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キルライフ  作者: 沼郎
第2章 嘘を吐いた自己正義達
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第二章 63 yttるymをrld

気分転換にメイデイの過去をかきました。一話分だけなので短いです。


 助けてくれと少年は掠れた声で乞い続けた。腐敗した生ごみが乱雑したレンガの家を去り、家族の帰還を待つことなく、ただ荒野を歩き続けた。食料も水分も取らずただ歩き続けた。ようやくたどり着いた街に、人が行き交うその路の真ん中で叫んでいた。


 小汚いガキがよく遥々ここまでやってきたもんだと誰も目もくれなかった少年におじさんは声を掛ける。少年は綺麗な瞳をそのおじさんに向けた。だがその瞳は少年がかつて見てきた瞳とは異なるものだった。


「いいところの出身なんだろう。その服。窶れた顔をしたって無駄なんだよ、ここはな、ここの住民はな。みんな地獄の音を聞きながら生きてきたんだ。無音の死に挟まれてな、文字通り。」


「おそわれたんです。父と母はさらわれてしまってもう3日もしょくりょうを口にしてません」


「ははは、流暢に言葉も話せていいな。散々与えてもらったんだろう、人の温もりも。これ以上生にしがみ付いて何を望むんだ?もう運命に逆らわずに土に還るんだな。こうして幸福だった奴が死に絶えると気分がいいんだよな。それだけで俺たちは報われる」


 高笑いしながらおじさんは少年に唾液を吐きかけると「水くらいならくれてやるよ」と言い去っていった。少年はその唾液を見つめながら舌を伸ばす。周りの人々はそんな少年を見ながら小ばかにするように笑っていた。


 少年は悔しさの感情と憎たらしい感情を学んだ。少年は喉を鳴らし、また両手を合わせ恥知らずに乞い始める。だがしかし乞うているだけでは笑いものにされるだけで何も貰えないと理解してから少年は行動を変えた。ここの街の人は賊に怯えながら暮らしているが故に常に腹を立てていた。少年も何度か暴行を受けたことがあり、暴行が終わった後の瞳が良く知る大人の瞳だったので少年はこれを利用した。


 自分が殴られサンドバッグになる代わりに食料を幾つか恵んでもらうという交換条件だ。早速行動にも移した。だが…現実はそう簡単ではなく、逆に殴ってもよいという話だけが一人歩きして、町中の殴られ役になってしまった。


 そうして町で怯えながら生きていくのもその日の早朝が最後となった。生をつなぐために行っていた盗みがバレたのだ。赤い果実を口いっぱいに頬張っていたところに少年を暴行しようと捜索していた人に見つかったのだ。少年は殆どの町人から集団リンチに会い、ボロボロの身体で街を追い出された。


 丸一日、苦痛を味わった。屈辱も味わった。この時初めて少年は“死”を望んだ。


 そんな少年に同情するかの如く、大雨が降った。荒野で寝ころび、雨雲を虚ろに見ていた少年の体温を奪い、雨は降り続けた。


「おかあさん」


 久しぶりに助けてという言葉のほかに口にしたと思う。続けて「おとうさん」とも涙も流せず擦れた声で叫び、雨音に掻き消された。


「いやだ!!いやだよ…!!」


 手足の感覚が鈍く、痛覚が失われていくたびに消えてしまうことが恐ろしくなってしまい、生きて居たくないのに死にたくない。少年は心の底から助けを求めた。心から死を拒絶した。その拒絶を叫び続けて徐々に薄れゆく意識の中、少年は微かな温もりを感じた。


 目が覚めると雲間を裂いて太陽が少年を照らしていた。少年は上半身を起こし、ボロボロに濡れたシャツを脱ぎ捨てた。その少年の隣には1匹の犬が横で寝ていた。あの温もりはこの犬だったのだろうか。少年はそんなことを考える前に同じく痩せ細った犬の身体を抱きしめた。相変わらず涙は出なかったが髪から滴る雨水の雫が目に入り頬を伝った。


 それからの少年はより一層生へしがみ付いた。別の町へ向かい、荒野を歩き続けた。賊と同じ道を辿らぬように荒野を走る獣を狩って飢えを凌いだ。そして生活の自立を目標にして村での仕事を請け負えるように体力をつけ始めた。


 そんな矢先だった。賊によって村は襲われたようだった。丁度二人が狩りに出かけていたところだった。住居は破壊され、食料は疎か村人も殆どが殺されていた。死体が見当たらなかったのは女子供だけだった。不幸中の幸いと言うのには余りにも不幸が多すぎるのではないか。だが少年は拳に爪を食いこませながら泣くことはなかった。


 少年たちは次への村へと歩き出した。ずっとずぅーっと北の方へ歩き続けた。村で見た地図には北の方に大きな町がたくさんあったからだ。でも村も獲物にもそれ以降出会うことはなかった。日照り、渇きと共にあるはずだとそれでも北に向かい続けた。


 7日は歩いたと思う。少年は酷使した足から血を流し、犬は飢えから肋骨が浮き出る程まで痩せ細った。二人とも限界だった。犬が荒野に倒れた時にそれは身をもって感じた。犬が倒れると少年も立ち止まり、一度止めた足が再び前へ出ることはない。少年は声も出せずに犬を抱きかかえた。


 そして少年は犬の首元に噛み付いた。犬は痛みに鳴くことはなかった。抵抗できる気力もなかったのか将又それを望んだのかは知らないが、ただその犬は良く知っている大人の瞳、父や母のような優しい瞳を少年に向けていた。その眼は少年の生への執着をより加速させた。


 枯れた筈の涙を流しながら臓物に貪りついた。唸り声を上げながら血肉を喰らった。


 大人たちは旧世界を憎んでいる。

 大人たちは賊が襲う負の連鎖を悔やんでいる。

 大人たちはこの少年が抱く底知れぬ混沌たる感情に恐怖している。


 少年はひたすら涙を流し続けた。犬の骨も筋肉も脳も心臓も内臓全て喰らいつくした。少年は少年を救ってくれた者を、寄り添ってくれた者の命を喰らったのだ。そうしてまで生き永らえたかったのだ。そして生を続ける為に北へ北へと進み続ける。


 だが少年は結局たどり着くことも出来ずに照り付ける炎天下の荒野の上で無様に転び、歩くことの出来なくなった自分を憎み、空気を歪ませるような声量で奇声を上げる。そして声が枯れると情けなく助けてくれと擦れた声で呟き、もう意識が途絶えそうになった所である老人の目にとまった。


「人はあらゆる“セイ”に振り回されて生きていくものだ。君もそうだったのだろう。」


 老人は少年に手を差し伸べた。そんな老人が、少年には神のように見えたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうしたオールディ?考え事か?」


「ああいや…。昔の事を思い出してさ」


「昔?」


「…気にするな」


 オールディは椅子から立ち上がり、亜人達が下を向く部屋から出ていった。

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