第二章 68 神の沈む土地
誤字脱字あるかもしれません。
微睡み、心地よく境界線を彷徨いながら荒地を眺めていた。救われてから8年程経過した頃だ。怨念塗れの身体も浄化され、仲間たちと共に天国のような時間を過ごしていた。他人から見れば他愛もない日常なのだろう。だが、僕はその事が如何に幸せであるかを身をもって知っている。
そんな幸せが何時までも続いてくれればよかった。でも幸せは再びなんの前触れもなく過ぎ去ってしまう。僕たちの学び舎に突如として現れた2mを超える筋肉隆々の大男が一瞬にして僕たちを蹴散らした。まだ少年の身体とはいえ熊を相手に出来るアルデルや能力者のチープが居ても一瞬だった。そして大男は一言だけ問う。
「ルーザー・ポールは何処にいる?」
唸り、腹抱え転がるエストの頭を鷲掴み、同じ言葉を繰り返す。
「ルーザー・ポールは何処にいる?」
多分僕らは知っていたとしてもルザ先生の居場所を吐かない。ましてや最も崇拝していたエストが言う訳もなく、唾液を大男に吐いた。だがその唾を大男は避け、そのまま床にこびり付く。
「…もし、お前が…これからルザ先生に…手を出すつもりなら…俺はお前を食い殺す…!骨一つ残らず!!」
エストがそう叫ぶと頭を掴んでいた左腕が吹き飛び、エストは床に落とされる。鈍らのような刃毀れした刀を携えたルザがいつの間にか学び舎の中心に立っていたのだ。だが、落ちた腕は泡立てて再び大男の腕の切断面と結合する。
「O…5…か。」
先生は険しい顔で大男をオーファイブと呼んだ。O5はルザを見るや否や子供達には一切関心を示さなくなり、ルザの方を見てほくそ笑む。
「王が帰還する。記憶を返してもらうか、お前が持っているんだろう?」
「私がか?知らないな、カオスの記憶なんて持ってない」
「真実はお前の記憶に記されてある。口から語るモノに判断はつかない。」
「私を殺すつもりか?笑わせるなよO5。つるぎを持った私に勝てるとでも思っているのか?」
「生憎、私も未だに敗北を経験したことが無い、これまでも、これからもだ。」
その会話が意識が途切れる直前まで聞いていた言葉だった。あれから真っ先に目を覚ましたのは僕が最初で、学び舎は無残にも吹き飛んでいた。そして折れた灯りに照らされたルザ先生の死体が転がっていた。四肢は捥げ、腹部には穴が開き、そこから殆どの内臓が引き出され、頭蓋には穴が開いており、頭の中が空洞である事を灯りが教えてくれる。
咽返る様な臭いに耐え切れず、僅かながら胃に入った食べ物が吐き出され、全身の震えが止まらなかった。状況を理解して凡そ数分後にようやく悲しみの感情が訪れて慟哭する。また僕は何の前触れもなく大切な人を失っていく。唐突に何もかもが奪われていく。
この何もない荒地のど真ん中で少年は喉を壊すほど叫んだ。メイデイの鳴き声が目覚ましとなり、他の子どもたちを目を覚ます。皆、僕と同じような反応をする。だが、ただ一人、エスト・オーバー・クロニクルだけは違った。…激情だ。目を見開いてその眼を血走らせ、爪が拳に食い込み、血を流す。悲しみよりも先に先行した怒りの感情がこの場の全員に伝わってくる。
「超えなければならない」とエストは言った「遥か超越しなければならない」と。
エストの周りの空気は震えていた。大地に怒りが伝わったかのように震え出し、風も怒りに吹き荒れる。まるでこの世界が彼に『同情』しているかの様だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また…嫌な思い出ばかりが蘇る。昨日から急にこんな調子だ。非道に成り切った筈なのに、ジョニーに同情すらしてしまった。あの犬と自分をジョニーに重ねてしまっていた。だから同情してしまったんだ。あの頃の何も救えなかった僕と重ねているから、僕はジョニーが何も救えないことを知っている。
「何故仕留めなかった?」
会場を消化し、戻ってきたディープがそう尋ねる。オールディは答えに迷い、迷った末に甘い答えを出す。
「死んでいい奴じゃない。」
「お前を襲った相手をよく治療出来るな。そいつは危険だぞオールディ。」
「分かってる。拘束して亜人達と共に監禁しておく。だが…ジョニーは次の町で開放するよ。」
「感化されちまったのか?」
「いいや。…ただ、その正義の進路を別の方向に向けて欲しかったからだ。僕もジョニーも…形は違うが同じ正義を貫こうとしているんだ。」
「…そうか、今日はもう遅い。俺が監視するからお前はもう寝ろ。」
「ああ、そうするよ。」
オールディはジョニーを抱え、手錠をして監禁部屋に置く。そして少しジョニーを見つめた後に部屋を後にした。
ジョニーvsオールディの戦闘は粗方最初に行ったのと似ているので省略します。というのを前話のあとがきに書くつもりでした。




