第二章 62 ボルボロスの辿る道
会話ばっかり
「そういえば先程言った作戦の内容はチールさんに話してあるんですか?」
部屋に戻るや否なウィーズにそう問われる。この場でもう一度説明してもいいのだろうが、もともとステンレスとは個別に話したいことが山ほどあった。だからこそ俺は事務所で落ち合うように生前言ったはずなのだ。事務所にこれなかった理由が遡行時期のずれによるものかはわからないがその点も聞いておきたい。
「もちろん話してあるよ。何度も言うが俺たちの最後の切り札がウィーズ、君なんだ。死を超え縋り這い、辿り着いた最後の砦なんだよウィーズ。勿論丸投げするつもりもない。集めうる全ての人員を動員している。ス…チールはその一人です。」
なるほどと頷くウィーズの様子を見てステンレスはアースの耳元で文句を言う。
『何故偶々妹の様子を見に来て事件に巻き込まれる可哀そうな人物として紹介しなかった!?最も戦闘に不向きな能力だと言っただろ!?』
『なにも敵はボルボロスの連中だけじゃねえ。ある連中との戦闘にお前の力を借りたい。それにお前のあの不死性に気になる点…心当たりがあるからな』
『…』
小声で喋るアースの言葉を聞くとステンレスは咳払いをして服装を整える。そして背筋を伸ばしてウィーズに会釈をする。
「…ではウィーズ、私はこれで。また全員集まった際に顔を出しますね」
「はい、またお会いしましょうチールさん」
礼をして出ていくステンレスの後にアースが付き、扉の前に立ち、ウィーズに見送りだけしてくると伝え
部屋を出る。二人はそのまま暫く無言のまま廊下を歩き、玄関口を通って屋敷の外に出て初めて深い呼吸をする。
「はぁ…まあ俺は一文無しなんだ。夕暮れ時だが人があんまいないとこのベンチでいいか?」
「…ああ、別にどこでもいいよ」
アースは一番最初に徒歩で東の王都にたどり着き、休憩をしたあのベンチに座り、再び深呼吸をしてから言葉を吐く。
「なぜ約束を破った?」
「…回りくどい言い方をするな。それじゃあまるでとんでもないことをやらかした様に聞こえるだろ?正しくいうなら「なぜ約束通り事務所で俺と対面しなかった?」だろ?もっとも、お前は約束自体忘れてたみたいだけどな」
「問いの意味が分かってんなら言えよ」
「さっきも言ったけど。ステラに自分の兄がステンレス…つまり祖の神だということを悟られたくなかった。」
「それだけか?」
「それだけだ。ステラは察しがいい。こうやって顔を変えていても事務所でアースに事を説明している間に勘付かれる可能性があった。そういう点ではお前の言う『大事なのはステラの安否だけでこの国の事なぞ二の次三の次』ってのは正しいかもしれないけどな。」
「…だからステラが離れた時に見計らって現れたと?」
「そうだ。それに俺はステラの前では無能力者なんだ。悟られるような派手なことは出来ない。」
「まあ俺もそこの所で話があった。お前…ある程度簡易的な位置情報を知る能力も持っているだろ?爆発を扱う能力は使用せずともそれを使うことは出来ないか?」
「あの能力か?使えるが…お前も身をもって体験した通り敵味方問わずに三半規管にダメージを与える。タイミング次第では相当不利になるぞ?」
「構わない。お前には伝えてなかったと思うがボルボロス達を相手するほかに拉致された亜人達の救出も同時進行に行わなければならない。今回人員が欲しいのはそっちの救出に人手が欲しい、その上万が一明日の避難勧告を受け入れなかった人たちの避難にもかなりの人手がいる。不安要素はいっぱいあるんだ。だからこそ救出や避難は何処に人がいるかを素早く見分け、迅速に救助を行うってことが必須になる。」
「…なるほどな。ボルボロスとの戦闘は町中が地獄絵図だと予想して」
「それもあるんだが、話を聞く限りウィーズ一人で対処できるような相手ではないと思っている。だから俺も素早くオールディ達と決着をつけて叩ける全ての人間でボルボロスと戦う。勿論相対できる最低限の戦闘力を備えている人物たちがメインだが」
「その亜人拉致してる連中の規模は?強さはどうなんだ?」
「少なくとも3人はいる。まあ間違いなく亜人の人数から察するにそれ以上いるだろうけどな。分からない分なんとも言えないが厄介なのがマイ・オールディというボス格だ。こいつは俺が直接対決する。人数次第では俺と犯罪組織にいるスパイと組んで制圧するが。」
「そういう話なら今、音探知を使おうか?人数はすぐ割れるぞ。」
「俺もそうした方がいいと考えたのだが…外に出歩いている奴もいるし…もしちょっとでも異変を感じたら逃走するかもしれない。人数を割るのはあくまで当日だ。」
「その理論でいくなら避難勧告を出すのは不可能ってもんだぜ?サイレントでアジトだけオフにしても出歩いている奴がいるなら避難勧告なんか出せやしない。」
「予め不穏な空気を醸し出して一軒一軒回るか手紙を出すしかないだろうな。まあこれはとりあえずこれは今の意見だ。今夜皆を集めてそういう細かなことも作戦会議をする。それには勿論お前も出てくれ。」
「ああ、分かった。だが…ステラにはどう説明する?」
「ステンレスと戦った際に手助けしてくれて命を救ってくれた恩人…の設定でいくか。そうすりゃどうにかなるだろ」
「…まあ大丈夫か。よし、じゃあまた数時間後に会おうな。」
そう言って立ち上がろうとするステンレスの肩を押さえ座らせる。
「待て、お前はボルボロスの存在を知れるか?近づいた際に気配とか…存在を感じることはあるか?」
「ああ、同じ波動のようなものを感じることは出来る。だが精々半径300m範囲内だ。中央に俺が立っていたとして感知できるのは街に入ってからということになる。」
「…そうか、分かった。引き留めて悪かったな」
「…ああ、俺からも一ついいか?」
「なんだ」
「どうして俺を信用してくれた。」
「何かの為に必死になっている眼孔を俺は何度も見てきた。お前もステラの生死に必死になっていた。ただそれを感じ取った、それまでだ。」
それを聞くとそうかとだけ呟いてゆっくりと立ちあがる。アースも同時に立ち上がり、ステンレスの耳元で何かを指示するとステンレスは暗い顔をした。
アースと共に大通りに出るとステンレスは屋敷とは反対方向へと歩き出す。その場に留まったアースはその姿の奥、王都の入り口からわずかに見える平野を見たままその場に立ち尽くした。




