第二章 81 嘘を吐いた自己正義達 2
ジョニーは再び攻撃手段について悩むことになった。すぐに傷を修復されてしまっては蓄積することすらままならない。ただでさえ能力の性質上、攻撃手段の少ないオールディ相手だというのに。
ジョニーが舌打ちすると同時にしたの方から爆発音が聞こえる。オールディはその爆発音を聞いて更に口角を上げて笑う。
「どうやらそろそろ終わりらしいね」
オールディの言葉にジョニーは攻撃に備える。しかし決着へと駒を進めたのは全く別の人物だった。ジョニーの身体は後方から飛んできた6つ銃弾が腹を貫いて壁に穴をあけた。心臓は撃たれず致命傷は避けられたがジョニーは膝を付き、腹部を抑えながら汗を流す。
「悪いなジョニー。俺だって生きたいんだ。他人の命を救ってやれるほど俺たちに余裕がないことぐらい知っていただろ?」
「ハープ…」
「お前…!!」
オールディは呆気にとられた様子で、ジョニーは腑に落ちないような視線でシェネントハープに顔を向ける。ジョニーはシェネントハープの苦悩を知っている。自分と同じ罪悪感を抱き続けている事を知っている。だからこそ自分の命を最優先にしたことが信じられなかった。だが、それこそが生物の本質なんだ。結局なところ9割の人間はそういう正常な思考をしている。ジョニーが利口でなかっただけなのだ。
「ハープ…それが…お前の…決断かよォ……」
「やれるだけの事はやるつもりだ。俺にも俺なりの考えがある。」
「…」
ジョニーは瞬時にオールディから弾いた銃を拾い、銃口をオールディに向ける。だが引き金を引く前に手を撃たれ、銃を手放してしまった。放り投げられた銃が地面に落ちると液体音も聞こえる。全くオールディは注目していなかったが地面には一面アルコールで満たされていた。この行動をオールディは純粋に評価する。
「なるほど、気付かなかったよジョニー。最後の抵抗も虚しく残念だったよ。ハープが来なければ僕は殺されていたかもしれなかったのにな。感謝するよシェネントハープ。」
「引導はアンタが渡すべきだ、マイ・オールディ」
「…分かっている。」
オールディは床に落ちた銃を拾ってジョニーの目の前に立ち、頭に銃口を当てる。
「さよならだジョニー。」
そして引き金を引こうと指に力を入れた瞬間オールディは銃を落とす。部屋には3発銃声が反響し、開かれた掌には穴が3つ、底から滴る血液がアルコールと混ざりあっていた。
「悪いね、オールディさん。俺にも俺なりの考えがあるんだよ」
「は…?」
オールディが呆気に取られていると最初に開けた壁の穴が6つの突起となって頭蓋や心臓を貫いていく。ハープは徹底的に残りの銃弾を全てオールディに放ち、残弾分の無数の穴が突起となって集中的に頭を貫き、オールディを無残な姿へと変えていった。
「察してくれて助かったよジョニー」
ハープは小瓶を取り出して中の液体をジョニーの傷口に振りかける。すると傷口はゆっくりと塞がっていく。
「呆気ねェ。」
「……ああ…でもな、こんな極悪野郎にはお似合いな最期だ。」
「…」
ジョニーはただじっと呼吸音も聞こえない死体を睨みその場に佇んでいる。
「何か引っかかるところがあるのか?間違いなく死んでいると思うけどな」
「…そうだな。ティディやピークはどうなってんだ?」
「助っ人さんがやってくれてると思うが…俺は万が一の場合に備えて助けに行くつもりだ。お前はどうする?」
「…俺は…大人しく避難しておく…」
いつもの調子の喋り方じゃないジョニーを見てハープは彼独特の『罪悪感』を察し、軽く別れを告げて部屋を出ていった。そしてジョニーは血液滴るオールディの死体の前でライターを取り出した。
……
燃える様に熱い。全身を駆け巡る液体がマグマの様に僕の身体を焼く。毛細血管は爆発し、生気のない緑色の眼球は深い赤に染まる。いったい何処から湧いてくるのか分からない。だが僕の細胞の深く深く深淵の底からけたたましく生を叫んでいる。
オールディから零れた血液は泡を噴き始め、アルコールと分離して突起を上って体へと戻っていく。そんな異常事態を見てジョニーは一度距離を取る。ここで下手に着火しても能力を発動できる条件を与えるだけだからだ。
「ジョニィィ………ッッ!!!!」
あらゆる感情がその声帯に乗って名を呼んだ。両腕の皮膚は弾け飛び、筋肉が露呈した状態で体を貫く突起を折ろうと力を入れるが突起はビクともしなかった。だがまるでオールディが解除されることを望んでいるかのように、数秒経つと突起は引っ込んでいった。そして風穴だらけのオールディはアルコールの床に無様に落ちる。
両腕が熱い。世界が鈍色に染まっていく。血液がオールディに還る度に沢山の感情が心を突き抜けて声に出ようとしてくる。悲しみ、寂しさ、虚しさ、憂い、喜び…。
ジョニー、どうしてお前はそんなに知りもしない他人の為に行動できるのか。僕と目指すところは一緒なのに何故僕を拒絶して破滅へと向かうのか。正しい筈の道を枝分かれさせ僕を迷わせるように。
ルザ先生、どうしてあなたは私たちを置いて去ってしまったのか。どうしてあなたは僕を救ったのか。僕を延命させて僕に何をさせたかったのか。なぜ僕に喜びと幸せをくれたのか。
メイデイ、どうして無数の分岐の全てを踏みにじってまで弱いままでいたのか。いつも僕と対面した鏡の向こうで僕を睨む。まるでオールディへ変わった僕と変わらない本質の自分を鏡で皮肉っているかのように。そんなお前たちはどうして縋り悲劇の者だと哀れみの目を僕へ向けるのか。
僕はそんな鏡に奥に向かって人差し指を突き立てる。「僕は全て取り零さず完遂するッ!」と叫んで。




