く色付いたガラスだった。その僅かな輝きをジョニーは見逃さなかった。即座に押さえる腕から掌へずらして首元をとらえたまま地面を擦り、その剛腕を振るい会場の壁に叩きつける。壁は破壊され、血飛沫を上げながら再び会場内へ戻された。
唸り声を上げながらオールディはゆっくりと立ち上がる。突き刺さった木片を体内に取り入れると同時に後方に何者かの存在を感じる。振り向くと同時に鋭い拳が飛んでくる。そのままオールディは地面に叩きつけられる。地に這い、見上げ、其処に立つ者はこの場にいる誰もが知らぬ者だった。
「チェックメイトだ、マイ・オールディ。お前の正義は今夜終わる。」




