第二章 78 妄想仮想のアンダーワールド 4
後半の回想は73話の続きです。どうしてもアンダーワールドを後から説明つけたかったので73話はあそこで切りました。
「まあ、お前が一斉にこの突起を解除するんじゃなく、一人ずつ解放出来るんならもっと話は早いんだがな。」
「悪いが不可能だね。突起は追加で足せるが解除は全て同時に起こる。」
「…そうか。」
依然アンダーワールドに変わった動きはない。両手の指10本の内、左手の4本以外は全てボロボロになっている。目には見えないが足の指が10本ともそうなっているのならばアンダーワールドが今まで出した人形の数、16体と数が合っている。
そしてアンダーワールドが何故微動だにせずただ黙ってみているのか…その理由が指の回復だとするならこの状態は非常に不味い。もしそうなら深淵化で俺の傷を修復するより優先すべきは回復の阻止になる。
「アンタは喚く方のティディの方を頼む。俺はこの人形どもをやる。」
アースがそう言い両脚に力を込める。その姿を見て準備が整ったのだと察したハープは静かに頷き突起をひっこめた。そして同時にアンダーワールドはこの場にいる人形4体を全て消して両手の内小指以外の指は通常通りに戻る。
「お前それは俺に能力の詳細を教えてるってことと俺の考えを肯定したって事なんだぜ?」
「もうバレてるのなら態々隠す必要もない。それにティディが人形化している以上火以外で仕留める方法はない。細切れになろうと戻せばいいだけだ。足枷なぞこの場に必要ない。」
アンダーワールドは再び指を負傷させ、足の指に隠しているのか既に人形を出しているのかが分からない状態になった。こうなると迂闊に近づくことは出来ずにアースは周りを警戒しながらじりじりと距離を詰めていく。
そんな二人の横でハープはティディの頭を床に固定して銃弾を5発放つ。どうやらアンダーワールドの言葉は嘘ではないらしく、全く隣で起こった出来事に興味を示さない。だがそれが聡いアンダーワールドの唯一のミスだった。
銃弾によって開かれた5つの床の穴は突起となり、ティディの顔面を貫いて天井へ向かって突き抜けていく。そして静寂に包まれたこの空間に強烈な臭いがたち込める。突起を伝って無色透明な液体がティディの綿の身体によく馴染む。
すぐさまアンダーワールドはシェネントハープの背後に人形を出現させ、蹴飛ばそうとするもササクレ立った天井の穴が突起となり、串刺しにされる。その間に銃の引き金は引かれ銃口からわずかに出る炎が瞬く間に液体を燃焼させ、ティディもろとも地面を燃やす。
「ジョニー様様だな、助かるだろ?俺の手伝いはよ。」
だがティディという本来の元凶を殺してしまえば終了するという予想を外してハープは舌打ちをする。逆にアースは上の階にジョニーがいる事実を知り、狼狽える。その二人に対し、しかめっ面のアンダーワールドが指を全て変色させたままこちらの様子を眺めている。
アンダーワールドは炎を恐れ対処方を頭の中で巡らせて、シェネントハープは貫けぬ怪物アンダーワールドの身体にどう着火してやろうか展開を予想する。ただ一人アースはジョニーとオールディが戦っているかもしれない事実を想像し、焦りが膨張していった末の答えが行動に現れた。
アースは突起を伝うアルコールに触れて炎を腕に移す。その一瞬の出来事に面食らったハープは止めることも出来ず、突っ込んでったアースはアンダーワールドに殴りかかる。アースはアースで焦りながらも他の人形を出して背後から襲ってくるだろうとは予測していた。けれど人形が現れたのはアースの背後などではなく、アンダーワールドの背後に現れ、自らの腹に風穴を開け、アースの腹ごと貫いたのだ。
「私は不死身というものを知っている。」
アースの腸の殆どを引きずり出し、血液を多く消費させた所でふと彼はそう言った。
「ひっきりなしにそういう妄想が私に流れ込んできた。四股が吹き飛び、体は穴だらけ、脊椎さえも引き抜かれ、粉微塵になろうとも必ず人の形に人間だったものの欠片が集まってくる。私の無敵を超えていく存在に、私が散々見せられた不死身の像に、苦痛の表情を浮かべる者はいない。」
口と腹の穴から血を噴き出し、苦痛の表情を浮かべるアースにとどめも刺さずにそう冷たく言い放つ。
「心此処に在らずのお前は自然に私たちを格下に見ている。不死身である事に自分を過信して、自分がとても強いものだと勘違いしているから、こんな事態に陥る。さあアース、命の奪い合いにそいつは横柄だと思わないかね」
そうは言いつつもアンダーワールドはその場から一歩も動くことはなかった。だがアースやハープが追撃に備える間もなく変化は起こった。指の先から水分を失ったようにボロボロに朽ちて行き、皮膚上にヒビが入り、関節から崩れていく。そのまま粉末状になったアンダーワールドは熱風に吹かれて炎の中へ消えて行った。
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「なぁ空欄、もし、その感情の増幅が英雄としての覚醒以外に問題があるとすれば何がある?」
屋敷の中へ入ってすぐアースは立ち止まり、億劫そうに問いかけてみた。「ない」と断定したアースが少し経って想いが揺れるのも今迄の経験からくるのだろう。計画通りに進んではいるが全てが想定通りに進んでいる訳でもない。解れなく結んだ紐を見直すことをしなかった事が原因でもう一度やり直す羽目になってはそれこそ本末転倒だ。
[ある。事態が更に厄介になる事が主だが]
複雑な感情が入り混じるアースの質問とは真逆に空欄は嫌な現実を突きつけて来る。感情の増幅に至っては手の施しようがないから余計に厄介なのだ。今回は勿論、失敗したとして次は更にその難易度が上がるためだからだ。
「例えばどんな?現状支障がきたす程これと言って問題点はないんだぜ」
[感情の増幅が、深淵化を筆頭にあらゆる厄介な現象を引き起こすからだ。特に厄介なのがアンダーワールドというものだ。]
「アンダーワールド?」
[戦闘で最も発生しやすく、非常に厄介なものでな。効果は個人によって全く異なるのだが全て一致しているのはもう一人の自分が突如現れることだ。この現象のきっかけが『相違』にある。例の一つをあげるなら…思い描く理想の自分と完膚なきまでに叩きのめされた自分の相違…とか。]
「突如もう一人の自分が現れる…か。」
●人形 1(3)
所有者 ティディ
・体を人形化させ臓器を綿化させ、刺傷や物理攻撃を緩和させることができる。
・弱点は炎であり、焼かれたり、綿を千切られたりするのに弱い。
・能力発動中は綿でうまく口が動かせず独特な喋り方を強いられる。
・綿である間は痛みを感じない。問題は解いた後。
●人形→複製人形 3(3)
所有者 ティディ(アンダーワールド)
ティディが己の理想の姿と現在の自身のギャップに深く打ちのめされてアンダーワールド現象を起こす。そのアンダーワールド現象下で生まれたもう一人の「理想の私」が扱う人形の上位互換の能力。
・最大20体まで人形体の自身を造りだすことが可能。ただし、一体毎に指を傷つける。
・人形が消滅すると指が負傷した状態でもとに戻る。時間が経つにつれて傷は修復され、再度利用可能に。
・修復にかかる時間はおおよそ3時間程。
・理論上20体同時に出すことも可能ではあるが、本体の指全てを欠損した状態にするのは好ましくない。
・非常にシンプルな能力だが、弱点が火しかない上にほぼ無限復活なのでかなり強力。
・悪く言えば火を扱う能力者と対峙した場合は敗北必至。良く言えばそれ以外なら勝利に到達するのも容易。
・本体は人形化か人間か選べるが複製体は必ず人形化された状態になる。
・本体の肉体強化段階がそのまま人形に反映されるので本体が鍛えて居ればいるほど複製も強くなる。




